サカッた眼しやがって。あの連中と同じじゃねえか。
――たしかに、カズマの言うとおりだった。
自分は欲情していたのだ。この、瞳(め)に。
劉鳳は目の前の少女をにらみ据えた。
なにものにも縛られず、奔放に、本能のままに生きているカズマ。
金色の眼が言う。お前も同じだろう、と。
日頃は理性の下に押し込めているどす黒い欲望。思うがままに生き、闘い、他者を食い殺したい。自分の力をあるがままに誇示したい。それは、生命としての純粋な欲望だった。
カズマの眼が、劉鳳の中からそれを引きずり出す。この燃えるような金色の瞳が。
自分はそれが不愉快で堪らず、そして怖ろしかったのだ。いつもは目をそらし続けている自分の欲望を白日の下にあばかれ、自分自身でそれを凝視せねばならなくなることが。
他者にはない戦闘能力を与えられているが故に、その本能もまた、強い。それを劉鳳は、法と秩序に従うことで、その執行者たる『HOLY』の隊服に身を包むことで、押さえつけてきたのだ。いや、その存在を無視し、最初からそんなものはないと自分で信じ込もうとしていた。
必死に抵抗した。理性にしがみつき、『HOLY』である自分に誇りを持とうとした。カズマを愚かな犯罪者と断じ、見くだすことで、自分自身を保とうとし続けてきた。
だが、すべては無駄だった。カズマはその瞳だけで、劉鳳の心に残る鎧を完全にうち砕いてくれたのだ。
一度認めてしまえば、こんなにも高揚するものはなかった。
所詮は自分も、一個の雄にすぎない。先にカズマを襲おうとしていた『HOLD』の連中と同じ――いや、違う。同じ雄でも、あの無様な連中と自分は、歴然として違う。
自分はこの場で最強の雄であり、目の前にいるのは勝ち取られるべき雌だ。他の雄と闘い、蹴散らして、自分はこの雌を勝ち得たのだ。
誰も自分を妨げる者はない。自分の欲望に従って行動して、何が悪い。
お前が告げたのだ。俺に、望むままのことをしろ、と。
『HOLY』の隊服を脱ぎ捨て、雄の本性を剥き出しにした時、カズマが小さく引き攣れるような音をたてて息を飲んだのがわかった。
白とラベンダーブルーを基調にしたこの隊服が、自分をどちらかといえば優男(やさおとこ)に見せているのは知っていた。威圧感よりも清潔感を重視したデザインで、その下に研ぎ澄まされた刃のような肉体があることを、誰も見抜けない。カズマもきっと、所詮は市街育ちのお坊ちゃんと自分を甘く見ていたのだろう。
――教えてやろう。俺が、お前に手玉に取られるような男かどうか。今までお前が知っていた男たちと、いったいどう違うのか。
劉鳳はゆっくりと、カズマのほうへ手を伸ばした。
自分を見上げる瞳に、一瞬、恐怖の色がよぎるのが見えた。それが、たまらなく愉快だ。
「さ……さわんなぁっ!!」
高い声で叫び、カズマが劉鳳の手を払いのける。
一瞬、劉鳳の右腕に静電気にも似た痺れが走り抜けた。アルター能力が発動する時に特有の、生体電気反応だ。同じくアルター能力を持つ者だけが感知できる。
カズマの右目が光り、緑色のオーロラ光がその手からほとばしる。粗末なベッドの上にあった枕が、HOLD隊員が逃げる時に置き忘れたブーツが、消し飛んだ。
次の瞬間、劉鳳はカズマの右手をブーツの爪先で蹴り上げた。
「うああっ!」
手首を高く蹴り上げられ、カズマの右手はまるで肩から引っこ抜かれるように、背後の壁に叩きつけられた。それを逃さず、劉鳳は左手を伸ばす。細い手首を掴み、もう一度ひび割れたコンクリートに叩きつける。
「う、つ……痛ぁあっ!」
「ネイティヴアルターは不便だな。アルターを発動するのに、どうしても一瞬の矯め(ため)を必要とする。この間はまるで無防備だ。アルターの鎧もなく、自前の身体で身構えることもできない」
「な、なにを、てめえ……っ!!」
「どうした。やってみろ。アルターを発動させてみろ。できるものならなっ!」
カズマの手首を握りしめる指に、劉鳳はさらに力を込める。左は利き手ではないが、このくらいなら容易い芸当だ。やわらかな皮膚にぎりぎりと爪を食い込ませ、手首を限界まで反り返らせる。
「いっ、いた、痛てぇっ! は、離せっ! 離せ、こんちくしょうッ!!」
手首をへし折られそうな激痛は、カズマにアルターを発動させるための精神の収斂を許さない。
それどころかカズマは利き腕の自由を奪われて、さらに身体を近寄せる劉鳳を押しのけることもできなかった。
「や、やだっ! 嫌だ、なにしやがる――っ!!」
劉鳳はカズマの着ているタンクトップに空いた右手をかけた。薄っぺらで粗悪な生地は、悲鳴のような音をたてて簡単に引き裂かれてしまった。
暗がりに、白い肌があらわになった。出来の悪いフェイクレザーの黒が、その白さをさらに際だたせる。
まだ蒼く硬い乳房。その頂点で揺れる薄紅色の飾りが、劉鳳の眼を射る。細いウエストは片手で握りつぶしてしまえそうだ。痩せていると言うより、女としてあまりにも未成熟な身体。
劉鳳はカズマの腕を振り回し、その身体を床に引き据えた。うつぶせにしたカズマを、背骨を圧迫するように膝で押さえつける。そして彼女の着ているジャケットを、袖を掴んで引き抜いた。完全に脱がせるわけではなく、中途半端に抜いた袖でカズマの両腕を縛り上げる。それだけで簡易拘束衣のできあがりというわけだ。HOLY隊員ならば、このくらいの技術は基礎の基礎だ。
「ちくしょう、離せっ! 離せええっ!!」
カズマは必死でもがき、暴れた。ばたばたと脚を跳ね上げ、自分の上に乗る劉鳳を押しのけようとする。だが正規の訓練を受けた劉鳳には、そんな抵抗など何の妨げにもならない。
ふたたびカズマを仰向けにし、その上にのしかかる。小さな乳房を手のひらに包み、力を込めて握りしめた。苦痛にカズマの表情が歪む。
接吻をするように顔を寄せると、カズマは懸命に顔をそむけ、それを拒む。――実際は、キスなどする気はまだなかったが。まだカズマが明確に抵抗の意志を持っている今、その小さく鋭く尖った犬歯で噛みつかれたら、やはり痛かろう。劉鳳は、自分の身体の目立つところに情交の傷を残すつもりはなかった。
代わりに、カズマの耳元でささやく。まるで恋人の耳に睦言をささやくように、底意地の悪い揶揄を。
「どうした。客が要るんじゃないのか。金さえ払えば、俺が相手でも良かったんじゃないのか!?」
「だ……誰が、てめえなんかに――ッ!!」
カズマは顔をあげた。そして、劉鳳のほほに唾を吐いた。
泡(あぶく)の混じった透明な唾液が、劉鳳の端正な顔面にぴしゃりと飛ぶ。
「てめえだけは、死んだってお断りだっ!!」
劉鳳は汚れたほほを左手の甲で拭った。その表情にほとんど変化は見られない。
だが、右手が高く挙がった。
「きゃああっ!」
力任せにほほを張り飛ばされ、カズマが悲鳴をあげる。口の中が切れたのか、唇の端に血の朱がにじんだ。痛みのせいか、幾分上がり気味の生意気な目元にも、うっすらと涙が浮かんでいる。
悪口(あっこう)が停まる。カズマは顔をそむけ、硬く眼を閉じた。
一瞬、諦めたのかと思う。が、劉鳳はすぐにカズマの意図に気づいた。
カズマの顎に手をかけ、ぎりぎりと指を食い込ませるようにして、無理やり口を開かせる。同時に、まだ細い肩や腕にまとわりついていたタンクトップの残骸を引き千切る。ただのぼろ布になったそれを、カズマの口中に押し込んだ。
「う、うぅ――っ! くうーっ!!」
カズマがもがく。押し込まれた布を懸命に吐き出そうとする。が、劉鳳は生地の両端をつかみ、後頭部でしっかり縛り上げた。
劉鳳はカズマの耳元に唇を寄せ、せせら笑った。
「舌を噛み切って自害しようとでも思ったか? だが、あいにくだったな。俺は死体を抱く趣味はない」
抵抗の手段は一つ残らず取り上げた。
劉鳳はカズマのレザーパンツに手をかけた。ウエスト部分を乱暴に引っぱると、ジッパーが壊れてはじけ飛んだ。フェイクレザーの粗悪な生地を、その下にあったレースに飾られた小さなランジェリーごと、膝下まで一気に引きおろす。
カズマの両腿の上に膝を乗り上げ、動けないように固定する。あらわになった淡い陰りと、その下の切なげな花の姿が、劉鳳をさらにあおる。
「ずいぶん綺麗な色じゃないか。売女のくせに」
ぺろっと指先を舐め、その指でカズマの花びらに触れた。その指先から、押さえつけた膝から、カズマがびくっと小さく身体をふるわせるのが伝わってくる。それが、実におもしろかった。
劉鳳はゆっくりと自分の衣服をゆるめた。すでに痛いくらい張りつめていた欲望を、自分の手で掴み出す。カズマに見せつけるように。
そのまま、劉鳳はカズマを犯した。
「んう、う……う――っ!」
華奢な身体が弓なりに反り返った。
カズマの表情が苦痛に歪んだ。
「う、痛う……っ」
劉鳳も、思いもかけなかったきつい抵抗に、唇を噛みしめる。
何の準備もされていないカズマの秘花は、劉鳳の侵入を強く拒もうとする。それを無理やり押し開き、劉鳳はさらに身体を進めた。潤いのない肌を突き上げても、ぎしぎしと熱した金属を擦り合わせるようで、劉鳳自身、快楽より痛みのほうが強いくらいだ。
だがそれでも満足だった。自分の下でふるえているカズマを見おろしているだけで。
カズマは苦痛に白い喉を反らせ、目元にうっすらと涙をにじませている。苦痛のための生理的な涙だろうか、それとも悔し涙なのか。劉鳳は喉の奥で低く笑い、カズマの目元に口づけて、その涙を吸い取った。塩辛い涙はどんな美酒よりも甘露だった。
劉鳳は欲望のままに、カズマを突き上げた。彼女の右脚を抱え上げ、さらに大きく開かせる。より深く自分を呑み込ませ、また引き出す。カズマがくわえさせられた布の奥で苦痛にうめくのもかまわず、何度も何度も同じことを繰り返す。カズマの身体が抵抗を諦め、素直に自分を受け入れるようになるまで。
やがて、熱く狭い泉が少しずつ潤いを帯びてくる。それは劉鳳自身が塗りつけた先走りの雫かも知れないし、カズマ自身がこれ以上自分の身体を傷つけたくないとこぼし始めた、哀しい本能の露かも知れなかった。
劉鳳の手に支えられ、宙に浮いた白い脚が、劉鳳の律動に合わせてがくがくと揺れている。
荒い呼吸と、かすかに聞こえる淫らな水音。甘い汗の匂い。五感のすべてを刺激される。熱い花びらが、きゅうっと強く劉鳳に絡みつく。
「く、うぅ――っ!」
腰椎から眉間まで、一気に悦楽のシグナルが走り抜ける。放出を促す。劉鳳はそれに抵抗はせず、カズマの中に自分を解き放った。
「んっ、ん、んぅ――っ!!」
その瞬間、カズマの身体が大きく痙攣した。
劉鳳は一旦身体を離した。乱れた呼吸を整え、顎の下を流れ落ちる汗を拭う。同時に、まだほとんど萎えていない自分自身を意識する。
カズマはぐったりと床に横たわったまま、身動きもしない。
その硬く閉じられた瞼がひくひくとふるえ、目元からほほにかけての皮膚が、うっすらと艶めかしい紅色に染まっているのを、劉鳳は見た。
「死にたいくらい嫌いな男に犯されても、感じているのか。どうしようもない淫乱だな、お前は」
残酷な揶揄にも、カズマは何の反応も示さなかった。
このくらいのことは、この少女にとってはそれほど珍しいことでもないのかもしれない。インナー育ちで、この年令ですでに身体を売っていた少女だ。どんな男に犯されても、カズマにとってそれはほんの一時我慢すればよいこと、もういい加減馴れてしまって、すぐに忘れてしまえることなのかもしれない。何度も何度も同じ目に遭ってきたがために。うっすらと見せた快楽の反応も、傷の痛みを少しでも減らすために、心より身体が覚えたものなのだろう。
そう思い至った劉鳳は、それを哀れと思うより先に、身体中の血が煮えくりかえるような苛立ちを覚えた。
結局は自分も、カズマの上を一時通り過ぎていくだけなのか。それまでカズマを抱いてきた何十人、あるいは何百人という男と同じように。カズマの中に何一つ残すこともできず。
それは、ひどく忌々しい考えだった。
そんなことは許さない。自分をこのまま忘れてしまうなど、絶対に許さない。
劉鳳は改めて、自分の下に横たわる少女を見つめた。
どうしてやろう。この白く細い身体に、どうやって自分の足跡を刻みつけてやろう。
そして劉鳳は、ゆっくりとカズマの身体に手を伸ばした。
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