「いや、や……やああああッ!! やめて、ツメ――ツメえぇっ!!」
 柔らかな首筋にツメの牙が突き立てられ、抉られる。アンバーブラウンの毛並みを鮮血が汚し、泡を噴いて気絶するまで折檻された。
 いや、気絶しても、ツメは許してくれなかった。苦痛と疲労のあまり、トオボエが意識を手放そうとすれば、力任せに横っ面を殴り飛ばす。そうやって小さな雌狼がかろうじて意識を取り戻すと、また容赦なくその幼い身体を押し開き、自らの欲望を突き立てる。
 灼熱の塊がトオボエを貫く。
「ひ、い――ッ! い、あ……ああーッ!!」
 突き上げられ、内側から揺さぶられ、焼き尽くされる。限界まで開かされ、高く持ち上げられた細い両脚が、爪先までがくがくと痙攣した。何度も身体の中にツメの欲望をぶちまけられ、自分が感じているのが苦痛なのか歓びなのか、それすらわからなくなってくる。
「もう……もぉ、いやあ……。いやぁ、ツメ――ツメ、え……っ」
 狼の群で、首領に逆らう者はけして許されない。半死半生になるまで制裁を受け、群を追い出される。それは、わずかでも群の統率が乱れれば、群全体に危険が及ぶからであり、首領が群の仲間すべての命に対して責任を負うからだ。
 だが――なぜこんなにもツメが怒るのか、わからない。
 自分たちは群などでも、つがいでもなく、ましてやツメがトオボエの命を守る責任など、どこにもないのだ。
 かすむ視界に映るツメの表情は、まるで彼のほうがひどく追いつめられているかのように苦しげに歪んでいた。トオボエを惨く犯しながら、苦痛を堪えるみたいに強く唇を咬みしめている。
 ……どうして? どうしてそんな顔するの、ツメ。
 まるでツメのほうが、なにかに怯えているみたいに。
 ……それとも――そうなの?
「ごめん……。ごめん、ね、ツメ……」
 トオボエはふるえる手を、ツメの背にまわした。
「ごめんね、ツメ……。でも、もうオレ、平気だから。ツメが――ツメが、護ってくれたから……」
 精一杯の力で、ツメを抱きしめる。
 ツメの背は広く、力強く、そして孤独だった。
「な――なにを、お前……」
 ツメが困惑の表情を浮かべた。思わず、トオボエの身体を離そうとする。
 トオボエは自分からツメの腕を捉えた。
「ね……。オレ、ここに居るよ。生きてる。ツメのそばに居るよ」
 トオボエは身を起こし、ツメの首に両腕を回して彼をしっかりと抱きしめた。ツメの耳元に、頬に、まぶたにそっとくちづける。
 そばに居たかった。誰よりもツメのそばに。
 熱く、強い力に満ちたツメの体躯。けれど今、怯えてかすかにふるえているのは、ツメのほうだった。
「もう大丈夫だよ。少しも怖くない。……ツメが、護ってくれたんだ」
「トオボエ……」
 ツメの声はかすれ、困惑をにじませていた。
「どうしてそんなに怖がるの? オレを……誰かを死なせてしまうのが、そんなに怖かったの?」
「違う。違う、俺は――」
 ツメが首を横に振った。自分を抱きしめるトオボエの腕をふりほどこうとする。
 けれどトオボエはツメを離さなかった。その首を両腕でしっかりと抱え、身体中でツメを抱きしめる。
 ツメが何に怯え、何に苦しんでいるのか、トオボエは知らない。なぜ同胞のぬくもりを拒み、独り死に急ごうとばかりするのか。
 ――誰かが目の前で死んでしまうのは、つらいよね。悲しいよね。それが、自分が愛していた人なら、なおさら。
 ――だから、怖いの? 誰かを愛してしまうことも、怖くてできないの?
 ツメは今も血を流している。心のどこかに鮮血を噴き上げる、酷い傷を隠し持っている。野良犬どもに襲われたトオボエを見た時、いつもは心の奥底に押し込めているsの傷の痛みが、一気に表面へ吹き出してきたのだろう。
 トオボエを惨く犯しながら、ツメが罰していたのは、トオボエではなかった。ツメ自身だった。
「ツメ。楽園に行こう」
 ツメを抱きしめ、トオボエはつぶやいた。
「ねえツメ。オレと一緒に楽園に行こうよ」
 ツメは力なく、首を横に振った。
「ねえよ。そんなもの、どこにも――」
「あるよ。きっとある」
 トオボエはそっと唇を重ねた。わずかに触れ合うだけの、優しい、どこか哀しいキス。ツメの唇は、かすかに血の味がした。
「行けるよ。一緒なら、きっと行ける」
 ツメももう、トオボエの抱擁を拒もうとはしなかった。自分に寄り添ってくる雌狼の小さな身体を黙って受け止め、なすがままにさせている。
 その身体から少しずつ強張りが消えていく。無理に張りつめた力が抜け、やがてトオボエの肩にも、ツメの重みがかかってくる。トオボエは心地よくその重みを受け止めた。
「聞いたんだよ、オレ。キバってやつから。楽園はある、狼ならみんな、そこを目指すんだって。――キバはね、雪みたいに真っ白な狼だった。花の娘を捜してるって、言ってた」
「ああ……」
「逢ったことあるの、ツメ?」
「――一度だけな」
「そう……」
 トオボエは小さくうなずいた。
「キバがね、言ってたんだ。この街には、花の匂いがするって」
 ぽつり、ぽつりと、トオボエはつぶやき続ける。まるで雨垂れが静かに地面へ滴るように。それはツメに語りかけるというより、自分の中の想い出をひとつひとつ拾い集め、もう一度手にとって眺めているようだった。
「どんなんだろう、月の花の匂いって。ツメは知ってる?」
「……いいや」
「そっか。ツメも知らないのか」
 ……でもね。
 トオボエはそっと眼を閉じた。ツメの胸元に頬を押し当てる。そうすると、ツメの鼓動がはっきりと自分の身体につたわってくる。
 そのぬくもりが、とてもなつかしかった。
 なぜだろう。このあたたかさが、こんなにもなつかしく、いとおしい。泣きたいくらいに。
 ……楽園はあるよ。きっとあるよ。
 いっしょなら、たどり着ける。いつか必ず。
 楽園に着いたなら、きっともう、誰も苦しまずにすむだろう。なにもいつわらず、なにも傷つけず、ただありのままの自分の姿で生きていける。
「行こう。楽園に。一緒に行こう、ツメ……!」
 うち捨てられた廃墟は、刻一刻と冷たく凍りついていく。どこにも生あるものの気配はなく、ただひっそりと朽ち果てるのを待っている。
 そんな中で、二頭の狼は、互いを温め合うようにそっと、いつまでも寄り添っていた。

 



 そして。
 風雪吹き荒れる、嵐の夜。
 四頭の狼が旅に発った。
 トオボエは生まれて初めて、曠野へと走り出した。
 キバはたしかに、花に選ばれた特別な狼だった。
 ただその本能の指し示すままに自らを、そして仲間達をも走らせ、そうして遂に、花の娘のもとへと彼らを導いたのだ。
 月の花から生まれた娘、チェザの元へ。
 どこまでも透きとおって美しく、優しいチェザ。
「今……今、このへんがくぅんッてなったよ!」
 彼女のまわりにはいつも月の光と、花の匂いがあふれていた。
 ……ああ、楽園はあるよ。必ず、そこへたどり着けるよ。狼たちはそう思った。
 花の娘はたしかにいた。その歌声は安らぎに満ちて、その手はいかなる傷をも癒してくれる。忘れていた夢を思い出させてくれる。
 彼女の見つめる先に、楽園は必ずある。
 今、トオボエの眼に映るのは、ただ果てもない曠野だ。どこまでも白く凍りつき、生命の姿などまったく見えない。今まさに絶命しようとしている世界。
「でも、楽園はあるんだ。きっとある」
 凍える烈風の中、顔を上げて前を見つめ、トオボエは言った。
 永い旅の合間、チェザを追ってくる貴族どもの眼をくらましながらの、ほんのわずかな休息。狼たちはまだ走れても、か弱い花には充分な陽光と水と、やすらぎが必要だった。
 今、チェザは風を避ける岩陰でキバに護られている。ヒゲは食べ物を探しに行き、トオボエもまた曠野へ立っていた。
「ツメもそう思うでしょ?」
 いきなり声をかけられて、ツメは一瞬、戸惑うような表情を見せた。もしかしたら、風下に立っているツメは、トオボエには自分の存在を気づかれていないと思っていたのかもしれない。
 が、すぐにツメも静かにうなずく。
「――ああ」
 トオボエは小さく、くすっと笑った。
「良かった。今ではちゃんと信じてくれてるんだね」
「なんだと?」
「だってツメ、最初は信じてなかったでしょ。楽園のこともチェザのことも……キバのことも。なのに、成り行きでオレたちと一緒に街を出ることになっちゃってさ――」
 からかうように見つめるトオボエに、ツメはふいと視線を逸らした。
「飽きが来てたからな。あの街にも」
「うん、そうだね」
 トオボエはそれ以上、問いただすのをやめた。
 チェザに出逢って、ツメは変わった。金色の瞳に荒んだ陰りがなくなり、餓えた自分を持て余すかのようにただひたすら死地へ向かって突っ走ることもなくなった。一面に凍りついた大地を疾走する時、たしかにその眼は、その先にあるものを見つめている。
 ――狼たちの楽園を。
 トオボエはそっと、ツメのかたわらに寄り添った。
 広い肩に頭をもたせかけ、体重をあずける。
 ……いっしょに行きたい。ツメといっしょに、楽園へ行きたい。
 そこはきっと、明るい陽光と澄んだ水にあふれ、大地はやわらかな緑に覆われて、どこまでもどこまでも駆けていけるだろう。風は甘く、いつでも花の香りに満ちているに違いない。すこやかな命のいとなみがあり、新たな生命が次々に誕生していることだろう。
 そして――そこでなら。
 ツメがふと、その長身をかがめた。トオボエの唇にくちづける。
「な……っ! ち、ちょっと、待って――!」
 トオボエは思わず、ツメの腕を払いのけようとしてしまった。顔が火であぶられたみたいに熱くなり、耳元まで真っ赤に染まっている。
「トオボエ?」
 名前を呼ばれても、顔もあげられない。
 ……どうしてわかっちゃったんだろう。オレが、ツメにキスしてもらいたいって思ってたこと。
「嫌か?」
 低いささやきに、身体がかすかにふるえた。
「……や、じゃ――ない……」
 そしてトオボエは、強い腕に抱きしめられた。
 唇がもう一度、トオボエのくちづけを求めて降りてくる。
 トオボエも、自分からツメの背へ腕を回し、彼をしっかりと抱きしめた。
 唇が重なる。わずかに開いた隙間から、するっとツメが忍び込んできた。熱い舌先がトオボエの中をゆっくりとなぞり、小さな舌に絡みつく。上あごのもっとも敏感な部分をそろっと撫でて、同じことをしてみろと、トオボエを誘う。
 おずおずと、トオボエはそれに応えた。
 くちゅ……と、かすかな水音が響く。接吻がどんどん深く、淫らに絡み合うものになっていく。
「あっ……。ふぁ、あ――ツ、ツメ……っ」
 息苦しさに耐えきれず、トオボエはわずかに顔を背けた。
 もう、ツメの背中にしがみついていなければ、立っていることもできない。
「トオボエ――」
 大きな手のひらが、ゆっくりとトオボエの背を撫でる。たったそれだけで、ぞくぞくと熱い震えが背筋を這い昇っていった。
 そのまま二頭の狼は、もつれ合うように地へ伏せた。互いの身体がわずかな隙間もなく、ぴったりと寄り添い合う。
 トオボエは目を閉じ、ツメの身体にすがりついた。全身を包み込む、ツメの熱い体温。匂い。呼吸をするたびに、ツメの命が身体のすみずみにまで染みとおっていくようだ。
 ――そう。ずっと……ずっと、この熱い生命を抱きしめていたい。
 ツメといっしょにいたい。
 いっしょに、楽園へ。
 そして……、そうして――。
 そう思った、瞬間。
「――トオボエ?」
 ツメがふと顔をあげた。
「お前……!」
 少し驚いた表情をして、トオボエを見つめる。
 トオボエの頬が、熟れた烏瓜
(カラスウリ)のように真っ赤に染まった。
 ――気づかれちゃった!
「お前……。そうか――」
 喉の奥に絡みつくような、低くかすれる声で、ツメはささやいた。
 トオボエの首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。
「いい匂いだ」
「や……っ。やだ、ツメ――!」
 トオボエはますます朱くなった。ツメに指摘されなくても、甘ったるい、熟した果実のような匂いが、自分の身体から漂い始めているのがわかる。
 身体を小さく丸めて、ツメの視線や嗅覚から少しでも逃げようとする。が、ツメはそれを許さなかった。
「見せろよ」
 トオボエの腕をつかみ、開かせる。そして首筋から胸元へ、ゆっくりと頬をすり寄せた。わずかに丸みを帯び始めた乳房に顔を埋め、もう一度大きく息を吸い込む。
「すげえ、そそられる……。どこからあふれてるんだ、この匂いは」
「やだ……やだよぉ、ツメぇ……っ」
 ツメの指先が、胸の先端をかすめる。それだけで、小さな突起は濃い桜色に染まり、木の実のようにぷつっと硬くなった。
「ああ――、ここか」
 懸命に閉じようとしていた膝にツメの手がかかり、大きく開かされた。
 その奥に息づく秘密に、ツメは迷うことなく唇を押し当てた。
「あ、あぁっ!」
 トオボエの身体がびくりと震え、大きくのけ反った。
 熱いキスが、トオボエの秘密をゆっくりと犯していく。ツメは濡れた花びらを指先でかき分け、丹念に舐め上げていった。その奥からあふれ出す透明な蜜を、存分に味わう。
「ふ、ぁ、あ……っ。や、あ、ツメ……っ」
 トオボエはもがき、ツメの愛撫から懸命に逃れようとした。
 猫が水を舐めるような、淫らな音が絶え間なくこぼれる。狭い入り口に舌先を忍び込ませ、ツメも夢中でトオボエのそこを貪っていた。
 ツメの舌先がわずかに動くたびに、身体が熔けそうになる。愛されているそこから熱く激しい波が湧き上がり、身体中を浸していく。心臓がせり上がり、口から飛び出してしまいそうだ。
「だ、だめだよぉ……っ。オ、オレ、もう――おかしくなっちゃうよぉ……っ!」
 他になにもできなくて、トオボエは力なくすすり泣いた。
 まったく力が入らず、ぐったりと地に這った身体を、ツメが抱き起こす。
 拾い胸に抱き取られ、トオボエは小さくため息をついた。
 そして、
「は、あ――あああぁっ!!」
 ツメの膝に乗せられ、真下から貫かれる。
 トオボエは身体中でツメにしがみついた。ツメの首に抱きつき、自分から逞しい腰に脚を絡めて、すがりつく。
「あぅ、あ、ツメ、ツメぇっ!」
「トオボエ――!」
 身体の中で、ツメが脈動している。まるで彼の命そのもののように。トオボエはその灼熱の塊を、全身で抱きとめ、身体のもっとも奥深くまで受け入れた。
「あっ、や……あ、熱い、熱いよぉ……っ。ツメ、こ、こんな――あ、あふ、ああ……っ」
 なにかがせり上がってくる。ツメが激しく突き上げてくるたびに、身体中が浮き上がり、飛んでいってしまいそうになる。
「い、悦いよぉっ! いい、悦いの、ツメ……っ!」
「ああ、俺もだ……!」
 快楽にかすれた声で、ツメもささやく。
「俺も、悦いぜ、トオボエ……!」
「こんな――こんなの、初めてだよぉ……っ!」
 頭の芯で真っ白な火花がスパークする。トオボエはさらに強く、ツメにしがみついた。
「ツメ、も、もっと……! もっと、強く――お願い、もっと……っ!!」
 キスを求める。自分から唇を重ね、蕩ける舌先を絡め合う。じんじんと疼く胸の先端を、ツメの広い胸に押しつける。胸も、腰も、脚も、髪ひとすじの隙間もないようにぴたりと重ね合わせ、強く擦り合わせる。まるでそのまま、一つの熱い命になってしまおうとするかのように。
 快楽を追う二人のリズムが一つに溶け合い、さらに激しくなっていく。
「あっ、あ、ツメ、ツメぇっ!! いい、もぉ――あぁああっ!!」
 そして二人は同じ瞬間に、眼も眩むような悦楽の極みではじけ散った。





 ……どうして、わかっちゃったんだろう。
 楽園についたら。
 そこはきっと光とあたたかな風にあふれ、大地は緑に包まれ、泉には澄んだ水が滾々とわき出しているだろう。命のすこやかないとなみが、営々と続いているだろう。
 自分たちもそこでなら、ありのままの姿で生きられる。親から引き継いだ狼としての命を損なうことも歪めることもなく、きっと自分たちの子供へ引き継がせてゆけるだろう。
 そう。楽園でなら、きっと、許される。すべての命が許される。
 ツメも、ずっと彼を苦しめてきた彼自身の罪の意識から――それが何であるのか、トオボエはまだまったく知らないけれど――きっと解き放たれる。
 そして、自分は。
 ……ツメの子供を産みたい。
 そう思った瞬間、トオボエの身体は一気に発情していたのだ。
 身体中から甘く濃く発情期の匂いが立ちのぼり、ツメも即座にそれに気がついた。
 狂おしいほどの快楽が通り過ぎたあとも、トオボエはツメの胸に顔を埋めたまま、顔をあげることもできなかった。
「――つらかったか?」
 少し戸惑うように、ツメが低く言った。
「その……なんだ。また、やりすぎたか、俺が……」
「う、ううん! そんなことない――。ないよ……」
 真っ赤に染まった頬をさらに強くツメの胸元に押し当てながら、トオボエは消え入りそうな声でささやいた。
「うれしかった……。オレも――」
 ツメはどこまで、気がついているだろう。トオボエが楽園に夢見ていること、トオボエがいきなり成熟して、大人の雌になった理由。
 ……みんな、知っているかもしれない。トオボエはそう思った。
 自分のこの気持ちに気づいて、ツメは抱いてくれたのかもしれない。
 でもツメは、そのことを口にはしないだろう。きっと、楽園に着くまでは。
 自分も、今はまだ何も言わないでおこう。ただ楽園へ行くことだけを、考えよう。
 ツメの大きな手が、トオボエのアンバーブラウンの髪をそっと撫でた。まるい頬を撫で、そして顎を支えて上向かせる。
 静かに触れ合うだけのキス。長く、優しく、ただお互いがここにいると確かめ合うためだけの。
 一つに重なる呼吸の中に、同じ思いを感じ取る。
 楽園へ辿り着いたなら。
 自分たちはそこでつがいになり、子供を産んで、育てて。新しい群をつくるのだ。本当の狼として、生きるのだ。
「行こう、楽園へ」
 同じ誓いを、トオボエはふたたび口にした。
「ああ」
 ツメもうなずく。
 いっしょなら、きっとたどり着ける。どこにあるかも、今はわからないけれど。
 必ず、たどり着けるよ。
 トオボエはもう一度、ツメの胸に顔をうずめた。
 遠吠えが聞こえる。ヒゲが戻ってきたのか、キバが高く声をあげ、仲間達を呼んでいるのだ。
「行こう、ツメ」
 トオボエは自分から立ち上がり、まだ座ったままのツメに手を差し伸べた。
 ツメが、その手を取る。トオボエと並び、まっすぐに前を見る。
 狼たちの前には、ただ果てもない曠野だけが広がっていた。





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【楽園の匂い 3】
この頁の背景画像は「MAKO'S薔薇素材」様からお借り致しました。
元ネタの「WOLF'SRAIN」は2003年深夜に放送されていた作品ですが、私自身、TV放送は見ておりません。2006年のお正月休みにレンタルDVDで見ました。こういうとき、サイトってほんと便利です。
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