「聴いたであろう、あの声を。カアカアカアと三回啼いた。あれは、『勝つ、勝つ、勝つ』と啼いたのじゃ! この戦、我らの勝ちと出たぞ!」
 ふりかえると、桃色の美しい打掛をまとった由布が立っていた。
 開け放たれた広間から、朝の光がさしこむ縁側へと、打掛の裾を掻いどり、ゆっくりと歩いてくる。
 打掛の裾には梅の花の縫い取りが散らしてある。安原家の、此花館の、そして那原の梅だ。
 明るい朝日のもとに立つと、由布はにっこりと笑って天を指さした。
「鴉は、戦神軍茶利明王
(ぐんだりみょうおう)のお使い鳥じゃ。それゆえ鴉はつねに『勝つ、勝つ、勝つ、吾(あ)は勝つ』と啼いておるのじゃ。みなもその声を、たった今、聴いたであろう?」
「姫御前……」
「大丈夫。我らには明王さまの守護がある。必ず勝ちますぞ」
 由布は花のように笑った。
「さあ、何をしています。勝ち鬨
(かちどき)じゃ。声をあげなさい!」
「……お、おお――」
 かすれた声が、あがる。
 そして、
「うおおおおーッ!」
 誰かが、吠えた。
 槍を突き上げ、腹の底から雄叫びをあげる。
「うおおおッ、勝つぞおーッ!!」
 顔を真っ赤にして怒鳴っているのは、八郎太だった。
「か、……か、勝つぞーっ!」
「勝つぞ、勝つぞーっ! おれ等は、勝つんだーッ!」
 八郎太の叫びにつられるように、兵たちのあちこちから叫び声があがった。
「桑島がなんだ、間部がなんだ! 負けねえぞーっ!」
「えい、えい、おおぉッ! えい、えい、おおーッ!!」
 ばらばらだった叫び声が、次第にひとつにまとまり始める。
「えい、えい、おおーッ! えい、えい、おおぉーッ!」
 槍が、抜き身の刀が、一斉に中空へ突き上げられる。男たちの士気がひとつに、大きく高くまとまっていく。
「みな、聞けえーッ!」
 了海は渾身の力を込めて声を張り上げた。
「山の裾を見よ! あの土地は、誰のものであるか!」
 なだらかな丘陵に広がる段々畑。その下の田んぼはすでに収穫がおわり、黄色い切り株だけが並んでいる。粗末な家が点在するだけで、今はひっそりと人気もない村々。
「なにもなかった原野を切りひらき、耕し、苗を植えて育てたのは誰だ! 汗水流してこの地を切りひらき、この美しい田畑を築き上げたのは、誰だ! それは、おまえ等の祖父であり、父であり、おまえたち自身である! この那原は、侍のものではなく、おまえ等自身のものであるッ!!」
 地面に転がる小石を拾い、兵たちの前に突き上げる。
「見よ! この石は、おまえ等の父祖の骨! この地に流れる川の水は、おまえたち自身の血潮である! それゆえにおまえ等は戦うのだ! おまえ等のものを、おまえ等自身で守り抜くのだ!」
 うおおおお……ッ、と大地をゆるがすような雄叫びがあがった。
「おまえたちの成すべきことを成せ! そうすれば、必ず勝てる! 心が折れそうになったら、思い出せッ! おまえ等はなんのために、誰のために戦うのかッ! それは、おまえ等自身のためであるッ!! この戦は、おまえ等自身の戦であるッ!!」
 他者に命令されるままに戦場へ行っても、けして勝てない。強い兵とはなれない。
 どんな戦であっても同じことだ。
 自分自身のために、自分の力で戦い抜くのだと、その決意を持つ者だけが、最後に勝者となれるのだ。
「えい、えい、おうーっ! えい、えい、おうーッ!」
「えい、えい、おおぉーッ!!」
「えい、えい、おおおーッ!!」
 数百人の勝ち鬨が、朝靄消えぬ那原領にとどろき渡った。



 馬揃えが終わると、定められた配置に向かって、兵たちは一斉に走り出した。その顔に、もう迷いはない。
 後ろに控える女たちも、予備の矢を運び、炊き出しの支度にかかり、水を汲みと、決められた仕事をこなしている。
 後方の女たちの指揮をしているのは、軍医として本丸に残る円谷だった。彼の指示に従い、農民の娘も寺の尼さんもみな等しく懸命に走り回っている。
 了海も墨染めの衣の上に簡素な腹巻鎧を着けた。身軽に動けるよう軽量化された、量産品の当世鎧だ。
 籠手で固めた左手に滋藤
(しげどう)の強弓を握り、足早に廊下を歩き出す。
 が、その時。
 小さな子供の泣き声を、了海は聞いたような気がした。
「迷子か?」
 領民の子供たちは、動けない年寄りや病人とともに城の一番奥、頑丈な漆喰の米倉に避難させてある。けれど母親を恋しがって、そこから出てきてしまったのだろうか。
 早く叱りつけて、倉へ戻らせなければ。
 了海は声がする部屋の戸を開けた。
 が、そこにいたのは幼い子供ではなかった。
「……姫御前」
 小さな納戸のような部屋で、由布が泣いていた。部屋の隅で壁に向かって、小さく身体を丸め、打掛も脱ぎ捨てて子供みたいにすすり泣いている。
「御坊……」
 了海の顔を見ると、由布はあわてて目元を強くこすった。泣いて赤くなっていた目元や鼻の頭が、さらに赤くなる。
「あ、あの、なんでもありません。心配しないで」
「ですが――」
 こんなところにいたのでは、由布も危険だ。
「奥へお戻りください。さわを呼んできますから」
「い、いいえ。いいの。ひとりで行けます」
 泣いた顔を小袖の袂で隠しながら、由布は立ち上がった。そのまま了海の横をすり抜けようとする。
「姫」
 その腕を、了海は思わず掴んだ。
「どうなさったのですか」
 由布の身体が、一瞬ひくっと強張った。
 了海の視線から逃げるように顔を伏せ、そして、
「わたくし、みなを騙しました」
 かすれる声で、由布はつぶやいた。
「鴉が明王のお使いなんて、嘘です。カチガラスというのは、本当は鵲
(かささぎ)のことです」
「はい。愚僧も存じております」
「御坊……」
「嘴
(くちばし)を打ち鳴らす音が、かち、かち、かち、と響くから、カチガラス。そうですね?」
 真っ赤に泣きはらした眼で、由布は了海を見上げた。
「なら……、どうして黙っていたの?」
「姫御前はどうして、そのような嘘をおつきになったのですか?」
 静かに、了海は言った。
 小さな子供をなだめる時のように、由布が自分で話し始めるのを、じっと待つ。
「だって……。そうでも言わないと、みなが不安になると思ったから……」
 すすり泣きながら、由布は言った。
「戦の前に鴉が啼くなんて、縁起が悪すぎるもの。そんなの、誰だって嫌でしょう。だからわたくし、嘘でも良いから縁起の良いことを言って、みなを少しでも勇気づけたいと思って……」
 丸いほほの上を、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
「でも、やっぱり嘘だもの。これで戦に負けたら、わたくし――わたくし、みなに何と言って謝れば良いのか……!」
「姫御前」
 了海は由布の小さなからだを抱きしめた。
 草摺
(くさずり)が触れ合い、がちゃがちゃと耳障りな音をたてる。
 けれど。
「大丈夫です」
 いつも由布が口にする言葉を、了海が言った。
「あれで良かったのです。姫の言葉で、みながどれだけ喜んだか。領民みなが望む言葉を、姫はおっしゃってくださったのです」
 それが真実に由来するものかどうかなんて、どうでもいい。
 彼女の言葉を、人々が信じるか――信じたいと思うか、どうかだ。
 鴉でも鵲でも、何でもいい。那原の姫御前が、勝つと言ってくださった。その事実がもっとも大切なのだ。
 不利な戦の直前で、ともすれば恐怖に埋め尽くされてしまいそうな者たちの心に、由布はけして折れない支えを、希望を与えたのだ。
 由布のからだは細く、やわらかく、けれどどれほど強く抱きしめようとも、けして折れたり撓んだりしない。
 ほのかに熱い体温は、年若い少女に秘められた強靱な生命を感じさせる。
 こんなに小さなからだで、由布はいったいどれほどの悲哀や苦しみ、恐怖を受け止め、耐えてきたのだろう。
 男であり、禅僧として修行を積んできた了海ですら、迫り来る戦の気配に飲み込まれ、言葉を失いかけていたのに。由布は、みなのために勇気を振り絞り、嘘をついた。
 笑って、「勝ちます」と言ってくれたのだ。
 そして今も、怯える自分を誰にも見せまいと、こんな小さな部屋に隠れて、ひとりでこっそり泣いていた。
 このひとは――天女だ。
 神仏が那原におつかわしくださった、天女だ。
 望んで戦場へ来たわけではない。今だって、できることならすぐにでもここから、那原の女領主という立場から、逃げ出したいと思っているはずだ。
 けれど由布は懸命に踏みとどまっている。兵のため、領民たちのため、彼らが由布に望む役割を――那原の姫御前、那原の天女の役割を、必死に果たしている。
 自分はなにもしていない。なにもできなかった。このひとは自分自身の力で、那原の天女になったのだ。
「負けないで」
 泣きじゃくり、由布は言った。
「お願い、御坊。負けないで」
 負ければ、那原は撫斬。皆殺しにされる。
「負けません」
 了海は答えた。
「死なないで。絶対に、生きて戻ってきて!」
「はい。死にません。必ずおそばに、戻ってまいります」
 小さなからだが抱きついてくる。硬い鎧の上に爪をたて、由布は渾身の力で了海にしがみつく。
 ――死ねない。
 このひとを残しては、絶対に死ねない。
 了海は強く強く、由布を抱きしめた。
 衣を通して、由布の熱い体温が了海のなかへ流れ込んでくる。同じように了海の鼓動が、由布の胸の中で大きく共鳴している。
 互いの皮膚に爪をたて、赤く血の出る傷をつけることで、その熱い痛みでおのれの存在を相手の中にしっかりと刻みつけようとするような、がむしゃらで幼い抱擁だった。それ以外、なにもできない。
 言葉はなかった。ただ、互いの体温だけが知っていた。
 今、二人はひとつの命だった。同じ故郷に生まれ、同じさだめを生きる、ひとつの命だった。
 この瞬間、すべての時が停まったような気がした。
 ――やがて、どれほど時が経ったか。
 実際はまばたきするほどのあいだでしかなかったのかもしれないが。
 遠くから、地鳴りのような音が聞こえてきた。
 うおおぉ……ッ、と大勢の男たちが吠える声。大地を蹴立てて突き進んでくる人馬の足音。
 桑島の軍勢が、近づいてくる。
「来たかッ!」
 了海は顔をあげた。
 由布も同じく顔をあげ、了海を見つめる。
「ご陣代! ご陣代ーッ!」
 庭先で、八郎太の声がする。
 どたどたどたっと慌ただしい足音が響いた。走るのもしんどそうなその足音は、城代家老のものだ。
「姫さま、どこにおられまするか、姫さま! 爺がお迎えに参りましたぞ!」
「姫御前はこちらにおわします、ご城代」
 了海は静かに立ち上がり、ゆっくりと戸を引いた。
 その間に、由布は乱れた前髪を慌てて撫でつけ、目元に残る涙を拭う。
「おお、了海! おぬしもそこに居ったか」
 息せき切って走ってきた城代は、古色蒼然たる大鎧姿だった。色々縅
(いろいろおどし)の糸の色もすっかり褪せて、身動きするたびに、がっしゃんがっしゃんともの凄い音がする。
「姫御前を奥の丸にお連れしてください」
「よし、引き受けた」
 城代は力強くうなずいた。
「ささ、姫さま。ここは了海たちに任せて。我らは奥の丸の守りを固めまするぞ」
「は、はい」
 由布も立ち上がった。歩くのに邪魔になる打掛は丸めて抱え、城代のそばに行く。
「ご城代。姫御前をお願いいたします」
「おお、任されたぞ。儂が姫のおそばに居る限り、後顧の憂いはない。おぬしは存分に働いてまいれ」
「承知つかまつりました」
 了海は二人に軽く目礼すると、きびすを返して走りだそうとした。
「良い顔をするようになったの、了海」
 城代が、ぽつりと言った。
「腹の据わった男の顔じゃ。……侍の顔じゃ」
「ご城代。私は――」
「良いではないか。おぬしが何であろうとも、そんなことをいちいち言い立てて、いったい何の意味がある。幸甚丸と呼ばれようが了海と呼ばれようが、おぬし自身に何の変わりがある。そうじゃろう」
「は……」
「おぬしはただ、おぬしのままであれば良いのじゃ」
 城代は微笑した。
「儂は儂の勤めをはたす。おぬしはおぬしの成さねばならぬことを、成せ。今は、それだけじゃ」
「はい……!」
 もう一度、由布を見つめ、そして了海は本丸の建物を飛び出した。
 土塁と土塁のあいだの細い道、武者走りを突っ走り、城の外郭に設けられた井戸曲輪へ向かう。
「――御坊っ!」
 細い声で、由布は思わず了海を呼ぼうとした。
 が、城代が黙って首を横に振り、それを制止する。
「爺……」
 由布はきゅっと唇を噛んだ。痛いくらいに噛みしめていなければ、また涙があふれてしまいそうだった。
「なに、ご心配めさるな。あの男は、そう簡単に死ぬようなタマではござりませぬぞ。よく言うではございませんか、『憎まれっ子世にはばかる』と」
 城代はしごく気楽そうに、からからと笑った。
 だがそれが、由布を安心させるための芝居、見かけだけのものであることは、由布にもよくわかっている。
 ――そう。笑わなければ。
 わたくしはこの城の女あるじ。那原の姫御前。
 そのわたくしがべそべそ泣いてばかりいたら、みなはもっと泣きたくなってしまうから。
 大丈夫。今は少しくらい無理の残る笑顔でも、ずっとこうしてにこにこしていれば、いつか本当に笑えるようになるはずだから。
 大丈夫。わたくしは大丈夫。だって御坊が約束してくれたもの。必ず生きて、わたくしのそばに戻ってきてくれるって。
 笑わなければ。いつ、御坊が戻ってきても、笑顔で迎えてあげられるように。
 あのひとにはいつだって、笑顔を見ていてもらいたい。
 由布は胸を張った。涙の残る顔で、にっこりと笑う。
「さあ、行きましょう、爺! みなを待たせては悪いもの!」





    五、  恋ひしとよ 君恋ひしとよ ゆかしとよ

 大股で飛ぶように走る陣代に、八郎太は全速力で駆け、必死についていった。
 武者走りの地面はまだ朝露を含み、少しぬかるんでいる。爪先にまで力を入れて蹴らなければ、わらじ履きでもすべりそうだ。
「敵本陣を、櫓の上から確認しました! 距離、およそ一〇町(約1q)!」
「一〇町? まだ川の向こうだな。くそっ、そんなところで停まるな! なにをちんたらしている、間部玄蕃ッ!!」
 袈裟姿の時はひょろひょろと上背ばかりが目立って、どことなく竹箒を思わせる陣代だが、こうして甲冑に身を包み、白い頭巾をかぶると、その頼りなさそうな印象もまったくなくなる。まるで、琵琶法師が語る武蔵坊弁慶のようだ。
「私は物見櫓に上がる! 八郎太、お前は手はず通り、下の虎口で足軽隊を率いて待っていろ! 半鐘が鳴ったら、出撃だ!」
「承知ッ!」
「いいか、合図の火矢を絶対に見落とすな! 見落とせば、おまえの命はないからなッ!」
 指示されるまま、八郎太は下の曲輪へ駆け込んだ。
 黒藤山の中腹に設けられた、藤ヶ枝城の正門。両側は土を硬く突き固めた敲き土塁
(たたきどるい)でせばめられ、大勢の敵が一気に突進できないようになっている。迎え撃つ籠城側は、土塁の上に並び、一斉に矢を射かけるのだ。
 さらにその外側には、藤ヶ枝城と此花館とをいっしょに囲い込む大きな堀がある。お家騒動の中で放置され、水もすっかり干上がってしまっていたのを、陣代が突貫工事で修復させ、もとどおり茂庭川から水も引いてある。
 とは言うが、此花館の目の前に流れる川は、山城の堀より当然低い場所にある。そのため、堀の水は川の上流から延々と用水路を掘り、取り込む仕掛けになっていた。高い位置にある水堀を守るため、堀の外側の土塁は、内側よりもさらに高く盛り土されていた。
 城の反対側にある、城下町と此花館とを結ぶ橋はすでに落とされていた。
 藤ヶ枝城の正門は石垣こそないものの、漆喰で固められた一の門と、防火のために屋根に土を乗せた二の門とが並ぶ、強固な構えになっている。
 今、一の門と二の門の間には、ふるえる両手で槍の柄を握り締める足軽たちがびっしりと立ち並んでいた。彼らの背には、那原の兵を示す梅の旗指物がくくりつけられている。
「悪りい、遅くなった!」
 その足軽たちの真ん中に、八郎太は飛び込んだ。
「遅せえぞ、八郎太!」
「しっかりしてくれや! おめえが足軽大将なんだからよ。大将が出陣に遅れたんじゃ、話にならねえべ!」
 不揃いの冑や陣笠の下にある顔は、どれも若い。そしてそのほとんどに、八郎太は見覚えがあった。みな、同じ集落の出身で、赤ん坊のころからともに育ってきた、気心の知れた仲間たちだ。
「しかしおめえ、ほんとに侍になったんだな! それも、早や足軽大将かよ!」
 茂作が、前歯の抜けた口でがははっと笑った。
「ほんとにすげえなあ! おれ等ん中じゃ、八郎太が一番の出世頭だ!」
「何言ってんだ! おめえ等だってこの戦で手柄あげてみろ、足軽大将も、侍大将だって夢じゃねえぞ!」
 八郎太は拳を握り締め、空に突き上げた。
「いいか、みんなっ! おれは勝つぞ! 勝って、いつか必ず一国一城の主になってやっからなーッ!」
 うおおーッ!と若者たちが一斉に雄叫びをあげた。
 そうだ、まず信じることだ。八郎太は自分自身に言い聞かせる。
 ――自分のことすら信じられないヤツは、何をやったって駄目だ。最後に勝ち残るヤツは、最後まで自分を信じて諦めないヤツだ!
 姫さまを見ろ。ご陣代を見ろ。どんな不運にも負けないで、あの二人は自分の力を信じている。自分たちならこの城を、那原を守り抜けると信じている!
 だからおれも信じるぞ。おれも勝つと、信じるぞ!
「来るぞーッ!!」
 櫓の上から物見の兵が怒鳴る。
「桑島勢が動き出した! 先陣、騎馬武者隊! 数、およそ五〇!」
 けたたましく半鐘が打ち鳴らされる。
「合図だ! 門が開くぞ!」
 黒鉄
(くろがね)で補強された観音開きの大扉が、ぎいい……ときしみを上げながら開いていく。
 その向こうに、敵陣が見える。
 無数の兵。その手にある、鋼のきらめき。足軽どもが背負う無数の旗指物が、まるで嵐の海のように揺れている。
 湧き起こる雷雲のような殺意が、一気に押し寄せてくる。
 突っ込んでくる馬と兵の地響きに、大地が揺れたような気がした。





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