「あっ、あ……いやあっ! いやぁ、兄さま、やめ……ひああァッ!!」
 暗く高い天井に、悲痛な声が響き渡った。
「やめてっ! やめて、いやあ、それは――だ、だめええッ!」

 ククールは全裸で、団長室の大きく堅牢な執務机の上に、まるでこれから皮革
(かわ)をはがれるけもののように突っ伏していた。
 両腕はひとまとめに掴まれて頭上で押さえつけられ、脚の間には硬い膝が割り込んで閉じることを許さない。上半身を冷たい机の上にべたりと押しつけ、濡れた秘花を背後へ突き出すような淫らな姿だった。
 マルチェロはボタンひとつ弛めていない。腰には聖堂騎士の細剣
(レイピア)を吊り、手袋さえつけたままだ。その左手でククールを押さえつけ、右手で蜜をしたたらせた花びらを容赦なく責める。
「あ、に、兄さま……っ! お願い、手袋
(グラブ)――手袋、外してえっ!!」
 上質のラムのバックスキンは、ククールの蜜を吸い込んで指先の部分が変色している。
 そうやって蜜を吸い取られてしまった秘花は潤滑剤を失い、ざらついたバックスキンにこすられると熱く軋むような痛みが走った。
 人の肌とはまったく違うその感触に、ククールは悲鳴をあげる。
「い、痛い……っ! 攣れちゃう、そこ……あ、あっ、痛いぃ……っ!」
 苦痛にすすり泣く声は、けれどそれ以上に爛れるような快楽を訴えていた。
 マルチェロは唇の端を歪め、冷酷に笑った。
 革手袋に包まれた指が、二本揃えて根元までねじ込まれる。
「ひいいぃっ!!」
 分厚い皮革に包まれて、容積を増した指。バックスキンはざらざらとデリケートな内襞をこすり、巻き込んでいく。さらに空いた親指が、花びらの奥に隠れた快楽の真珠を無惨に押し潰した。
 狭い肉が無理やりこじ開けられ、引き毟られる。硬い指がククールの中で無慈悲に屈伸し、過敏な内襞を容赦なく抉った。目の前が真っ赤に染まり、全身ががくがくと痙攣した。
「ああああぁッ……!!」
 涙に濡れたアイスブルーの瞳が、焦点を無くして大きく見開かれる。
 白い身体を三日月のようにのけ反らせて、ククールは最初の絶頂に駆け上がった。
「雌犬が」
 マルチェロは吐き捨てるように言った。
「お前のせいで、おろしたての手袋が台無しだ」
 ククールを押さえつけていた手を離し、マルチェロは手袋を外した。指の部分が変色してしまった手袋を脱ぎ捨て、暖炉の炎の中へ放り捨てる。
 手袋はぶすぶすと黒い煙を上げながら、燃え尽きていった。
 支えをなくしたククールは、自分の脚で立っていることもできず、そのままずるずると床に崩れ落ちそうになった。意識もほとんど飛びかけている。
「立て!」
 マルチェロはその腕を掴んだ。力の抜けきった白い身体を、無理やり引きずり起こす。
「あっ……。や、あ――い、痛い……っ」
 マルチェロはそのまま、衝立の裏までククールを引きずっていった。衝立の陰にある質素なベッドの上に、ククールの身体を放り出す。
 ククールはすべて、異母兄のなすがままになっていた。洗い晒しのシーツの上にどさりと放り出されると、そのまま身動きもできなかった。
 かちゃり、と、小さな金属音が耳に届く。マルチェロが剣帯のバックルを外しているのだ。
 快楽にけぶった視界の端を、ぱさりと蒼い色がよぎる。騎士団長の隊服だ。たたまれもせず、衝立に引っ掛けられる。
「に……兄さま――」
 マルチェロの裸身が見たい。彫像のように美しいその身体を、この眼で見て、触りたい。けれどククールの身体はわずかに痙攣するだけで、起き上がるどころか、指一本動かせなかった。
 そのまま、無意識の暗闇に堕ちてしまいそうになった時。
 強靱な腕が、乱暴にククールを抱き起こした。細い腰を高く持ち上げさせられ、這わされる。まるで発情した雌猫のようだ。
 そして背後から、猛々しく張りつめた欲望がククールの中へねじ込まれた。
「あァーッ!!」
 甲高い悲鳴が響いた。
「あっ、あ、いや、あ……あーっ! いやぁ、だめ、兄さま――兄さまああっ!!」
 ククールは小さな子供のように泣きじゃくった。
 背中に密着する、マルチェロの肌。その熱さが、ククールを焼き尽くす。身体の芯に打ち込まれた灼熱の塊が、身も心もずたずたに引き裂いていくようだ。
 どんなにもがいても、背後から突き上げる猛々しい熱はその勢いを弛めはしない。むしろさらに激しく、容赦なく、ククールを犯す。根元まで一気に突き入れられ、引き抜かれる。そしてまた最奥を打ち抜かれるように、貫きとおされる。
 うなじに、耳元に、熱い舌が這う。狂おしげな息づかいが聞こえる。小振りな乳房を大きな手が鷲掴みにし、乱暴にもみしだく。
 熱い蜜がほとばしった。マルチェロが動くたびに、ぐちゅ、ぐちゅうっ、と、淫らに粘ついた水音が響く。快楽の雫はあとからあとから溢れ出し、二人つながり合う部分を濡らしていく。
「あぅ、う……っ、兄さま、あ――は、あぁ……っ」
 シーツに突っ伏し、腰だけを高くマルチェロに差し出したような姿勢で、ククールは淫らにあえぎ続けた。マルチェロの律動に合わせ、まろやかな尻が揺れ動く。
「何度、達った?」
 ククールの腕をつかみ、背中を反らせるように無理やり引き起こして、マルチェロがささやく。涙に濡れた目元に、熱い舌が這った。
「いい締まりだ。手当たり次第に男を銜え込んでいる淫売とは思えんな。あの男も、さぞかし悦んだだろう。この淫乱な穴で、何度あの男を悦ばせてやったんだ?」
「な、なにを、兄さま……っ」
「答えろ! あの男に抱かれて、何度達ったんだ、淫売ッ!!」
「い、いって……な、あ……っ」
 ククールは力なく首を横に振った。
「いってない……っ! いけない、いけないの――兄さまじゃなきゃ、いけないっ!!」
「ククール――」
 不自由な姿勢から懸命に身をよじり、ククールはマルチェロの頬に自分の頬をすり寄せた。異母兄の首に腕を絡め、接吻を求める。
「い、いかせて……いかせて、兄さま! お願い、いかせてぇっ!!」
 唇が重なった。
 蕩ける舌先を絡ませて、互いを貪り合う。
 つながった身体を一旦ほどき、二人は互いに向かい合う形でもう一度いだき合った。
「あっ、あ……ああぁッ!!」
 高く、ククールは鳴いた。
 膝が胸元につくほど深く折り曲げさせられ、マルチェロを受け入れる。呼吸も停まりそうな苦痛と衝撃、そしてそれをはるかに上回る快感とが全身を貫いていく。
「ああっ! あ、に、兄さまっ! 兄さま、あ――いいっ! 悦い、にいさまぁっ!」
 異母兄を呼びながら、泣きじゃくる。
「だ、だめなのっ! 兄さまじゃなきゃ、だめぇっ! あっ、い――に、兄さま、兄さまだけなのぉっ!」
「ククール――!」
「い、いくぅっ! いっちゃう、もう……あ、アッ! ひあああッ!!」
 最初の絶頂がククールの身体を突き抜けた。
 その余韻にわななく身体を、マルチェロはさらに容赦なく責める。自らの欲望をねじ込んだ部分に、さらに指をかけ、紅く濡れた花芯を惨く押し拉ぐ。
「いやあああぁーッ!!」
 白い身体が弓なりにのけ反り、がくがくと痙攣した。
 激しい絶頂が、何度も何度も身体の芯を突き抜けていく。目の前に真っ赤な火花が散り、マルチェロに突き上げられるたび、全身がばらばらに砕けてしまいそうだ。
「いやああっ! も、もぉ、……もぉ、だめえっ! 兄さま、おねが……あ、あ――あーっ!!」
 ――兄さまだけ。
 この身体も、魂も、ただ一人の男のものなのに。
 なにもいらない。鼓動も停まりそうなこの抱擁と、身体の芯まで犯していくこの歓喜とがあれば、他になにもいらない。
 未来も、幸福も、安らぎも。なんにも、いらない。
 ただ、貴方がいれば。
 ――なのに、どうして。
「好き……っ! 大好き、兄さま……あ、あ――っ。兄さまあ……っ!」
 かすれる声で懸命に訴えても、それに応じてくれる言葉は何もなかった。
 ククールは全身でマルチェロにすがりついた。
「お願い、もう……っ! もう、死なせて……死なせてっ!」
 自分がなにを言っているのかも、もうわからない。ただこのまま、すべてが崩壊してしまえばいいと思う。二人つながり合ったまま、なにもかもがなくなってしまえばいい、と。
「死んで――。兄さま、おねがい……い、いっしょに、死んで……っ!」
「ククール――!」
 マルチェロの唇が、ククールのそれを覆う。もうこれ以上、なんの言葉も聞きたくないとでも言うように。深く唇を合わせ、舌をきつく絡ませて、その口中を容赦なく犯す。
「ん、んう、うぅーっ!!」
 上も下も、すべてがマルチェロを受け入れている。身体中、髪一筋の隙間もなく、すべてがマルチェロに埋め尽くされている。
 逃れられない。なにもかもが、この男に支配され、貪られ、奪い尽くされている。生きることも死ぬことも、すべてこの男の手の上にあるのだ。
 けれどそれこそが、ククールの願いだった。
 お願い、名前を――私の名前を、呼んで。
 汚れて、傷ついて、羽根もなくしたこの身でも、それでもまだ、貴方が私を欲しいと思ってくださるのなら。
「あっ、あ……兄さまあ――っ」
 そしてククールは、最後の意識を手放した。






 ふと気づくと、どこかで鐘が鳴っていた。
 騎士団に起床時間を告げる鐘だ。間もなく朝課と鍛錬が始まる。
「起きろ」
 冷たい声が響いた。
 ククールはのろのろと上半身を起こした。
 美しいプラチナブロンドはくしゃくしゃに乱れ、毛先のほうにだらしなく黒いリボンがひっかかっている。白い身体には、無数に惨い愛撫の痕が刻みつけられていた。
 その裸身の上に、ばさりと紅い隊服が投げつけられる。
「さっさと着ろ」
 ククールは顔もあげず、ひどく緩慢な動作で自分の隊服を拾い集めた。
 一晩中、惨く苛まれた身体は、まるで鉛を流し込まれたようにひどく重い。わずかに身動きするだけで、あちこちの関節が悲鳴をあげる。
 マルチェロはすでに、完璧に身支度を整えていた。髪ひとすじの乱れもなく、腰の剣に手をかけたその姿は、騎士団の規律と尊厳がそのまま人の姿になって現れたかのようだ。ククールは一瞬、すべてを忘れて異母兄の姿に見惚れた。
「いつまでここに居るつもりだ。出ていけ」
 ククールのほうなど一顧だにせず、マルチェロは冷徹に言った。
「はい……」
 どうにか隊服を着込むと、ククールは脚を引きずるようにして、扉へ向かった。
 誰にも見咎められないうちに、早く団長室を立ち去らなければ。自分たちが血のつながった兄妹であることはオディロ院長しか知らないことだし、自分には、男と一晩過ごしたからと言って今さら傷つくような評判などとっくになくなっている。が、厳格な騎士団長の名に傷を残したくはない。
「……なに、気遣ってんだか」
 ここまで惨く、扱われているのに。
 ククールは唇を歪めるようにして、自嘲した。
 異母兄は、自分に対して家族の情愛など欠片も持っていない。同じ人間とも思っていないだろう。彼にとって自分は、ただの玩具だ。
 この男は、ククールのことなどまったく見ていない。……彼がいったい何を見ているのか、知っている人間はおそらく誰もいないだろう。
 マルチェロは、絶対に自分自身を他人に明かそうとしない。
 ――ねえ、あんた、いったいどこを見ているの? なにを得ようというの、たった独りで。いったいなにが、そんなにも貴方を駆り立てるの。
 ククールの問いかけすら、マルチェロの心には届かないだろう。
 まったく、嗤ってしまう。報われもせず、実りもない、こんな虚しい想いに、自分は必死にしがみついている。これほど残酷な相手に、一瞬の笑みを、わずかひとかけらの愛情を乞うて、飼い犬のように媚びている。異母兄はこんな自分を、無様だとさぞかしあざ笑っていることだろう。
 ――それでも。
「団長殿」
 窓辺に立つマルチェロに、ククールは近づいた。
 そしていきなり、その首にしがみついて、唇を重ねる。
「――ッ!」
 抱きしめた身体が、一瞬びくっと強張るのがわかる。フォレストグリーンの瞳が驚愕に見開かれ、ククールを映す。異母妹の突飛な行動に、庶兄が動揺を隠しきれずにいるのが、面白く、そして嬉しかった。
「オレ、またやるぜ」
 わずかに唇を離し、ククールはささやいた。互いの唇が触れ合うほど近くで。
「団員でも、巡礼に来た修道僧でも、片っ端から誘惑して、馬小屋に引きずり込んでやる」
「なにを、貴様――!」
「そしたらあんた、またオレのこと、折檻してくれるんだろ?」
 ククールは片膝をマルチェロの膝の間に割り込ませた。太腿をぐいとマルチェロの下肢に押しつける。
「あんたの、コレでさ」
 そしてククールは、にやりと笑った。
「忘れないでよ、兄さま。オレ、あんたのコレでないと、イケないんだからさ」
 ――あんたが、そうしたんだ。
 貴方がいないと、生きていけない。
 貴方に縛り付けられている。この身体も、魂も。
 愛してくれなんて、言わない。そんなこと、望んでも無理だとわかっているから。
 だから、見て。せめて貴方のその瞳に、もっと、ずっと、私を映していて。
 マルチェロが手をあげ、突き飛ばそうとするより一瞬早く、ククールは自分からぱっと飛び退いた。
「聖堂騎士団員、ククール。本日は体調不良のため、通常聖務と鍛錬を欠席させていただきます」
 かつん、とブーツのかかとを鳴らして、ククールは騎士団式の敬礼をした。
「……勝手にしろ!」
 苛立たしそうに、マルチェロが吐き捨てる。
 ククールは、彼に気づかれないようそっと、微笑んだ。
 久しぶりに、兄の素顔を見たような気がした。すべての感情を押し殺した、有能で計算高い騎士団長の顔ではなく、本来の異母兄の表情を。
「それでは、おやすみなさい。団長閣下」
 そしてククールは、無人の廊下へ飛び出していった。







この頁の背景画像は「万華鏡」様よりお借りしました。     ACK
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