クリフトったら、ずるい。
初めてキスした時は、あんなに思いつめた眼をして、死んでもいい、なんて言ってたのに。「ただ一度、たった一度だけお許し下さい」って。「このまま誰かに見つかって、国王陛下にお手討ちになってもかまわない」なんて、泣いて私にすがりついてきたくせに。
なのに、今は。
「どうなさいました、アリーナ様?」
私の耳元に唇を寄せ、低い声でささやく。
その意地悪な声だけで、私の身体はみっともないくらいにふるえてしまう。
真夜中の教会。長い旅の途中に立ち寄った祈りの家には、私たち以外誰もいなくて。
高い天井に、私の喘ぎだけが木霊する。
「ね……っ。停めて、これ……と、停めて、クリフト……っ!」
身体の芯に埋め込まれた、淫らな魔法具。人の魔力を動力とするその玩具は、魔法が使えない私には停めることも身体から外すこともできない。
しかも、ふたつ。
低く、虫の羽音のような唸りをあげて、動き続ける玩具。濡れそぼる花芯に巨きなものがひとつ、そして後ろの蕾に大玉真珠を連ねたような形のものが、ひとつ。私の中で共鳴し、ぶつかり合い、私を責める。
花芯に埋め込まれた玩具はゆっくりとうごめき、私の感じるところを内側から刺激する。ぐり、ぐり、と花びらを押し広げ、ひどく緩慢な動きで回り続ける。
後ろの蕾を犯すものは、細かい振動を続けている。まるで痺れのような感覚が背すじから頭のてっぺんまで這い昇っていく。
けれど、それだけ。玩具がもたらす快楽はひどく中途半端で、私を刺激し続けながら、けして頂点へ押し上げてはくれない。冷めもせず、昇りつめることもできない。それでいながら、快楽はまるで濃い液体のように私の中に溜まっていく。
熱い蜜があふれ、教会の床にしたたり落ちる。もう止めどがない。
エクスタシーの悦びに手が届きそうで届かない。じりじりと火で炙られるような狂おしさに、私は身もだえ、泣きじゃくった。
「も……もぉ、だめ……っ。だめ、私……っ! お、おかしくなっちゃ、あ……ああっ!」
けものみたいに床に這う私を、クリフトが抱き起こした。背後から包むように私を抱きかかえる。
「おねがい、おねが……っ、クリフトぉ!」
「しようのない方ですね。もう我慢が利かないのですか?」
酔ったように紅く染まり、涙で汚れた私の頬に、クリフトはいとおしそうにキスをする。なだめるように舌先をすべらせ、涙を吸い取る。けれどそんなわずかな愛撫にさえ、私の身体はびくびくと痙攣する。
いつもは神の印を結び、あるいは剣を握るクリフトの手。その手が、私の乳房を包み込み、もみしだく。
「あ、は……んぁ――っ!」
ふたつのふくらみが、燃えるよう。先端を指先で転がされ、時折り強くきゅっと爪をたてられる。そうされると、頭の芯まで真っ白な火花が飛び散る。
「あっ、あ、クリフト……、クリフト……っ!! いや、あ――ああぁっ! クリフトぉ……っ!」
意地悪。
私のこと、こんなに泣かして。頭も身体も、こんなにめちゃくちゃにしておいて。
「お……、おねがい、クリフト……っ」
ふたたび床に這い、濡れたいやらしい花びらを、そこにくわえこんだ玩具を、クリフトの視線にさらして。
「こ、これ、停めて……っ。抜いて、おねがい――!!」
声には出さず、クリフトが笑う。
でもその笑みを、私は見ていることができなかった。羞しくて、悔しくて、顔をあげることもできない。
クリフトが私の上に手をかざした。名残り惜しげな呻りを残して、ようやく玩具が停まる。
「あ、ふ……」
ずるり、と玩具が引き抜かれる異様な感覚。後ろに埋められた細身のものが抜かれる時には、連なった真珠が重なり合う襞をリズミカルに擦り、その衝撃に私は思わず悲鳴をあげた。
「あ、ひぁあ……ッ!!」
そして。
「それから?」
まるでいつも通りの顔をして、クリフトが言う。
「お望みのとおりにしてさしあげましたよ。これだけで良いのですか?」
「あ、あ……ぁ……」
体内に埋め込まれていたものが抜け落ちると、芯でくすぶる飢えは、さらにひどくなる。
クリフトは指一本触れない。ただじっと私を眺めている。
ただそれだけなのに、私の身体はさらに熱くなる。その視線に愛撫されているかのように、淫らな蜜をあふれさせる。
「あ……っ。く、ふ、んん……っ」
私はすすり泣いた。
「どうなさったのです。なにかおつらいことでもおありですか?」
ひどく優しい声で、クリフトがささやく。
「なにがお望みなのですか、アリーナ様。はっきりとそのお口でおっしゃっていただかなければ、わかりませんよ」
意地悪。意地悪。
全部、わかってるくせに。
最初はあんなにひたむきに、ただ私を小さな子供みたいに抱きしめて、それだけで死んでもいいって、泣いてたくせに。
いつの間に、こんなひどいことばかりするようになったの。こんなに――私を泣かせることばかり。
「ク、クリフト……っ」
私はふるえてまったく力の入らない身体を、懸命に持ち上げた。高くお尻だけを突き出して、まるでさかりのついた雌猫みたいに。
濡れそぼるそこを、自分の指で押し開く。私のもっともいやらしいところを、クリフトの前にさらけ出す。
「おねがい、ここ……。こ、ここに――クリフトの、い……いれて……っ」
これもみんな、クリフトに教えられたこと。
さっきまで玩具にいたぶられ続けていたそこは、半透明の蜜にまみれて、もうぐちゃぐちゃ。後ろの蕾さえ、口を閉じきれずにひくついている。それらがみんな、クリフトの視線にさらされている。
失神しそうなくらい、羞しい。
悔しくて、情けなくて。
けれどそれが、たまらない悦び。
見られている。そう思うだけで、昇りつめてしまいそう。
「ここ……私の、ここ……、クリフトの、で……い、苛めて……っ。苛めて、いっぱい――めちゃくちゃにして……っ!」
ふふっと、クリフトが低く嗤う声がした。
そして。
「よろしいですよ、アリーナ様」
熱く激しい欲望が、私を一気につらぬく。
「あ、あ……ああああぁぁッ!!」
私は悲鳴をあげた。
花芯から喉元まで、灼けた槍に突き刺されたみたい。
「あああっ! あ、クリフト、クリ、フ……っ、あっ、くぁ、んっ……あーっ!」
引き裂かれる痛み。過敏な紅色の真珠を押しつぶされ、打ちのめされ、けれどその苦痛がたまらなく気持ちいい。
背後から突き上げられ、揺さぶられ、私は泣きじゃくった。熱く潤みきったそこを容赦なくかき回され、頭の中まで真っ白になる。
「あっ、あ、い……悦い……っ! いいの、クリフト、そこ――あああっ、悦いぃ……っ」
「ええ、アリーナ様。なんでもおっしゃってください。お望みのとおりにしてさしあげますよ。……すべて、貴女の望むままに――」
はい、おまけでした。お粗末。
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