「あ……っ、あ、ふぁ……っ。き、きみしまあ……っ」
ベッドに突っ伏して、カズマは力無くすすり泣く。
黒く硬い、悪趣味な玩具に犯されて、何度も何度もいかされた。果てることを知らない機械仕掛けの男根は、まだカズマの体内にとどまり、不気味な蠕動(ぜんどう)を続けている。
透明な雫があふれ出し、白い両脚の内側を濡らす。甘い快楽の蜜は膝裏まで流れ落ち、シーツに小さな染みを作っていた。
「や、やだあ……。これ、もぉ、いやあ……っ!」
「じゃあ、どうして欲しいんだよ、カズマ? ん? 言ってみな」
背中から覆い被さるようにして、君島が耳元でささやく。
「ぬ、抜いて……っ! これ、抜いて――き、君島の、挿れて……っ!!」
君島はほくそ笑んだ。
カズマは悦楽に弱い。抵抗できない。それが、たまらなく可愛いと思う。
「お願い……っ! お願い、君島ぁっ! もぉ、こ、こんなのやだ、やだあっ! 君島の、あ、熱いの、挿れて! 君島ので、いかせてくれよおっ!!」
日頃はわがままで自分勝手で、男を男とも思わない横柄な態度のカズマが、この時だけは従順に、自分に泣いてすがってくるのも、いい。
「おねだりする時は、どうすんだっけ? カズマ」
「はぁんっ!」
ぴしゃりと、軽く尻の丸みを平手で叩いてやると、それだけでカズマは甘く掠れた悲鳴をあげ、全身をわななかせた。
「あ……。あ、は……」
小刻みに震える手を、カズマは君島の衣服にかけた。もたつきながらベルトを弛め、ジッパーを下ろす。小さな金属音がやけに大きく、君島の耳に届いた。
そして、そこに押し込められていた君島の欲望が、白い手によって引き出された。それはすでに痛いくらい張りつめ、熱を持って大きく脈動している。
紅く濡れた小さな唇が、開いた。その奥から、ちろりと濃い桃色の舌が覗く。その扇情的な光景が、君島の視覚に焼きつく。
カズマは迷うことなく君島の欲望の上に顔を伏せた。
熱くぬめる舌が、脈打つ欲望の塊にきつく巻き付いた。強く吸い上げ、先端の丸みを含んで口の中でころがすように刺激する。
「う、くぅ……っ!」
君島は思わず大きく背をのけ反らせた。
これも、君島が教えたことではない。かつて誰かがカズマに教え込んだのだ。君島の知らない男が。
「んっ、ん、――くふぅ……っ」
カズマは無心に君島を愛撫する。欲望が大きく跳ね上がり、口中に含み切れなくなると、今度は下から上までその形を確かめるように尖らせた舌先で辿っていく。もっとも過敏な先端をちろちろと舌でからかい、ちゅ、ちゅ、と小さな音をたて、キスをする。透明な唾液が糸を引き、君島のものにまで滴った。
ちりっと、小さな痛みが走った。小さく鋭いカズマの八重歯が先端の膨らみにあたり、引っ掻いている。それがまた、たまらない快感を生む。
「くう――っ!!」
放出を促す快感が、君島の腰椎を一気に駆け上がる。
「う、うわ、やべえっ!」
カズマの朱唇にそのまま放ってしまいそうになり、君島はあわてて奥歯を噛みしめた。
シーツの上に放り出していたリモートコントローラに手を伸ばす。そして、中程に合わせられていた強弱スイッチを、一気にMAXまで押し上げた。
「……ひあああっ!?」
カズマが高い悲鳴をあげた。
「ひっ! ひ、い、……あああっ! いや、あ、くあああっ!!」
華奢な肢体が大きくわななき、のけ反る。
グロテスクな玩具がカズマの中で激しく振動し、引き裂き、えぐる。無数の突起がデリケートな襞を刺激し、かき乱す。先端のふくらみがカズマのもっとも奥深くにまで突き当たり、頭を振ってさらに押し広げようとする。
いきなり猛々しくなったその動きに、カズマは泣き叫んだ。
「いやああっ! とめて、とめてええっ!! こ、こわれ、るっ! こわれちゃうよおっ!!」
強制される快楽。行き過ぎた刺激は苦しいだけだ。がくがくと細い腰が勝手に跳ね上がる。もう君島のものを口に含んでいることもできない。
「い、いっちゃうっ! ま、また、いく……オレ、もぉ……ああっ! あああーっ!!」
カズマは君島の胸元にしがみつき、そのまま絶頂へ駆け上った。
「あ……は、あ、あ……」
ようやく玩具の振動が停まる。
失神寸前でシーツに沈み込むカズマから、君島は玩具を引き抜いた。粘ついた水音をたて、透明な雫の糸を引きながら。その瞬間、カズマはまたかすれた悲鳴をあげた。
君島はぐったりとして起きあがることもできないカズマをうつぶせにし、後ろから大きく脚を開かせた。絶頂の余韻にまだひくついている淫らな花が、君島の前にさらけ出される。
「あ、あ……き、きみしまぁ……っ」
泣いて紅色に染まった目元が、欲情を湛えて君島を誘っている。
潤んだ花びらに、灼熱の塊が押し当てられた。
君島の欲望が、淫らな花に一気に突き立てられる。
「くあああぁ――ッ!!」
白い背中が弓なりにのけ反った。
熱く濡れた肉の中にくるみ込まれ、その感覚に君島は息を呑んだ。やわやわと君島に絡みつき、きつく絞りあげる花びら。おそらくカズマの意志とは無関係なところで淫らにうごめき、君島をもっと奥へと誘い込もうとする。
「カ、カズマ……!」
君島は、大きく腰を突き上げた。カズマの細いウエストを両手でしっかりと掴まえ、乱暴に突き上げる。身体ごと叩きつけるように。
「ああっ! あ、ふぁ、い……いぃっ! 悦い……ああっ、君島ぁっ!」
カズマがのたうつ。シーツに爪をたて、がくがくと身体を痙攣させる。ずっと欲しがっていた快楽をようやく与えられ、カズマはそれに夢中になった。自分から淫らに腰を揺らして、さらに熱い悦楽を追い求める。
二人の動きがどんどん激しくなる。甘い蜜があふれる。つながり合った部分から、その雫は糸をひいてしたたり、カズマの脚も、君島の肌までも濡らしていく。
高まっていく淫らなリズム。二人の身体が揺れるたびに、ぬかるみをこね回すような粘着質の音がひびく。それをかき消すように、さらにカズマの悲鳴があがる。
「き、君島っ! 君島、もぉだめ……だ、だめぇっ! オ、オレ、もぉ……ああっ! あああんっ!!」
カズマの全身がうす紅色に染まる。泣きじゃくり、意味のない言葉を繰り返す。
「もう、いく? いきそう、カズマ?」
カズマの背中に覆い被さるようにして、君島は真っ赤に染まる耳元でささやいた。
その言葉に、カズマは声もなくうなずく。
「いいよ。いっちゃえよ、カズマ!」
君島はカズマの最奥を強く深く突き上げた。
「あっ! あ、は……うあああっ! き、きみしまっ! い、いぃ、あ――ああっ! あーっ!!」
「ほら! もっとだろ、もっと欲しいんだろっ!?」
「ひあぁっ! い、悦いっ! いく、も……もぉ、いっちゃう、いっちゃ……ッ!!」
しなやかな身体ががくがくと痙攣する。それを無理やり押さえつけて、君島はさらにカズマの中へ自分を突き立てる。
熱く熔ける肉が君島を締め上げる。
「く、うぅ……カ、カズマぁっ!」
欲望の引き金が引かれた。君島は、カズマの最も奥深いところに自分のすべてをぶちまけた。
「あ、あっ!! あつい、熱……あ、ひああああぁ――ッ!!」
君島の絶頂に突き上げられ、カズマもまた、エクスタシーの頂点に一気に登りつめる。
「あっ、ふぁ……あ――」
欲望を吐き出して萎えたものが、優しい圧力でカズマの中から押し出される。
背後からの支えを失い、カズマの身体はそのままシーツの中にくたくたと沈み込んだ。もう、ほとんど意識がないらしい。かすかにうわごとがこぼれる。
その時、君島はふと聞いたような気がした。カズマが、誰かの名前を呼ぶのを。
自分ではない男の名前を、つぶやくのを。
錆の浮いたベッドヘッドのパイプに寄りかかりながら、君島はぼんやりと煙草をふかしていた。 白い煙が天井へ上っていき、すぐに消えていく。その様子を見るともなく眺める。
カズマはまだ眠っている。まるでけものの仔のように、小さく身体をまるめて。そうしているとカズマは起きている時よりさらに幼く見えて、痛々しいくらいだ。時折り、ぬくもりが欲しいのか、君島の脇腹に頭をこすりつけるような仕草をする。
やがて、あたたかな身体が小さく身じろぎをした。
「ん……」
「目ぇ醒めたか、カズマ」
声をかけると、カズマは眠そうにまぶたをこすりながら、もそもそと身体を起こした。
そして金色の大きな瞳で君島を見上げ、ぶすったれた声で言った。
「君島のすけべ」
カズマはそのままベッドを降りた。床に散らばった衣服を拾い集め、さっさと身につける。
「なんだよ、もう帰るのか? もう少しゆっくりしてけよ」
「やだ。君島、すけべだから」
「あのねえ、カズマ」
「うるせえ、黙れ」
カズマは振り返りもしない。
「だーって、しょうがねえじゃん? おれ、男なんだからさ。男はみんなすけべなの。神様がそういうふうにお造りになったんだよ」
「なんだ、それ」
「そうじゃん。だいたい、世の中の男がすけべじゃなかったら、人類はこんなに繁栄できなかったんだぜ」
「勝手に言ってろ」
短い髪を軽く手櫛で整え、カズマはさっさと部屋を出て行こうとする。
「なーんだ、つまんねえなあ。せっかくカズマに喜んでもらおうと思って、コレ、手に入れたのになー。そんなに嫌だったのかー」
君島は枕の下から、件(くだん)の玩具を引っ張り出した。
「でも、ほんとに嫌だった? カズマ。すっげー気に入ってくれたように見えたんだけどなー」
「君島」
ドアノブから手を離し、カズマがベッドのそばまで戻ってくる。
そしてカズマは、君島の手に自分の手を重ねるようにして、玩具に指を当てた。
カズマがにっこりと笑う。見つめれば、その金色の瞳に吸い込まれてしまいそうな笑顔だ。君島もつい、笑顔を返す。
その瞬間、しびれにも似た振動が君島の右手を走り抜ける。虹色の淡い光が、二人の手の間から湧き上がった。
「え? ――う、うわっ! あ、熱ち、あちっ!」
君島はあわてて手を振り払った。
アルター能力を発動させる時に特有の、オーロラ光。分解された電子がぶつかり合って光を放つのだとも言われているが。
今、分解されてしまったのは、君島が、自分にとってはかなりの金額を支払って手に入れ、しかもまだたった一回しか使っていない玩具だった。
そして気づいた時には、男根を模したグロテスクな形はどこにもなく、シーツの上にはメタリックな輝きを放つ、赤い羽根のような形のパーツが転がっていた。
「あ、あーっ! なんてことすんだよ、カズマぁ! 高価かったんだぞ、これぇ!」
「知るかっ! 今度こんなヘンなもん使おうとしてみろ、君島とはもう二度とSEXしねえからなっ!」
カズマはそれきり、ぱっときびすを返して、ドアに向かう。
「おい、カズマ。メシは?」
「今日はいいや。かなみが待ってるから」
カズマが庇護している少女の名前を出されると、君島ももう、引き留めることはできなくなる。
「またいい仕事の話があったら回してくれよ。それじゃな」
最後に小さく手を振って、カズマは部屋を出ていった。
その後ろ姿を見送り、やがて君島はふうっと大きく息を吐き出す。
手元に残された、赤い金属の羽根。――地上で確認されたどんな合金とも違う、アルター能力でしか造ることのできない、未知の金属。見つめていると、その輝きに吸い込まれそうだ。まるで、あの金色の瞳のように。
君島はふと、その硬い羽根にキスをしてみた。
冷たいかと思ったが、少しぬくもりがある。まるであの少女の肌のように。
「長生きできねえだろうなあ、おれ……」
そんなことをつぶやく。
あがきながら自分は死んでいくだろう。瓦礫と裏切りと殺意に満ちた、この奈落の底で。壁一枚向こうには平穏と繁栄にあふれた美しい人造都市があるのに、この手はけしてその街に届かない。
それでもいいと、君島は思った。
自分が死ぬ時にはきっと、あの緋色の天女が迎えに来てくれるだろう。
あの腕に抱かれて死ねるなら、自分はそれで満足だ。きっと笑って死ねる。その幸福な死に様を、市街に生まれた連中はきっと一人として味わうことなどできない。
和平、繁栄、穏和な人々の笑顔。あふれるほどの物資に芳醇な文化。壁の中のものは、ここには一つもない。
けれどあの天女に匹敵する宝が、他の世界のいったいどこに存在しているだろう。
奈落の天女。同じくこの地に生を受けた者だけが、彼女の飛翔する姿を見ることができる。
それでいい。それだけで充分だ。
そして君島は、二本めの煙草に火をつけた。
−FIN−
君島、なんか間違ってますね。天女に羽根はありません。あれは
羽衣という特殊な布を使って空を飛ぶモノです。いや、それより何
より間違ってるのは私か。こんな話にしちまったら、かなみの存在
はいったいどうなるんでしょう。あやせさんは。
ちなみに、君島が思い至っていた「誰か」ですけど、ええ、皆様
のご想像どおり、あの世界最速のあんちゃんです。
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