「お、思い出せない……なんに、も――。うそ、どうして……? なんで思い出せないの!? あたし自身の記憶まで、なくなっちゃうって言うの!?」
 それとも。
「最初から……なんにもなかったって、言うの――? あたしの想い出なんか、なんにも……誰にも、あたし自身にさえ、なかったって……」
 アユはけものみたいに悲鳴をあげた。
 けれどその金切り声を聞く者は、誰もいない。人間よりはるかに聴覚が発達している原生林の野生動物や野鳥でさえ、なんの反応も示さない。アユを囲む森は、しんと静まり返るばかりだ。
「い、いやあっ! いやああ!! まだ消えたくない! ねえ、こっち見てっ! あたしを見てよおッ!!」
 振り乱す髪さえ、どんどん薄れて消えていく。
「どうして!? だってみんな、死んだ人のこと、ちゃんとおぼえてるじゃない!! なんであたしだけが、忘れられちゃうのよおっ!!」
 なくなっていく。アユのすべてが。
 腕がなくなり、足が消え、胴体が崩れていく。やがて顔も、まるで高速撮影した月の欠けるさまのように、あごのあたりからどんどん消えていく。
 わずかな存在の痕跡も。ともにいた人々の記憶からも。
「ごめんなさい! ごめんなさい、もうあんなこと言わないっ! この世界をいらないなんて、もう絶対言わないから、あたし――だから、ねえ、忘れないでよおお……っ」
 最後に残った左目から、ぼろっと涙が落ちた。それすら、つたわるほほをなくして、そのまま虚無の中に吸い込まれていく。
「お願い、あたしを――いやあああっ!! 消えたくない、誰か、……誰か、あたしを、見てぇぇ……っ!!」
 絶叫は、未沙の耳にはただの風の音にしか聞こえなかった。
 消えていく姿を、誰も見ていなかった。
 そして彼女のすべては、無に還った。
 一瞬の、空白。
 それから。
「……あれ?」
 未沙は、ぱちぱち……っ、と、何度かまばたきした。
「あ、あたし――なにしてんだっけ」
 あたりを見回す。
 半透明になった自分の身体、中途半端に重たく、息苦しい自分の存在を認識する。
「そっか……。あたし、死んだんだよね――」
 ここに居ちゃ、いけない。
 なんだかそんな気がする。
 このままぼんやりしていたら、……のようになってしまうから。
「え――。誰、だっけ……?」
 誰か、ここにいたような気がする。
 その人から、教わったような気がする。
 ここに居ちゃいけない。どこかに行って、なにかをしなくちゃ。
 なにもしないままだと、今よりもっと淋しいことになってしまうから。
「さみしい……?」
 脳裏に浮かんだ言葉を、ふと口に出して繰り返す。
 どうして自分が、そんな言葉を思い浮かべたのか、その理由もわからないけれど。
「うん……さみしいよね、あれは――」
 自分でつぶやいた「あれ」というのが、いったいなにを、どんな状況を、誰を指し示しているのか、それすらまったくわからないけれど。
 しかたがないよ。
 未沙はぼんやりと思った。
 ――だってあなたは、世界を忘れると言ったじゃない。
 ――だから世界も、あなたを忘れるんだよ。
 どこか遠くから聞こえてきたみたいに、ふっと頭の中に浮かんでは消えていく、フレーズ。なんの前触れも脈絡もなく、ただ言葉だけが未沙の脳裏をよぎる。
 それが未沙自身の思考の中から出てきた言葉なのか、それともまったく別のところから未沙の中に飛び込んできたものなのか、それすら区別できない。
 が、その言葉に、未沙はなんの疑問も違和感も感じなかった。
 これでおあいこ、同じこと。とても単純なルール。
 ――だって、あなたは世界なんかいらないと言った。だからもう、世界もあなたをいらないって、決めちゃったんだ。
 ――世界中があなたを忘れて、あなたは過去にも現在にも、未来にも、存在しないものになるんだよ。
 さみしいね。
 誰にともなく、未沙は小さくうなずいた。
 いくらそれが、……の望んだことであっても。あれは、あまりにもさみしすぎるから。
 振り返れば、内側から粘着テープで目張りしたワンボックスカーが目に入った。
 あの中に、捨ててきた自分の身体があるはず。
 いっしょに自殺した人たちは、どうなったろう。みんな、どこかへ行ったのだろうか。
 どんな人たちといっしょだったのか、もうそれすら思い出せないけれど。
 少しずつ、自分の中のなにかが、消え始めているのかもしれない。……のように。
 それらが全部消えてしまう時。それが未沙にとっての、すべてのタイムアウトの瞬間だ。それだけは、わかる。
 だから。
 いかなくちゃ。早く、どこかへ行かなくちゃ。
 未沙はふらふらと歩き出した。
 生きている時と同じく、重い足を一歩一歩、無理やり引きずるようにして。
 小さな窪地を出て、アスファルトで舗装されたドライブラインに向かう。車の排気音などまったく聞こえないが、この道をずっと歩いていけば、きっと誰かに出逢えるだろう。
 ……ああ、そう。逢いたい。
 誰でもいい、逢いたい。
 このままじゃ、あんまりにもさみしいから。
 硬い路面を踏みしめて、歩いていく。
 そして未沙は、自分の身体のそばを離れた。
 もう、振り向きもしなかった。
 ……てぇ……。わたし、を、見……てぇ――忘れ、な、……でぇ……。
 すすり泣くアユの最後の声は、誰の耳にも届かずに、消えた。
 ただ風だけが渦を巻き、そして世界中の誰一人、アユのことを思い出さなかった。









                              ACT 2  よろしくっ!

 堅いアスファルトの路面を歩いていると、すぐに足が痛くなった。きゃしゃでかわいいピンヒールのブーツは、長時間歩くにはまったく向いていない。
 ちょっと道を歩けばすぐに車とすれ違うかと思っていたのに、自動車どころか、チャリンコ一台通らない。この時期、この山麓付近にはめったに人が来ないと言っていたおじさんの言葉は、本当だったようだ。
 おまけに。
「あ、痛ったあ!!」
 未沙は器用なことに、なんにもない平らな道路でけっつまづき、すっころんでしまった。
「もおっ!! なんでコケたりすんのよ、幽霊なのにいっ!!」
 ぶんむくれて、道路にへたりこんだまま、ブーツを片方脱ぎ捨て、放り投げる。
 かん、かんっ、と、ブーツのかかとがアスファルトにぶつかって甲高い音をたてるのさえ、むかついた。
「なによーっ!! あたし、幽霊じゃないの!? なんであんなでっかい音がするわけっ! 幽霊ってもっと、静かで怖くて、なんだかよくわかんないもんじゃないのーっ!?」
 自然の広葉樹林のあいだを、糸のように縫って走るハイウェイライン。未沙がいるあたりは山の中腹、道は大きくカーブしている。ガードレールの下は、深く切り立った谷間だ。向かいにも同じような道路の這う山肌が見え、紅葉の時期はさぞかしきれいな風景が楽しめるだろう。
 だが今はまだ、やせ細った枝が空に突き出されているばかりだ。向かいの山肌は霧で覆われ、見るだけで、寒い。
 こうなると、見栄えのしない風景にまで、腹が立つ。
「こんなとこ、あたし、来たくなかった! もーやだ、帰りたいーっ!」
 むかつきついでに、もう一方のブーツも脱いで、投げ捨てようとした時。
 自分を見ている男の子に、未沙は気づいた。
 ちょっと流行遅れのレザーのジップアップジャケットに薄汚れたジーパン。足元はナントカ戦隊の変身ヒーローが履いていそうな、ごっついブーツ。
 つんつんした短い髪が妙にぺったり寝ているのは、今までヘルメットをかぶっていたからのようだ。人なつっこそうな顔のほほには、ちょっとニキビの痕が残っている。
 その身体ははっきりとした輪郭を持ち、まったく透けていない。足元には濃い陰が落ち、彼のゆたかな色彩を引き立てているみたいだ。
 生きている人間だ。
 生きている男の子が、まっすぐに未沙を見ている。
 未沙も思わず、彼をじっと見つめてしまった。
 二人の視線がぶつかる。
 ……え。でも、ほんとに?
 未沙は路面に座り込んだまま、うしろをふりかえった。もしかして自分のうしろに、彼が本当に見ているものがあるのかもしれない。
 ……だってあたし、幽霊だし。この男の子に、ほんとは見えてないかもしれないじゃん。
 が、背後には、彼の興味を引きそうなものなんて、なにもない。ただアスファルトの路面が延びているばかりだ。
「あ、あのさ。それ、どうすんの?」
 彼が、未沙の右手を指さして、行った。
「え?」
 その手には、放り投げようとしたブーツがまだ高々と掲げられている。
 これ? と、未沙は目線で訊ねた。
 うん、と彼がうなずく。
 やっぱり、彼には未沙が見えている。
「あんた、あたしが見えるの?」
「そっちこそ、おれが見えてるんだ?」
 あたりまえでしょ、と言い返しそうになって、未沙はふと口をつぐんだ。
 すべからく幽霊が、生きている人間を視認できるとは限らない。生きている人間にだって、霊感のある人ない人、幽霊が見える人と見えない人がいるわけだし、もしかしたら幽霊だって、そうかもしれない。
 なんと言っても自分は、幽霊になりたてなわけだし、先に死んで幽霊になっている知り合いもいない。そのへんのところは、まったく情報がないのだ。
「あのぉ……。もしかしてあんた、そーゆー人? 幽霊とか、良く見ちゃったりすんの?」
「いーや」
 男の子は即座に首をふった。
「こういうの、おれ、初めて。すげーびっくりしてるよ、今」
 ちっともびっくりしてないような口調で、言う。
「だいたい、幽霊って足がないモンだと思ってた」
 興味深そうに未沙を見つめる彼の視線をたどると、フレアミニのスカートがふとももの付け根ぎりぎりまでまくれあがり、アンダーウェアが見えそうになってしまっている。
「ど、どこ見てんのよ、すけべ!!」
 未沙はあわてて立ち上がった。
 右手に持ったままだったブーツを履き直し、放り投げてしまったもう一足のところまで、ケンケンで跳んでいく。
 ……あんな遠くまで投げなきゃ良かった。
 あいかわらず足は痛いし、ピンヒールで跳ねなきゃならないから、一歩ごとこにコケそうになるし。
 もう、腹の立つことばっかりだ。
 ……だいたい、なに、こいつ。すれ違いざまに、未沙は男の子を睨んだ。
 生まれて初めて幽霊と遭遇したわりには、彼は少しも怖がったり慌てたりする様子がない。興味シンシンの表情で、未沙を見ている。
 ――そりゃべつに、怖がってほしいわけじゃないけど。一目見ただけで逃げられちゃったら、それはそれでかなり傷つくと思うし。
 それにしたって、もうちょっと違うリアクションがあったっていいと思う。
 もしも生きた人間を脅したり恨みをはらしたりするのが目的で出てきた幽霊なら、張り合いのないこときわまりないだろう。
 ……もちろん、あたしはそんなつもりじゃないけどさ。
 じゃあなんで素直に成仏せず、幽霊になっているのかと訊かれれば、それにもまったく答えられないが。
 もしかして、未沙の態度も問題だったかもしれない。
 幽霊なら幽霊らしく、もうちょっと陰に籠もったというか、恨めしそうな態度を取るべきだったかもしれない。
 こんなふうにぶんむくれて、幼稚園児みたいにヘソ曲げてる様子を見たって、そりゃ怖くもなんともないだろう。まして今は、真っ昼間だ。春分も近く、日没はまだまだ先のこと。空は薄曇りだがとても明るい。
 ……幽霊が出ていい時間じゃ、ないよね。
 自分の行動があんまりにも場違い、ズレまくりな気がして、未沙はなんだか気恥ずかしくなってしまった。
 ぴょこぴょこ片足で跳ねながら、どうにかブーツに近づこうとする。
 すると、
「これ、きみの?」
 未沙の目的に気づき、男の子が先に手をのばして、ブーツを拾おうとしてくれた。
 が、その手はブーツを突き抜け、さわることもできなかった。
「えっ!?」
 男の子は驚き、何度もブーツをつかもうとした。だがその手は、SFアニメのホログラムに手を突っ込むシーンみたいに、ブーツを突き抜けてしまう。
「さわれないの?」
 未沙も間近でその様子を見つめた。
「うん……。そうみたいだ」
 しかたなく未沙は、自分でブーツを拾い、履いた。
 ブーツのくしゅくしゅを形良く直していると。
「……なに、見てんの」
 男の子は、しきりに自分の手と、未沙とを見比べている。
「あ、あんたまさか、あたしのからだにさわる気!?」
「うん、いや、その……やっぱり、今みたいに突き抜けんのかなーって思ってさ」
「なに考えてんのよ、エッチ! すけべっ!!」
「胸とか脚とかさわらしてくれってんじゃねえよ。ちょっと、指の先とかでさ――」
「やだッ!! ぜったいヤだ、こっち来んな、バカ、すけべ、ヘンタイ!!」
 未沙は足を上げ、ブーツのかかとで思いっきり彼の向こうずねを蹴り飛ばしてやろうとした。
 生前、電車内などで痴漢に遭うと、いつもそうやって撃退していた。まして今履いているのは凶器みたいに尖ったピンヒール、効果は絶大だ。
 が。
「……あ!」
 今度は未沙の爪先が、彼の脚をすり抜けてしまった。
「え――」
 未沙は蹴りあげた爪先を、じーっと見つめているしかなかった。
 男の子が人差し指で、未沙のこぶしをつつこうとする。が、やっぱりその指も、未沙の手を突き抜けてしまった。
「おもしれー!」
「なにがおもしろいって!?」
「いや、その……」
 男の子はちょっと考えて、
「良かったじゃん。電車に乗っても、痴漢に遭う心配だけはねえしさ」
「幽霊にチカンするバカがいるかっての!!」
 未沙は、くるっと背中を向けた。
 こんなヤツにかかわっていたら、時間の無駄だ。
 ただでさえ、あんまり猶予は残されていないのに。
 ――猶予が、ない?
 自分の頭に浮かんだフレーズに、未沙はふと首をかしげた。
 どうしていきなり、そんなことを思ったんだろう? 誰かになにか、言われたりしただろうか?
 考えてみても、なにも思い出せない。
 ただ、このままではいけないのだ、と思う。じっとしていると、じりじりと焦りに似た気持ちさえ湧いてくる。
 どこかに行かなければ。なにかをしなければ。
 その気持ちに急かされるように、未沙は一歩前へ踏み出した。
「どこ行くの?」
 男の子が呼びかける。
「あんたに関係ないでしょ」
 実際は、未沙自身にも、どこへ行けばいいのかわからないのだが。
 どこに行こう。なにをすればいいんだろう。
 このままじゃいけないことだけはわかるけれど、でも、どうしていいかわからない。誰も未沙を導いてくれない。
 そう思うと、それだけで涙がにじみそうになる。いや、そんなものじゃすまない。ヒステリックにわめきだしそうになるくらいだ。
 全部誰かのせいにして、そいつを思いきりののしってやりたい。でもそんな都合のいい誰かなんて、見つかるわけがない。もしののしれる相手がいるとしたら、それは自分自身だけ。
 そのことがまた、なおさらつらくて、苦しくて。
 ……知ってる、あたし、この気持ち。
 そうだよ。いつもいつもあたし、こんな気持ちばっかりだった。この気持ちから解放されることなんか、一度もなかったんだ。
 でもさすがに、見知らぬ人間の前で、そんなぶざまな格好はできない。いくら自分が幽霊だとしても。
 そのまま未沙は、不安を押し殺して歩き出した。男の子を置き去りにして。
 自分の感情を無理やり押し殺し、仮面みたいな無表情をつくるのにも、慣れている。生きているころから、ずっとやってきたことだった。
 が。
「……え――?」
 一歩前へ進むごとに、身体が重くなる。
 忘れていた息苦しさがよみがえり、前にも増してひどく、つらくなる。
「な……っ、なんで……!?」
 おもわず、未沙は胸元をおさえてしゃがみ込んだ。
 重たい。苦しい。まるで頭の上から見えない大きな手が、未沙の身体を折り曲げ、地面にぐいぐい押さえつけているみたいだ。髪の毛一本一本までが、鉛でできているみたいに、ずしりと全身にのしかかる。
「ひっ……い、やぁ……っ!」
 もう、頭をあげて前を見ることさえできない。
 未沙はそのまま地面に両膝をつき、背中をまるめてうずくまってしまった。
「どうしたんだよ!?」
 男の子があわてて走り寄ってくる。
 そのとたん、ふうっと呼吸がらくになった。
「あ……」
 未沙は大きく息をつき、全身の力を抜いた。
 顔があがる。ちゃんと前を見ることもできる。
 すぐうしろに立った男の子の、心配そうな顔を見上げる。
「大丈夫か!?」
「うん……。よく、わかんないけど――もう、平気みたい」
 何度か深呼吸して、胸苦しさもめまいも感じないのを確かめる。
 さっきの苦しさが嘘みたいだ。
「幽霊でも病気とか発作とか、あんのか? おまえ、死ぬ前、ずっと重い病気で苦しんでたとか?」
「ううん、そんなことないよ」
 いたって健康だった。今も、死んでいること以外、どこにも具合の悪いところはないはずだ。
「あ。もしかして」
 未沙はまっすぐに男の子を見上げた。
 さっき、一人でいた時には、息苦しくて、身体もどんどん重たくなって、目の前が真っ暗になっていきそうだった。まるで貧血で倒れる時みたいに。
 でも、彼と目があったとたん、その苦しさや重たさはすうっと消えてなくなった。
 今も、彼から離れようとしたとたんに、またひどく苦しくなってしまった。
 そして彼がそばに寄ってきたら、その苦しさはなくなった。
 どうしてこんなことが起きるのか、まるでわからないけれど。――いや、誰かからその理由を説明されたような気もするのだが、頭がぼうっとして思い出せない。思い出してはいけないような気すら、する。
 でも、彼のそばにいて、それでらくになれるのだったら。
 この際、理由付けなんてどうでもいい。
「ねえ、あんたはこれからどっか行くつもりなの?」
「おれ?」
 突然の質問に、男の子は少々面食らったように、何度か目をぱちぱちさせた。
「まあ……自分ン家に帰るつもりだけど」
「あっそ」
 未沙は立ち上がった。スカートの汚れを軽くはたき、丸めたままだったパーカーに袖をとおす。
「あれ?」
 襟元についていたはずの汚れは、なくなっていた。
 ……ほんと。あのひとの言ったとおりだった。たしかにあんな汚れ、あたしの一部でもなんでもないもん。
 ふと、そんなことを思う。あのひとっていうのが誰なのか、さっぱりわからないけれど。
 ま、わからないことは、深く追求しない。ほうっておく。それが未沙のモットーだ。
「じゃあ、早く行こ」
「行くって、どこへ?」
「あんたン家。どっかほかに寄るとこあるなら、そっちが先でも別にいいけど」
「はあ!?」
「早くしないと、日が暮れちゃうよ。このへん、夜はまだけっこう寒いんじゃないの?」
「う、うん、そりゃ寒いけど――でも、まさか……おまえ、おれについてくる気!?」
「うん」
 未沙はにぱっと笑ってうなずいた。
「あたし、あんたに取り憑いた。たぶん」










                           
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