源氏の君は、本当は一刻たりとも紫うの上の枕元を離れていたくはないはず。わたくしと向かい合っていても、どこか上の空なのがよくわかる。
 けれど、彼がどれほど紫の上を愛していても、源氏の君の正妻はやはり内親王であるこのわたくしなのだ。
 源氏の君はわたくしをないがしろにはできない。時間が取れれば、こうしてわたくしに会いに来て、夫婦らしい姿を取り繕わなくてはならない。お互い、それがどんなにわずらわしくても。
 源氏の君が内心の不快を押し殺しながらわたくしと向き合っているのを見て、わたくしはちくりと彼の手を針で刺してやったような、ささやかな小気味よさを感じていた。
 彼がそういう不快を感じているのは、彼自身のせい。欲得ずくでわたくしを強引にめとった、むくいなのだから。
 そんなことを考えるようになったのも、柏木との密通のせいかもしれない。わたくしはそう思った。
 柏木はわたくしに、源氏の君がわたくしをめとった本当の理由、この結婚の裏にあった政治の駆け引きを、教えてくれていた。
「本当に、なにがあったのかな?」
 不意に、源氏の君が言った。
「今日ずいぶんとご機嫌がよろしいようだ。私のことを少しは許してくださったのかな?」
「えっ!?」
「いつもなら私の話など何一つ聞いていないのに、今日に限っては、ちゃんと私の方を見ておられる。何か私に、言いたいことでもあるのですか?」
 そして凝
(じ)っと、あの鋭く冷たい、突き刺すような瞳で、わたくしを見る。
「それとも、反対に何か、私に知られたくないことでもあるのかな」
 わたくしは一瞬、心臓を突き刺されたような気がした。
 ぐらりと目の前が揺れる。
 ――まさか。
 まさか、この人は、わたくしと柏木のことを知っているのか。
 いいえ、そんなはずはない。源氏の君が知るはずはないのだ。
 わたくしは懸命に、自分に言い聞かせた。
 源氏の君が六条院に戻ってきた時には、いち早く小侍従が柏木に知らせてくれる。今夜は柏木も、六条院へは近づかないはず。
 わたくしの回りの女房たちも、まだ誰一人としてわたくしたちの密通に気づいた者はいない。
 大丈夫。わたくしたちは慎重に秘密を守り抜いているのだから。
 ここで慌てたりすれば、よけいに疑いを持たれてしまう。顔色も変えず、いつもどおりにしていなければ。そう、源氏の君が知っている、人形のようなわたくしのままでいるのだ。
「どうかしましたか、姫宮」
「いえ、なにも」
 つとめて退屈そうな表情をつくり、眼を伏せる。源氏の君と眼を合わせると、その瞳の奥からすべての秘密を探り出されてしまいそうな気がした。
 重ねた袿の下で、冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。
 そんなわたくしを眺め、源氏の君はかすかに笑った。
 それは、自分に逆らうわたくしが可愛いと言った時の、あの笑顔だった。
 そして、もう何も言わなかった。
 わたくしを抱き寄せ、御帳台へ引き寄せる。
 それは夫として、当然の行為であり権利。わたくしも逆らうことは許されない。
 暗い御帳台の中で、源氏の君はゆっくりとわたくしを抱いた。
 横たわるわたくしの胸元や腰を、静かに愛撫する彼の手。その指先は、柏木の指より乾いて、少し柔らかかった。
 寄り添う身体も柏木より体温が低いみたい。
 唇を重ねられると、ふうっと異国めいた香りが漂う。源氏の君の肌に染みこんだ香が、わたくしの全身を包み込む。
 胸の先端にくちづけられ、わたくしは小さく息を飲んだ。
 甘い疼きが、じん、と広がる。
 二つのふくらみ、その頂きで揺れる小さな紅色の突起、なだらかな腹部、さらにその下で息づく秘密。源氏の君がそうっと触れていくところすべてから、じわじわとさざ波のように広がっていくものがある。
 わたくしは、源氏の君に抱かれて初めて、快感を覚えていた。
 柏木によって呼び覚まされた悦楽が、源氏の君に抱かれても湧き上がり、わたくしの身体をざわめかせる。
「ん……っ」
 思わずこぼれそうになるあえぎ声を噛み殺す。
 源氏の君が、ふと顔をあげた。
 わたくしは顔を背けた。
 けれど源氏の君は、わたくしのほほに触れた。薄赤く染まったわたくしの目元、耳朶、首すじを、二本の指を揃えて線を描くように、すうっと撫でていく。
 それだけでわたくしの身体はぞくぞくとふるえ、反射的に彼の身体にしがみついてしまいそうになる。
 源氏の君は、笑った。
 何も言わず、ただわたくしを見つめて。
 その笑みの奥で、彼がいったい何を考えているのか、わたくしにはまったくわからない。
 ただ、やはり怖かった。
 快楽に熱くなっていた身体が、一気に冷めていく。
 いいえ、そんなはずはない。わたくしは胸の奥底で、必死に自分へ言い聞かせた。わたくしは生まれ変わった、柏木との恋がわたくしを強くしてくれたはずだ。源氏の君を裏切り、彼を傷つけることもいとわない、強くてふてぶてしい女になれたはずなのだ。
 源氏の君に怯えるなんてこと、もう、あるはずがないのに。
 源氏の君はわたくしの脚を開かせ、そしてゆっくりとわたくしの中へ入ってきた。
「く、うぅ……っ」
 力強く、けして焦らない律動。
 静かな波のように寄せては引き、またゆるやかにうち寄せる。まるでわたくしを焦らして遊んでいるみたい。
 柏木はわたくしをつらぬくと、すぐに苦しくなるくらい奥へ奥へと突き上げてくるのに。
 源氏の君は、まるでわたくしが抵抗を諦め、自分からすべてを差し出すのをゆっくりと待っているかのようだった。そのためなら、どれほど時間をかけてもかまわない、とでもいうように。
 やがて、悦楽を覚えたばかりの身体が、その動きへ貪欲に応え始める。
「ん、う――くふぅ……っ」
 身体の芯から、熱くぬめるものがあふれるのを感じる。大きく開かされた両脚がわななくのが、止められない。
「あ、あ……いや……っ!」
 意味のない嬌声に、応えてくれるささやきはなにもなかった。
 ――いけない。これは、裏切りだ。
 源氏の君の愛撫に喜ぶことは、柏木への裏切りになる。わたくしは自分にそう言い聞かせ、身体を固くした。いつもどおり、人形のように無反応でつまらない女でいなければ。
 わたくしに燃え上がる歓びを教えてくれたのは、柏木。だからその喜びをともに享受するのも、柏木でなくてはならないのだ。
 それに、ここでわたくしが普段にはない反応を見せれば、源氏の君だってきっと不審に思うはず。
 けれど身体の奥底に湧き上がる熱い感覚は、眼を逸らそうとしてもできるものではない。懸命に歯を食いしばっても、掠れてうわずるあえぎがもれる。ともすれば両手が勝手に源氏の君にすがりつこうとする。
 かたく閉じた瞼の裏に、源氏の君の笑みが浮かんだ。あの、わたくしのすべてを見透かしているような、冷たく謎めいた笑みが。
 ――なにを意固地になっているの。その笑みは、そう言っていた。
 素直になりなさい。あなたはなにも考えず、ただ私のなすがままになっていればいいのだ。それがあなたの役割だ。
 朱雀院からもらった可愛い人形、それがあなただ。それしか、あなたにはできないのだよ。最初からね。
 次第に頭の芯が白くぼやけ、なにも考えられなくなっていく。気力が全身の穴という穴から流れ出してしまうのを感じる。
 身体の内側から、源氏の君の支配に慣らされていくみたい。
 ――そうだ。私に逆らってはいけない。あなたは、私のものだ。
 ほくそ笑み、源氏の君がそうささやいているような気がした。
 そしてわたくしは、彼の手を払いのけることすらできなかった。
「いや、あ……もう――! もう、だめ……っ!」
 源氏の君の思うがままに、翻弄され、乱され、快楽の淵へ追いつめられていく。突き落とされる。
 怖い。この男が怖い。わたくしを支配し、思うがままにもてあそぶこの男が怖くて、憎い。
 けれど、どうしようもない。
 自分の無力さ、小ささが改めて思い知らされる。結局わたくしは、源氏の君の手のひらから這い出ることもできないのだ、と。
 それでもいつか、柏木との恋が、この男への恐怖も敗北感も、すべてぬぐい去ってくれるだろうか。
 わたくしはそうであってほしい、そうあるべきなのだと自分に言い聞かせた。
 いつか必ず、わたくしたちはこの男にうち勝つことができるはずだ。わたくしたちの恋が、この男の権力を凌駕する時が来る。
 けれど同時に、そんな時は永遠に来ないような気もしていた。






  三、闇の眼


 源氏の君はその夜一晩だけ、六条院に泊まり、夜が明けると早々に二条の邸へ戻っていった。
 女房たちの中には、まるで自分自身が見捨てられた妻であるかのように嘆く者もいたけれど。
 ――これでまた、柏木と逢うことができる。
 遠ざかる牛車の軋みを聞きながら、わたくしが思ったことはただそれだけだった。
 源氏の君がいなければ、彼に対する胸を締め上げるような恐怖も、感じずにいられる。
 眼が覚めると、わたくしはすぐに髪を洗った。
 陰陽師に占わせもせずに、と、年輩の女房たちはぶつぶつ文句を言ったけれど、気にしない。一刻も早く、源氏の君の残り香を洗い流してしまいたかった。
 わたくしの髪は量だけはたっぷりあって、一度洗うと、乾くまでが一苦労。重くて頭もあがらなくなる。
 でもそれを理由に、わたくしは小侍従以外の女房たちを全員追い払った。話しかけられても、声のする方へ顔を向けるのも苦しいから、と。
「このまま、源氏の君が二度と六条院へ戻ってこなければいいのに」
 まわりに人影が少なくなると、わたくしはつい、小侍従にそうつぶやいてしまう。
「紗沙さま! そんなことをおっしゃっちゃいけません!」
 小侍従は、周囲で誰が聞いているかわからない、と、あわててあたりを見回した。
「大丈夫よ、誰もいないわ。女房たちはみんな下がらせたもの」
 わたくしはくすくすっと笑った。
 なんだかわたくしたち二人の関係まで、逆転してしまったみたい。いつもは小侍従のほうがぺらぺらとよけいなことまでしゃべりすぎ、わたくしがそれを止めていたのに。
 それでもまだ不安そうな顔で、小侍従はわたくしのそばへ寄ってきた。
「紗沙さま、少しお髪をお直しいたしましょうか」
 そんな必要もないのにわたくしの髪をかき上げ、そしてその手でそっと、わたくしに小さな結び文を握らせる。
「柏木からね!?」
 わたくしは思わず、声を高くはずませた。
「紗沙さま!」
 小侍従はびくっと身体をこわばらせ、怯えたように眼だけであたりを見回した。
「もう、小侍従ったら。そんなにびくびくしていたら、よけいに怪しまれるわよ」
 わたくしは御帳台の中へもぐり込んだ。
 たしか今夜は、柏木は内裏で宿直
(とのい)だと言っていた。
「早く帷を降ろして。誰か来ても、わたくしは具合が悪くて寝ていると言ってちょうだい」
 そう命じて、わたくしは思わず吹き出して笑ってしまった。
「そうよね。昨夜は源氏の君が泊まってゆかれたんですもの。わたくしは一晩中寝かせてもらえなくて、疲れてるのよ」
 白々しい言い訳。わたくしと源氏の君がそんな親密な間柄だなんて、誰一人信じないに決まっている。
 けれど、これが世の夫婦の理想像だろう。うわさ好きの女房たちに、この話を盛大に広めてもらいたいくらい。わたくしと柏木との密会の良い隠れ蓑になるだろうから。
「まあ、紗沙さまってば……」
 小侍従も小さく苦笑した。
 けれど、なかなか帷を降ろそうとしない。いつまでも御帳台のそばでぐずぐずしている。
「早く帷を降ろして。灯明に虫が飛び込むわ」
「ええ、はい、その……」
 不安そうにあたりをうかがってばかりいる小侍従に、わたくしは言ってやった。
「だいたい、源氏の君にわたくしたちのことを責める資格があるのかしら? あの方だって、朧月夜と密通したじゃない。帝の後宮へあがることが決まっていた女と」
「朧月夜尚侍と紗沙さまとでは、お立場が違いますわ!」
 小侍従は半分べそをかきながら、小声で言い続けた。
「朧月夜さまは入内が内定していただけで、あとからいくらでも理由をつけて、反故
(ほご)にできる状態だったんですのよ。でも姫さまは、源氏の君のもとへ正式にお輿入れなさったんです。三日夜(みかよ)の餅も召し上がって、所顕しの宴だって、お客さまを集めてあんなに盛大になさったじゃありませんか!」
「わたくし、食べてないわよ。目の前に出されただけ。あんなの、噛み切らずに飲み込むなんて、できるわけないじゃない」
「またそんなへ理屈を!」
 わたくしはそっぽを向いた。そして柏木の手紙を開き始める。
 帷が降ろされるのなど、待っていられない。
「姫さま……」
 やむなく、小侍従は御帳台の帷を降ろした。
 わたくしの姿をまわりから見えないように隠し、それでもまだ小侍従は、わたくしのそばを離れようとしなかった。
「わたしだって、紗沙さまのお気持ちがわからないわけじゃありません。ただもう少し慎重に、お気をつけになってくださいませって――そうお願いしてるだけですわ」
 小侍従の気持ちはわたくしだって、わかっている。ありがたいと思っている。
 小侍従が仲立ちしてくれなければ、わたくしは柏木と文のやりとりもできないのだから。
 でも……だからこそ。
 小侍従にだけは、言ってしまいたかった。わたくしがいつも思っていることを。
「源氏の君が悪いのよ。権力ずくで無理やりわたくしをめとったりするから。裏切られるのも当然だわ」
「政略のために妻をめとる男は、源氏の君お一人じゃございません。廟堂でしのぎを削る殿方はみな、同じことをなさっておいでです」
 小侍従はいつになく、苦しげにため息をついた。
「どうしたの、小侍従」
 わたくしがうながすと、小侍従は少しためらい、やがて思い切ったように顔をあげた。
「わたし、聞いてしまったんです。ついこの間、夏の御殿で、あちらの女房たちとおしゃべりしてる時に――」






  《小侍従の語れる》
 わたしたち御殿仕えの女房にとって、女主人におもしろいうわさ話をお聞かせするのも、大事な仕事のひとつです。どちらの女君も、日頃はほとんど人付き合いもせず、薄暗い御簾の奥に閉じこもっているだけなんですもの。女房のもたらすうわさ話だけが、世間への窓なのです。
 夏の御殿の女房たちは、女主人がおっとりとして地味な……いえ、心静かにお暮らしの花散里の御方ですから、やはり新しい情報やうわさ話に疎くなりがちのようで。
 わたしみたいな情報通を、けっこう頼りにしているみたいなんです。
 この前も、花散里さまがちょっとお昼寝されているあいだに、わたしは女房たちが集まる局に招かれて、いろいろとお話していました。
 もちろん、紗沙さまのことは用心に用心を重ねて、何一つ漏らしてはおりませんわよ。源氏の君のお渡りがなくても、お恨みもせず、おっとりと子供っぽくお過ごしだと、もっともらしく嘘をついておきました。
 そんな時、不意に夕霧中納言が局へお越しになられたんです。
「あらまあ、若さま」
 女房たちは慌てもせずに、今さらながらのんびりと扇をかざしたりしてましたわ。
 今までにも、そういうことは何度かあったみたいです。夕霧さまは夏の御殿で少年期をお過ごしになられましたし、女房たちは古手のおばばさまばかり……あ、いえいえ。とにかく、夕霧さまにはこの御殿は、どこへ行っても気兼ねの入らない、お気楽な場所なのでしょう。
 この御殿には大きな馬場や射弓場の施設なども設けられています。まさか花散里さまが乗馬なさったり弓を射たりなさるわけもございませんでしょうから、ここはやはり、夕霧さまのための御殿なのです。
 上流階級の殿方は、ご結婚なさっても生活の場を完全に婿入りされたお宅へ移してしまうわけではございません。ご実家にもちゃんと自分の生活の場をお持ちになるのが通例です。源氏の君も、左大臣家――今の太政大臣家に婿入りされたあとも、お母君から相続された二条のお屋敷をご自分の日常の住まいとされておられました。
 夕霧さまも、雲居雁姫との新婚家庭は、姫君がお祖母さまから相続されたお屋敷でお幸せにいとなんでらっしゃいますが、それとは別にご自分だけのお屋敷として、お父君の御殿の一角にお住まいをお持ちでらっしゃるのです。そして花散里の御方は夕霧さまの母君代わりとして、若殿がいつお戻りになられても良いように、御殿の家政をあずかってらっしゃるわけです。
 夏にお庭が盛りを迎えるよう、美しい花々や遣り水で見事に整えられたのは、花散里さまのご趣味でしょうが。……夕霧さまは、こういう方面に関しては少々朴念仁でらっしゃいますから。
「あれ。見慣れない顔がいるな。きみ、どこの対の女房ですか?」
 夕霧さまは気さくに、わたしに声をかけてくださいました。
「ああ、思い出した。春の御殿の、姫宮さま付きの女房だろう。こんなところまで出張してきておしゃべりですか? 女って本当に、うわさ話が好きだなあ」
 なんて、おっしゃって。
 すっきりした柳襲
(やなぎがさね)のお直衣が、良くお似合いでしたわ。
 お顔立ちは、もちろん源氏の君に似てらっしゃいますけど、むしろわたしは柏木さまに近いものを感じました。夕霧さまはきっと、お母君さま似なのでしょうね。
 柏木さまは、後ろ暗い恋のせいか、つねに思いつめたような陰がつきまとって、目元にも鋭く暗いものがあります。
 でも夕霧さまには、もちろんそんな陰りなどもなく、いかにも新婚らしくお幸せそうな表情をなさってました。
「ぼくの顔がそんなに珍しい? もしかしてきみも、父と僕とをくらべているの? すまないね、見劣りする息子で」
 そんな下手な冗談もおっしゃいました。
「とんでもございません。そんなふうにご自分を卑下なさってばかりだと、まわりも『ああそうか』と信じてしまいますわよ。もっと自信をお持ちなさいませ」
「きみと話してると、誰かを思い出すな。……ああ、そうだ。藤典侍
(とうのないしのすけ)だ」
 藤典侍は、夕霧さまの愛人です。
 たしか、源氏の君の乳母子である惟光どのの娘で、かつて五節
(ごせち)の舞姫をつとめ、そののち女官として内裏に勤めながら、夕霧さまの寵愛を受けているとか。夕霧さまとの間にすでにお子も生まれています。働くお母さんなのですわね。関係は長いのですが、身分が低いので、夕霧さまの妻の一人に数えられることはございません。
「話し方が似てるんだよ。しゃきしゃきして、なんでもないことまで凄い大事件みたいに面白く聞かせてくれる、その話し方」
「あら、そんなつもりは毛頭ございませんのに」
「……だから、かな」
 夕霧さまは、ふとあたりを見回しました。
 気づくと、さっきまでおしゃべりしていた女房たちがみんないなくなっています。
 たいして広くもない局で、わたしは夕霧さまと二人きりになっていました。





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