「ねえ――ま、待って。……待って、雨竜くん。お願い……!」
 男の子って、どうしてみんな、こうなのかな。
 いつもはひどく不機嫌そうで、口をきくのもうざったいって顔して。わたしのことなんか、見ようともしないくせに。
 自分に関わろうとするもの全部が大きらい。近づくものはみんな、睨むだけではじき飛ばしてやりたい。そんな、棘だらけの視線
(め)をして。
 わたしのことも、誰のことも、生きてる人間なんか一人も視界に入らないってふりをするくせに。
「ねえ――ま、待って。……待って、雨竜くん。お願い……!」
 がらんとした教室に、わたしの声だけが響く。
 放課後、誰もいなくなった教室はひどくがらんとして、いつもよりずっと広く、暗く見える。
 薄暗がりのそこここに、昼間、ここではしゃいでたクラスメイトたちのにぎやかな声がひそんでいそう。
 なのに……わたし。
「や……っ! い、いや、こんなの……。羞しいよ……っ!!」
 思わず両手で顔をおおう。
 ばかみたい。そんなことしたって、隠せるものなんか、もうなにもないのに。
 授業中、教科書やノートを広げてた、机。休み時間にはスナックフードなんかひろげて、たつきちゃんとか、千鶴ちゃんや鈴ちゃんや、みんなで他愛のないおしゃべりしてた、その机の上に。
「ほら。足を閉じちゃだめだよ」
 優しい、けれどけして逆らうことを許さない声が、残酷な命令をくだす。
 わたしがその命令に従えずにいると、雨竜くんはいきなりわたしの両膝に手をかけて、強引に開かせた。眉ひとつ動かさず、ひどく淡々とした動作で。
 けして乱暴ではないけれど、絶対に逆らうことを許さない、そのしぐさ。
「あ、あ……っ!!」
 紅くうるんだ部分が、雨竜くんの前にさらけ出される。
 ブラウスもスカートもみんな剥ぎ取られて。残っているのはソックスと制服のリボンだけ。
 全部はだかになるよりも、わずかな飾りが残っている分、よけい淫らに思える。
 学期末のテストが近いこの時期、放課後、遅くまで校内に残る生徒はほとんどいない。日中はあれほど騒がしかったこの教室も、授業が終わるとまるで汐が引くように生徒たちの姿はなくなり、しんと静まり返ってしまった。
 そんなもの淋しい教室に、わたしと彼だけが残ったのは――たぶん、偶然。
 そんな約束、してないし。雨竜くんだってそんなそぶり、かけらも見せなかった。
 無論、わたしだって。
 こんなことするつもり、全然なかったんだから。
 それでも、ふと顔をあげて。
 ……あ、雨竜くんとふたりきりなんだ。
 そう思ってしまったら。
 わたしを抱きしめる強い腕を、拒むことができなかった。
 いつ、誰が来るかもわからない、教室で。いつも自分が使ってる机の上に座って。
 わたしは彼に命じられるまま、すべての秘密をさらけだしている。
 見られてる。そう思うだけで、頭の芯までずきんと疼くような快感が走り抜ける。
 雨竜くんの長い指が、からかうみたいにそこを撫でる。それだけで、もう声が抑えきれない。
「あっ! あ、や……っ! や、やめて、雨竜くんっ! やめて、も、ぉ……っ!!」
「どうして?」
 わかりきっていることを、雨竜くんはわざとわたしに訊ねてくる。
 いつもは絶対、こんな意地悪しないのに。雨竜くんは優しくて、物静かで、少し不器用で言葉が少なすぎるけど、でも、女の子を傷つけるような人じゃない。
 なのに――こんな時だけ、雨竜くんは、ひどく意地悪になる。
「だ、だって……っ。だって、だ、誰か、来ちゃったら……っ!」
「そうだね」
 いきなり、長い指がわたしの中に突き立てられた。
「ひぁッ!!」
 目の前に真っ赤な火花が散るみたい。
 強く無慈悲な指先が、容赦なくわたしをかき乱す。あふれ出す蜜をかき出すように、濡れそぼる小さな泉を抉り、押しひろげ、淫らな音をたてて責めたてる。
「誰も来ないうちに、早く終わらせないとね」
「なっ……! あ、あ――いやああ……っ!!」
 雨竜くんが、そっと耳もとにキスをする。
「嫌? 本当に?」
 優しい、低い声。聞いた瞬間、ぞくっと戦慄が走る。まるで甘いお酒のように、わたしの聴覚にそそぎ込まれる。わたしの神経に忍び込み、すべて麻痺させてしまう。
「だって、ほら。ここ、こんなに濡れてるよ。僕の指までぐちょぐちょだ」
「い、いやああ……っ。そんなこと、言わないで……っ」
 わたしは泣きじゃくった。
「どうしたいの? このまま止めてもいいの?」
 雨竜くんは、しとどに濡れた指で、わたしの肌をすうっとなぞる。軟体動物が這ったみたいに、透明な痕がわたしの腿に、ウエストに、描かれる。
 そんなわずかな刺激にも、全身が総毛立つようなふるえが走る。
「あ、いや、いやぁ……いやあ……っ」
 わたしはただ、壊れた人形みたいに首を振り続けるしかなかった。
「そう。じゃあやっぱり、早く終わらせないとね。誰にも見つからないうちに」
 雨竜くんはわたしを、机の上から抱き降ろそうとした。
 わたしはもう、自分の足で立っていることすらできない。雨竜くんの腕にすがりついて。
「……お願い――」
「え?」
「メガネ……。メガネ、はずして……」
「眼鏡?」
 雨竜くんは一瞬、戸惑う様子を見せた。
 けれどすぐに、自分の手で眼鏡を外してくれる。
 だからといって、わたしの秘密が彼に見えなくなったわけでも、なんでもないけど。
「ああ、そうか」
 ふと、雨竜くんがつぶやいた。
「はずしたほうが、キスしやすいよね」
 熱く、融けるようなキス。わたしの奥深くまで侵入し、容赦なくかき乱す。わたしのすべてを支配する。もうなにも考えられない。
 机にぺったりと胸をつけ、お尻だけを高く突き出すような淫らな格好で、わたしは雨竜くんを受け入れる。
「あ――あ、あ……あーっ!!」
 高い嬌声をあげ、わたしは全身をのけ反らせた。
「織姫。織姫……おりひめ……っ!」
 雨竜くんは全身をたたきつけるような激しさで、わたしを突き上げる。
 わたしは自分から両脚を開き、雨竜くんを迎え入れる。その激しさに合わせて淫らにからだを揺らし、悦楽をむさぼる。
「ああぁっ! あ、い――悦いっ! いい、いいの、雨竜く、う……ッ!!」
「好きだよ。織姫……織姫――!」
 もはやなんの意味もなく、ただお互いの名前だけをすすり泣くように呼び交わして。
 そしてわたしたちは、奈落の底のような快楽の中に堕ちていった。
















                               はい、オマケでした。お粗末!   目次までお戻りやす♪
 実はこれの前に、別のSSをおまけとしてつけといたんですが、どうもそっちが気に入らなかったので、書き直しちゃいました。旧作はこちら
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