どうしてこんなことになったんだろう。
 両眼をふさぐ黒いリボンは、涙を吸って、くしゃくしゃに縒
(よ)れてしまった。それでもまだ、外してもらえない。縛られた手首も、痺れたようになって、もう感覚がなくなっている。きっと皮膚が傷ついて、血がにじんでいるはず。
 でも、そんな痛みなんて、まるで感じない。
「もっと舌を使って。奥まで咥えるんだ」
 冷たい声が命令する。
 私は逆らうこともできず、命じられるまま、熱くそそり立つ月
(ライト)のものを口に含んだ。
 猛々しく膨れあがった月の欲望は、激しく脈打ち、まるで違う生き物のよう。目隠しされ、両手を縛られた不自由な状態では、口に含むことすらままならない。見えないから、よけいにそれが凶暴な、ひどく怖ろしいものに感じられる。
 それでも私は、懸命に月のものに奉仕し続けた。根元から先端へ、形をなぞるようにゆっくりと舐め上げる。苦い熱さが舌を刺す。私は咽せながら、先端の丸みを咥え込んだ。それが精一杯だった。
「ん……っ。ん、ふ、うぅ……っ!」
 膨れあがったものが、びくっと大きく跳ね上がった。
 月が私の髪に片手を差し入れ、苛立ったように乱暴に私の唇
(くち)から自分自身を引き抜いた。
 そして私をシーツの上に押し倒す。
 背後から、猛り狂う熱が押し当てられた。
「あ――、ひああぁーッ!!」
 うつ伏せにされ、腰だけを高く突き上げた雌猫のような恰好で、私は月
(ライト)を受け入れた。
 張りつめた月が、私の中を一杯に満たす。身体中の空気が下から圧迫され、押し出されてしまうみたい。
 そうして私のなかは、月で、月だけですべて埋め尽くされる。
「あああっ! ひゃ、う、……ああっ!」
 背後から月が私を突き上げる。
 私はたちまち、悦楽の頂点へ押し上げられた。
 月が動くたびに、私の太腿やお尻の皮膚をを硬くざらついた布地が強く擦る。ああ、月はジーンズを履いたままなんだ。
 視界を奪われた分、他の感覚で月を感じ取るしかない。
 月は、今の私をすべて見ているのに。
 その冷たい両眼で私を見据え、その手で私を意のままにする。
 私には、そのどちらも許されない。
 月を見ることも、この手で月に触れることもできない。
 これって、私たちの繋がり、そのまま。
 月は私のことを何でも知っていて、私を思い通りに動かせるのに。
 私は月のこと、何も知らない。何も教えてくれない。私がどんなに望んだって、月は私の気持ちなんか、少しも考えてくれない。
 それでいいんだと、月が言ってる。
 私は何も知る必要はない。何も見ず、何も考えず、ただ月の言葉を忠実に実行する、従順な道具であればいいんだ、と。
 でも――それでも。
 私は月といっしょにいたい。彼のそばにいたい。
 彼のもので、ありたい。
「いっ、いあ――あああっ!」
 何度目かの絶頂が、私の身体を駆け抜けていく。
「またいったの? また?」
 月が意地悪く耳元でささやく。
「ああ、いったんだね、海砂。ほら、海砂の中がひくひくしてる。きつくて、凄く、悦い――!」
「ラ、ライト……っ! ライト、あ、ラ――ああっ! ああ、あーっ!」
 絶頂の余韻にひくつく身体を、月が容赦なく突き上げる。
 目も眩むような感覚が、次々に私に襲いかかる。
 気を失いそうになっても、月は許してくれない。
 仰向けにされ、限界近くまで大きく脚を開かされる。そのまま胸につきそうなくらい、膝を曲げられて。
 真上から、まるで灼熱の槍のように、月が私を貫く。
「ひぅ――うぁ、あ……あくううゥッ!!」
 私は、殺される小動物みたいな悲鳴をあげた。
 月は容赦なく私を犯す。月に犯された部分から、身体がふたつに引き裂かれてしまいそう。
「いやああ……っ! も、もう――ゆるして……っ! ゆるして、ライト……!」
 私は懇願した。泣きじゃくり、小さな子どもみたいに首を振って、いやいやをする。
「ご、ごめんなさ……っ。ごめんなさい、ライト、ミサが……、ミサが、わるい子でし、た……っ! だから、もう――もぉ、あ、いやあああぁっ!」
 月が笑った。
 喉の奥で低く、絡みつくように。
「NO、だ。海砂」
 唇を歪める、その冷たい表情が、私にははっきりと見えるような気がした。
「海砂を守るために、精一杯気遣ってやるつもりだったのに。でも、それじゃ嫌だと言うんなら、仕方ない。もう、海砂に優しくしてやる必要なんかないだろう」
 月が私の花芯に触れた。そこに隠れてひくつく小さな真珠を、もっとも過敏な快楽のかたまりを、容赦なく押し拉
(ひし)ぐ。
「ひ、いぃ――――ッ!!」
 がくがくがくッ、と、全身が激しく痙攣する。限界までのけ反り、爪の先まで硬直する。
 声をあげることすらできず、私は絶頂に達した。
「そら。苛められてこんなに悦んでる。これで充分なんだろう、海砂には」
 月が嘲笑った。
 そして、さらに容赦なく私を犯す。
 私の両足を抱え、さらに大きく開かせる。もっと深く、もっと奥まで受け入れろと、私を突き上げる。
「あ――あああぁっ!」
 あふれ出す、快楽の蜜。擦れ合う二人の肌を濡らしていく。
 私の身体はねじ曲げられ、揺さぶられる。腰が浮き上がり、月をより深く迎え入れようと揺れ動く。月の肩に乗せられた脚が、月の動きに合わせて、爪先までがくがくと淫らに跳ね踊った。
 あたる。
 私の一番奥にまで、月の鼓動が届いてる。
 今、私のもっとも近くに、月がいる。
「あぁっ! あ、んああっ! や、あ、ラ、ライ……ライトっ! あーっ!」
 無理な姿勢に、呼吸が詰まる。身体中が悲鳴をあげる。
 こんな時になっても、月は私の戒めをはずしてくれない。私は月を見ることもできず、この手で抱きしめることすら許されない。
 貴方を見たい。この手で抱いて、つたえたいのに。
「す、好き……っ! ライト、好き――大好き……っ!!」
 泣きながら、私は繰り返した。
 声が掠れる。目隠しのリボンは、涙と汗でもうぐちゃぐちゃ。
 月がわずかに動くだけで、私は失神しそうになる。
 それでも。
「ライト、あ、あ……好きなのっ! ライトが……好き、お願い……っ! 信じて、ライト……っ!! 大好きっ!!」
 どれほど懸命に訴えても、月はほんのわずかな応えさえもくれなかった。
 でも、悦い。
 月に玩弄され、踏みにじられ、徹底的に奪い尽くされて。
 それが、たまらなく、悦い。
 胸も唇も、指も、濡れる秘花も、涙も息も鼓動も、髪のひとすじに至るまで。
 すべてを月に嬲りつくされ、捧げ尽くして。
 私は、月のものになる。
「海砂……ミサ、ミサ――!」
 耳元で、熱い呼吸とともに月が私の名前を繰り返す。
 強い腕に抱きしめられる。月が私の上に覆いかぶさり、私たちの身体は紙一枚の隙間もなく、ぴったりと密着した。
 唇が重なる。私は自分から熱い舌を差し出し、月をまさぐった。
 舌先が絡み合い、混じり合った唾液が透明な糸を引いてしたたり落ちる。
 月の体温、呼吸、激しく脈打つ鼓動、汗の匂い、月のすべてが私を包み込む。
「ライト、あ……ライト、ライト――っ!」
 私のなかで、月がひときわ熱く、猛々しく膨れあがった。内側から私を打ちのめす。
「く、うぅっ、ミサぁっ!」
 月の欲望が、爆発する。
 灼熱の奔流が私を押し流していく。
「あ、あ……熱い、あ、つ……ああぁっ!!」
 そして私たちは一緒に最後のエクスタシーに、死にたいくらいの悦びの頂点に、登りつめた。






 硬い皮革のベルトでずっと縛られていた手首には、青紫色の痣と血のにじむ傷が幾つも残ってしまった。
 打撲の痣やキスマークを素早く消す方法なら、モデル仲間やメイクさんたちから、何度か聞いたことがある。でもそのやり方じゃ、この傷までは消すことはできないと思う。
 しばらくロングの手袋がはずせないかな。私は小さくため息をついた。
「仕事に差し支えてしまうかい?」
 私の手首をそっとつかみ、月が言った。
「ううん、大丈夫。週末までは撮影とか、入ってないから」
 でも本当は、私、この傷痕を消したいとは思わない。だってこれは、月が初めて私の身体に遺してくれた印だから。
 私はのろのろと衣服を拾い集め、身につけた。たったそれだけの身動きで、身体中がぎしぎしと軋むように痛い。
 月はジーンズだけ履いて、上半身裸のまま、窓際に寄り、私を眺めるともなく見ていた。
 ようやく見ることのできた月の顔は、いつもどおり一分の隙もなくハンサムで、まるで感情を読ませなかった。
 髪をまとめようと、枕元からリボンをつまみ上げ、私はため息をついた。目隠しにされていた黒いシルクサテンのリボンは、くしゃくしゃに汚れてしまい、もう使い物にならない。私は諦めて、リボンを丸め、ゴミ箱に放り込んだ。
「月。鏡、ある?」
「ああ。クロゼットのドアについてるよ」
 私は壁に作りつけのクロゼットを開き、ドアの内側に貼られた鏡を覗き込んだ。
 乱れきった長い髪を、手櫛でどうにか撫でつける。
 ふと、月が私の背後に立った。
 鏡に月の顔が映る。
「ねえ、月」
 私はつぶやいた。
「お願いがあるの」
 月は、答えなかった。ただ、私の髪に唇を寄せ、私をそっと抱きしめる。
「私がいらなくなっても、デスノートに私の名前は書かないでね」
 ひく、と、月の身体がわずかに強張る気配がした。
「私を殺す時は、お願い。月のその手で、私を殺して」
「……海砂」
「月にいらないって言われたら、私、生きてる意味なんかないから。いつでも死んでいい。でも……デスノートに名前を書かれて、キラが殺した犯罪者たちと一緒にされるのは、いや。月の手で私に触れて、私を殺して」
「海砂」
「月ならできるでしょう? 上手に私を殺して、誰にも見つからずに死体も片づけられるよね?」
「――ああ」
「約束して」
 月の腕の中で私は振り返り、右手の小指を彼の目の前に突き出した。
「ああ。約束するよ」
 月が私の指に小指をからめる。
 こんな約束、嘘だと、わかっているけれど。
 でも……それでも。
 最期の呼吸が終わる、その時まで。貴方を見つめて、貴方の皮膚にに触れていたいから。
 そして私たちは、吐息が溶け合うようなキスをした。












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【 タイト・ロープ U】
単純に月×ミサのえっちが書きたいなーと思ってただけなのに……。どうして毎度毎度、こうだらだらと長くなるんでしょう……。
このページの背景画像は「Salon de Ruby」様よりお借り致しました。
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