無邪気にはしゃぐ小ひなに、こと美は一瞬、返事に詰まった。目元にさっと暗い陰がよぎり、それをごまかすように曖昧にほほえむ。
「あ……違うの? ごめん。あたし――」
「ううん、いいの。壮
(そう)さん、しばらく来られそうにないの。これから年末にかけて、工場が忙しくなるんだって」
「そっか……。淋しいね」
 小ひなは申し訳なさそうにうつむいた。
「でもさ、それならお正月明けにはきっと来てくれるね。お土産いっぱい持ってさ。いいなあ、姐さん。優しい間夫がいて」
  逢うてうれしや 別れのつらさ
     逢うて別れがなけりゃ良い……
 小唄を口ずさみ、小ひなは足早に階段を降り始めた。
「ほら、早く行こ。姐さんも銀ちゃんも、ぼんやりしてたら、ほんとに朝ご飯なんにもなくなっちゃうよ! みんな、朝から大食いなんだから!」
「そう言う小ひなちゃんが、一番良く食うんじゃないか」
「あ、言ったな、銀の字!!」
 こと美がくすくす笑いを浴衣の袂で隠しながら、後に続く。
 銀次も立ち上がり、廊下へ出た。階下からは、あたたかな食べ物の匂いが流れてきていた。





 娼妓たちの食事が終わると、妓楼も本格的に一日の営業の準備が始まる。
 仲居や遣り手など通いの従業員たちも顔を揃え、娼妓たちも客を迎えるために身繕いをする。ある者は廓の中にある銭湯へ出かけ、ある者は髪結いを呼ぶ。
「うわあ、きれいねえ、その西洋服
(ドレス)!」
 千登勢の部屋で、娼妓たちの歓声があがった。
「仕立屋が、今日やっと持ってきたんだよ。どう?」
 濃いばら色のドレスを着た千登勢が、鏡の前で胸をそらし、ポーズをとっている。
 ドレスは胸元が大きく開き、裾はくるぶしまで届く。悦に入っている千登勢のそばには、西洋髪結いが巻き髪を作るための鏝
(こて)を火鉢で熱しながら待っていた。
 大正時代、一般の女性たちの間には意外に洋装は浸透していなかった。活動しやすい洋装が女性たちの日常にも定着するのは、関東大震災以降である。欧風化を至上命題としていた政府高官の関係者以外に、もっとも早く西欧風の装いを取り入れたのは、実は吉原の娼妓たちだったという。
「今度のお酉さんには、このドレスを着ていくつもりよ。ちゃんとハイヒールも揃えてもらったんだから」
 千登勢は箱から新品の紅いハイヒールを出し、朋輩たちに見せびらかした。
 お酉さんとは、浅草の鷲
(おおとり)神社の祭礼である。商売繁盛、立身出世に御利益があるというこの神社は、吉原からもっとも近いこともあり、昔から娼妓たちの信仰を集めていた。十一月の酉の日には祭礼とともに神社の沿道に市が立ち、熊手や破魔矢などの縁起物のほかに駄菓子や子供の玩具などを売る露店がずらりと並ぶ。「三の酉まである年は火事が多い」と昔から言い習わされてきた酉の市である。
 この日は、吉原の紋日である。娼妓たちは馴染みの客に連れられて神社をお参りし、市をひやかす。精一杯着飾って、人々の注目を集めるのだ。
 光沢のあるサテン生地で作られ、裾が花のように広がるドレスは、女にしては背が高い千登勢によく似合っていた。豊かな胸のふくらみや引き締まったウエストを強調し、見る者の視線を釘付けにする。
「すごいなあ、千登勢姐さん。豪勢だよねえ」
 他の部屋から様子をうかがっていた娼妓たちも、感嘆の声をもらしていた。
「あのドレス、高価
(たか)いんだろうねえ。あれも客からの贈り物なんだろ?」
「じゃあやっぱり本当なんだ、あの噂。千登勢が、どっかの成金に身請けされるって話」
「え、ほんと!? 誰よ、その客って!」
 ひそひそとささやき交わされる言葉には、羨望と嫉妬が入り交じっている。
「知らないよ。本決まりになるまで、遣り手も本人も詳しい話は絶対にしないじゃない。しらばっくれちゃってさ」
「そりゃそうさ。身請けしてくれる相手がわかったら、その男にあることないこと告げ口して、邪魔してやろうってヤツが必ず出てくるからね」
「それはあんたのことじゃないの!?」
「なにさ! あんただって、千登勢が上客を独り占めにしやァがる、あんな性悪
(しょうわる)がお職だなんて許せねェって、いっつもぶうぶう文句たれてたじゃないのさ!」
 娼妓たちにとって、金持ちの男に見初められ、男に借金を肩代わりしてもらって身請けされることは、この苦界から抜け出すほぼ唯一の手段だ。
 建て前では、年季契約の期限が過ぎれば、娼妓は店を出るのも商売を辞めるのも自由ということになっている。だが現実はそんなものではなかった。廓に入れば、雪だるま式に借金が増えるようになっているのだ。
 客が支払う代金は、その四割を妓楼が部屋代として天引きする。残り六割が娼妓の取り分だが、娼妓はこの中から前借りした借金を返済しなければならない。生理などで客が取れない日にも、部屋代は支払わなければならないし、着るもの食べるもの、布団やはては化粧品に至るまで、すべて妓楼を通して買わねばならないのだ。当然、それらはみな市価より割高だ。
 年季が明けても借金は増える一方、結局は別の色里へ売り飛ばされていくしかない女がほとんどだった。
 それゆえに、朋輩の誰かが身請けされるらしいと聞くと、娼妓たちは羨み、妬み、時には自分には手に入れられない幸福をぶちこわしてやろうとしてしまう。一人だけ地獄を逃げ出そうなんて許さない、と。
「千登勢だっておんなじだよ。あんた、知らないのかい。一年前、その当時お職だった女郎が首吊り自殺したんだけどさ、そのわけが、まとまりかけた身請け話がだめになったからなんだよ」
 娼妓たちは顔を寄せ合い、うわさ話に夢中になっていた。他人を妬み、ののしる暗い歓びに眼を輝かせる。
「田舎の大地主の後妻にって望まれてたのを、千登勢が客に告げ口したのさ。あの女にゃタチの悪いヒモがついてる、身請けなんぞしたら、ヒモの男がどこまでも追いかけてきて銭をたかるだろうって」
「ヒモなんて――。そんなの、当たり前じゃないか。女郎なら誰だって、間夫
(まぶ)の一人や二人抱えてるもんだろ。惚れた男がいなけりゃ、こんな勤めなんぞやってられるもんか」
「そうなんだけどさ、そこは千登勢の口舌だよ。身請け話は結局おじゃん、世をはかなんで花魁は哀れ首吊りぃ……」
 芝居がかった口調に、回りの娼妓たちは一斉にきゃあっとはしゃいだ声をあげた。
「あんたたち、いつまでくっちゃべってんだよっ! もうすぐ昼見世が開くよ、さっさと支度しないかい!」
 遣り手婆
(やりてばばぁ)のしわがれた怒鳴り声が飛んだ。
「みよ路、なんだい、そのツラぁ! 白粉
(おしろい)がはげちょろけじゃないか! 豊菊(とよぎく)も、サルマタ一丁で客の前に出る気かい!」
「いやだ、お辰さん。サルマタじゃないわよ。ズロースって言ってよ!」
 きゃあきゃあと、なかばやけくそのような活気が、妓楼の中に満ちていく。
 やがて釣瓶落としの秋の陽が暮れ、大門の内側に灯りがともると、浅草田圃のまん中にこの世ならざる桃源郷が出現する。なまめかしい灯りに照らされて、着飾った娼妓たちは天女にも見紛うばかりだった。
 酒の酔いと好色な期待とに眼を朱くした客たちが、次々に大喜楼ののれんをくぐる。大広間では、数人の客が馴染みの娼妓のほかに芸者や太鼓持ちも呼んで、大騒ぎしていた。
 銀次も大喜楼の代紋を染め抜いた半天を来て、玄関の隅で下足番を勤めていた。
 が、そのうち、
「あれ? あれ、ないな。どこ行ったんだ?」
 銀次は台所のそばで、ごそごそとなにかを捜し始めた。
「銀ちゃん、なにしてんの?」
「小ひなちゃんか。いや、柱時計のネジがね、見あたらないんだ。そろそろネジ巻かねえと、止まっちまうのに」
 いつもはここに掛けてあるんだ、と、銀次は階段の横の柱を示した。鍵など小さなものを引っ掛けておけるよう、柱の中程に釘が打ってある。
「あらやだ。ネズミがひいてっちまったのかしら」
「まさか」
 銀次は苦笑した。
 濃く化粧をし、派手な打掛をまとった小ひなは、一人前の娼妓の姿だ。
 だが、客がついていないうちは帳場のそばや玄関先など道を往く男たちの眼につきやすい場所に居て、彼らの気を惹かねばならないはずなのに、小ひなは奥の台所に引っ込んだまま、いつまでもぐずぐずしていた。
 銀次はそんな小ひなの態度に気づきながら、あえてなにも言わなかった。
 小ひなも、家族の窮状を救うためと覚悟を決めてこの苦界に身を沈めたはずだ。一人でも多く客を取らなければ、借金が返済できない。それでも、来る日も来る日も見知らぬ男たちの玩具にされること、女として、人間としての尊厳を切り売りする廓の勤めが、つらくないはずはないのだ。身を売る時間が少しでも短くなればいいと、つい逃げがちになってしまうのも、無理はない。
 身体は他人の玩具でしかなくても、心まで玩具でできているわけではない。他人の幸福を妬むのも、自分の不幸せから少しでも眼を逸らそうとするのも、みな同じだ。その気持ちを、責められない。
 銀次は黙って、まるで小ひなの存在を忘れているかのように、ごそごそと柱時計のネジを捜し続けた。小ひなも、銀次の気遣いに気づいているのか、なんにも言わずに彼の丸めた背中を眺めていた。
 やがて、
「小ひなさん、小ひなさぁん、お客さんですよぅ!」
 玄関先から遣り手婆が声を張り上げ、小ひなを呼ぶ。
「はぁい、今行きまーす!」
 名前を呼ばれて、小ひなは意を決したように唇を噛み、台所を出ていった。
「いらっしゃいませえ!」
 のれんの向こうから、酔客の濁声と遣り手のしゃがれ声、そして精一杯明るく取り繕った小ひなの笑い声が聞こえてくる。
 階段の横の柱に寄りかかり、銀次はそれをもの悲しい想いで聞くともなく聞いていた。
 ふと気づくと、柱時計は秒針も止まり、うんともすんとも言わなくなっていた。
「さて……どうしたもんかな。ネジがなけりゃ話にならねえ」
 吉原では、宿泊客以外の客は夜一〇時から一二時の間に妓楼を出なければならない。一二時になると、吉原の唯一の出入り口である大門が閉められてしまうからだ。一度閉まった大門は、翌日の昼見世が開くまでは、原則として誰一人として通り抜けることはできない。旧幕時代から続く、女郎の逃亡を防ぐためのシステムだ。
 江戸の昔は時の鐘が鳴り響き、吉原全体に時刻を報せていた。が、西洋式の時刻と時計が普及してからは、それも廃れてしまった。
 大喜楼では、この柱時計の音が妓楼全体に時を告げていたのだが。
「まいったな。旦那の懐中時計を見せてもらうしかないか」
 ぼやきながら頭を掻いていると、
「銀次さん。二階のランプの灯油、お願いします」
 前掛けにたすき姿の女中が急ぎ足で近寄ってきた。髪にだいぶ白いものが目立つが、本当はまだそれほどの年令でもないはずだ。彼女は昔、大喜楼で娼妓として働いていた。年季が明けても、汚れた身体では親元へも帰れず、他にできる仕事があるわけでもなく、結局はただ同然の下働きとして大喜楼に置いてもらうしかない身の上なのだ。
「ああ、いいよ」
 女中から油差しを受け取ると、銀次は足早に階段を昇った。
 布団部屋から踏み台を出し、ランプの真下に置く。娼妓たちとふざけ合う酔客にぶつからないよう気をつけながら踏み台に立ち、天井から下がるランプに手を伸ばした。
「あー……。だいぶホヤも汚れてるなあ。そろそろ磨かないと」
 二つめのランプに手を伸ばそうとした時、横の襖がすうっと開いた。隙間から白い手が伸ばされ、銀次を手招きする。
「銀次さん。行灯の油が切れそうなの。その、ランプの灯油でいいから、ちょっと分けてよ」
 襖に半分隠れるようにして銀次を呼び止めたのは、千登勢だった。接客中なのだろう、結い上げた髪もほどけ、薄っぺらなシュミーズ一枚の半裸に近い恰好だった。客の耳を気にしてか、言葉遣いもいつもより丁寧だ。
「はあ」
 娼妓が自分の部屋で使う灯油や蝋燭も、本当は妓楼から買わなければならない。誰がどのくらい使ったか、帳簿に記録し、月末に精算するのだ。が、廊下など共有部分の照明に使う灯油の代金は、妓楼側の負担だ。千登勢はそれを知っていながら、妓楼の灯油を少々ちょろまかそうと言っているわけだ。
「ちょっと、早くしてよ。お客さん待たしてんだから!」
 小声で銀次にせっつく。
 千登勢も、口やかましい遣り手婆や他の従業員たちにはこんなずるを言い出したりはしないだろう。銀次なら、灯油をくすねたことも黙っていてくれるに違いないと思っているのだ。
 銀次は黙ってうなずいた。そしてすぐに、手にしていた油差しを千登勢へ差し出す。
 こんなことを頼むのは、なにも千登勢一人ではないのだ。吝嗇な女将も灯油の量まできっちりと量っているわけではない。行灯の灯り皿に入れるくらいの分量なら、たまに娼妓たちへ横流ししてやってもばれはしない。
「俺がやりましょうか?」
 客の前では、妓楼の従業員は下手に出て娼妓を立てなければならない。銀次も、丁寧な口調で千登勢と話す。
「いいわよ。言ったでしょ、室内にお客待たせてんの。入ってもらっちゃ困るわ」
 きっとその客も、下着姿の千登勢と似たり寄ったりのあられもない姿なのだろう。
 千登勢はひったくるように、銀次の手から油差しを取った。そして銀次の鼻先でぴしゃッと襖を閉じてしまう。まるで少しでも隙間があったら、銀次が覗きをするとでも言いたげに。
 それでも銀次は、少し困ったような笑みを浮かべて、ぽりぽりと頭を掻いただけだった。
 二、三分も経たないうちに、千登勢はふたたび襖を開け、油差しを銀次へ返した。
 戻ってきた油差しは、かなり軽くなっているように銀次は感じた。思いきって行灯の皿に注いだようだ。
「わかってんでしょうけど――よけいなこと言わないでよ。しょうがなかったんだから。お客さんを真っ暗な中で待たせるわけにいかないし」
「へい」
 銀次は短い相づち以外、なにも言わなかった。そしてすぐにその場を離れようとする。
 千登勢はまだ少し疑わしそうな表情をして、襖の陰から銀次を眺めていた。
 するとその時、
「千登勢ぇッ!! 千登勢、どこに隠れやがった、出てこいッ!!」
 一階から、破鐘
(われがね)を叩くような怒鳴り声が聞こえてきた。
「えっ!?」
 千登勢の顔色がぱっと変わった。
「ち、ちょっと銀次! あ、あたしゃいないよ、いないって言って! えっと――お、お客に連れられて、今日は廓の外に出かけてる、外の宿に泊まりだって!!」
「はあ、まあ……別にいいですけど、姐さん、今の声、知り合いの人ですか?」
「うるさいよ! よけいなこと訊かないで!!」
 口先だけは偉そうだが、その眼にははっきり怯えの色が浮かんでいる。
 千登勢はふたたび、ぴしゃッと襖を閉じてしまった。
 銀次はふうっとひとつ、軽くため息をついた。
 階下の怒鳴り声はますます大きくなっている。
「いつまで待たせやがる! ふざけるな、早く千登勢を出せッ!!」
「まあまあ旦那、もうちっとお待ちくださいよ。花魁は今、おめかしの真っ最中で……」
 おそらく一階の張り店で待たされている客が、いつまで経っても娼妓が来ないのに腹を立て、騒ぎ出したのだろう。必死でなだめる遣り手の声も聞こえる。
 客の声を聞いたとたんに千登勢の顔色が変わったことからして、おそらくは彼女の馴染み客、それもあまりたちの良くない客に違いない。
 もし千登勢の身請け話が進んでいるという噂が本当なら、そんな男とは二度と関わりたくないだろう。千登勢が居留守を使おうとするのも当然だ。
「いい加減にしやがれ! さっさと千登勢を連れてこねえか! 今まであの女にどれぐれぇ金を使ってやったと思ってやがんだ!!」
 呂律
(ろれつ)の回らない怒鳴り声からすると、客はかなり酔っているようだ。がちゃん、どかん、と、ものが壊れる音も聞こえる。遣り手の婆さん一人では手に負えないかもしれない。
「旦那を呼んできたほうがいいかな……」
 ぶつぶつ言いながら、銀次は慌てて階段を駆け下りた。
 張り店の扉を開けたとたん、銀次の顔面めがけて銚子
(ちょうし)が飛んできた。
「うひゃっ!」
 銚子をかろうじて避けると、今度は膳
(ぜん)が飛んでくる。今度は避けられず、脛(すね)に激突した。
「あ痛てえっ!」
 銀次は思わず悲鳴をあげた。
「まあ、銀ちゃん!」
 騒ぎを聞きつけたのか、こと美が二階から駆け下りてきた。
「銀ちゃん、大丈夫!?」
 張り店の真ん中では、派手な縞の着流し姿の男が、裾を蹴散らし、毛臑(けずね)を剥き出しにして、吠えるような声をあげて暴れていた。男をいさめようとしていた遣り手婆は、怯えて部屋の隅で頭を抱えている。
 こんな時に酔漢を取り押さえるのも、本来なら妓楼に住み込んでいる若い者の勤めだ。が、弁慶の泣き所を抱えてぴょこぴょこ跳ね回っている銀次に、そんな真似ができるはずもない。
 女中の一人がお内証に駆け込み、旦那を呼びにいった。旦那も無論、腕っ節に自信があるはずもなく、おそらくは他の店で飼っている若い衆を借りてくるしかないだろう。
「危ないわよ、銀ちゃん。ここはあたしが」
 こと美は銀次の様子を気遣うのもそこそこに、座布団を振り回して暴れる客のほうへ駆け寄った。
「お客さま、お客さま、危ないですよ!」
 酔いと怒りで顔を真っ赤にした男に、こと美は懸命に声をかけた。男の腕に手をかけ、引き留めようとする。
「申しわけございません、お客さま。千登勢花魁は、今、お店にいないんですよ」
「いねえだァ!? 嘘つけ、そんなはずがあるか!!」
「いえ、本当に。どうしても外せない大事な用で、大門の外へ出てるんですよ」
 こと美は優しい口調で、静かに男へ話しかける。男が振り向くと、にっこりと花のような笑みを浮かべる。
「お客さまのことは、あたしが姐さんから聞いてますよ。千登勢姐さんの一番大切なひとだから、どうぞ失礼のないように、代わりにもてなしてくださいよって」






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