「こんな時はね、楽しいことだけを考えるのよ。爺が教えてくれました。だから、楽しいお話をしましょう?」
 と言われても、とっさに何を言えばいいのか、まったく思い浮かばない。
「では、わたくしが話します。ねえ、御坊。戦が終わったら、本当にお寺へ帰ってしまわれるの?」
「い、いや、それは……」
 戻らなければいけないと思っていた。最後には自分が那原を離れることが、那原と安原家、此花館を守る最後の仕上げだと。
 だが。
「いいえ、戻りません」
 了海はつぶやくように言った。
 想いがはっきりと思考になる前に、自然と言葉がこぼれていた。
「ずっと、おそばにおります。――ここが、私の故郷です」
 腕に抱いた、この小さな熱いからだ。
 泣きたいくらいに優しい、けれど強いこのぬくもりを、二度と手放したくない。
「本当ですか、嬉しい!」
 由布は泣きじゃくった。そして自分からしっかりと、了海の胸にしがみつく。
「約束よ。けしてどこへも行かないでね。ずっと、ずっとわたくしのそばにいてね」
「はい。お約束いたします。命ある限り、姫御前のおそばを離れませぬ」
 嬉しい、嬉しいと由布は何度も何度も繰り返した。 
「ねえ、お願いよ、御坊。ふたりで無事にここを抜け出したら、わたくしを御坊の女房にしてくださいね」
「姫!?」
「わたくし、料理も裁縫も得意です。こう見えて病知らずの働き者なのよ」
 足元に熱い煙が満ちてくる。一言しゃべるだけで、激しく咳き込みそうになる。窒息するのももう間もなくだろう。
「……ずっと、夢見ていました。いつか尼寺を出て、本当に……本当にわたくしを必要としてくださる方のもとへ嫁ぎたいと――!」
 恐怖から目をそらすため、懸命に話し続けるその声が、涙にふるえている。それでも由布は、生きる希望を語り続けようとしている。
「わたくしが、お嫌いですか? 御坊」
「姫。私は坊主で――」
 言いかけて、了海は口をつぐんだ。
 今さら戒律の何のと言ったところで、何の意味があるだろう。
 ここまで強く、まっすぐに自分を慕ってくれるひとの想いに応えられずして、何が男か。
「お慕い申し上げておりました」
 了海は小さくうなずいた。
「本当ですか?」
「はい」
 そうだ。きっとあの小さな尼寺で初めて出逢った時から、この少女の面差しが、生き様が、自分の胸に宿り続けていたのだ。
 那原を、そこに生きる人々を守りたかった。そしてなによりも、このひとを、守り抜きたかった。自分の戦は、ただそれだけだった。
「生きて、みなのもとへ戻れたら、必ず姫を妻に迎えます」
「うれしい。約束ですよ」
「はい。私はみ仏に仕える身です。嘘をついたら、閻魔に舌を抜かれてしまいます」
 煙は次第に横穴にも充満し始めている。
 それから逃げようと、二人はじりじりと後ずさりした。喉が痛み、咳が込み上げる。熱もすでに耐え難いまでになっていた。
 もう逃げ場はない。背後を探った了海の手には、行き止まりの土壁が当たった。
 その時、由布の足に、ぐにゃりとやわらかなものが触れた。
「きゃっ……っ!」
 泰頼の亡骸を踏んでしまったのだ。
 同じものを、了海も爪先で探り当てる。
「この、野郎……っ!」
 了海は僧侶にあるまじきことながら、泰頼の遺体を思いきり蹴り上げてしまった。一撃で泰頼を殺してしまったことが、腹立たしくなる。生きながら蒸し焼きにされるこの恐怖を、泰頼にこそ味わわせるべきだったのだ。
 ――だいたい、こんなところで死んでいやがるな! 死んでまで、俺と姫の邪魔をする気か!
 だが、
「だめよ、御坊! そんな乱暴なことをしては!」
「すみません、姫。しかし、もとはと言えばこやつのせいで――」
「いいえ、違います! 焙烙火矢! 泰頼は懐に、焙烙火矢を入れているの!」
「なんですって!?」
「そうよ、あぶないでしょう!? 蹴ったはずみで爆発でもしたら――」
「違います! 姫――しばらく、ここでご辛抱ください!」
 了海は由布の身体を離した。
 地面にしゃがみこみ、手探りで泰頼の遺体を探す。懐に手を突っ込んでかき回すと、確かに丸く堅いものが指先に触れた。
「あった!」
 焙烙火矢を掴み出すと、了海は横穴を走った。
 必死で縄ばしごをよじ登り、扉と竪穴のわずかな隙間に丸い素焼きの器を押し込む。
 縄ばしごから飛び降り、横穴に駆け込む。
「姫、伏せて!」
 叫んだ瞬間、爆風が背後から了海の身体をなぎ倒した。
 前方へ倒れ込みながら、必死で腕を伸ばし、由布を自分の身体でかばう。
 火事の熱で引火した焙烙火矢は、閂の材木をへし折り、重い観音開きの扉を吹っ飛ばした。



 放置されていた倉から突然火柱があがり、藤ヶ枝城で由布姫の行方を捜していた者たちは、我先に古い矢倉の前に駆けつけた。
 矢倉は屋根と壁の一部が完全に吹き飛び、内側からごうごうと火を噴き上げている。
「な、なんでこんなところから火が……!」
「さっきの爆発は、ありゃ焙烙火矢だろ!? まさか不発だったやつが、ここまで転がってきてたのか!?」
「とにかく、火を消せ! 水を持ってこい!」
 右往左往する人々の前で、爆風で歪んだ矢倉の扉が、内側からばきッとぶち破られた。
 そこから、行方がわからなかった姫御前と、陣代とが飛び出してくる。
 姫御前は陣代の背におぶわれて、ぐったりとして声もなかった。
「ひ、姫さま!? それにご陣代も、こいつはいったい――!?」
「話はあとだ! 医者を呼べ、円谷はどこだ!?」
 奥の丸で城代家老たちの手当てをしていた円谷が、薬籠
(やくろう)を担いで慌てて駆けつけてくる。
「心配はございません。軽い火傷と切り傷のみです。今はお疲れのあまり、お気を失っておられますが、間もなく正気づかれましょう」
 医師の言葉に、了海は深く安堵のため息をついた。
「では、ご城代の様子はどうだ」
「血止めはできました。傷は浅くはございませんが、幸い急所を外れておりましたゆえ、このまま傷が腐ることさえなければ、助かりましょう」
「そうか、良かった。八郎太は無事に戻ってきたか。ほかに被害は……」
「ご陣代! 他人より今はご自身の手当てが先です。そうキョロキョロされていては、脈も取れません!」
 背後では、矢倉の火災を消し止めようと、人々が必死で水をかけている。
「その倉はもうだめだ、あきらめろ。それよりは、まわりへの延焼を食い止めるんだ!」
 その喧噪の中、了海は気づいた。
「さわ……!」
 能面のように感情のない顔で、さわが立ち尽くしていた。
 了海は一瞬、さわが泣いているのかと思った。
 けれどそうではなかった。
 炎に照らされるその顔は、無表情ゆえに人のありとあらゆる感情が、怒りも哀しみも歓びも憎しみも、すべてが噴き出しているように見えた。
「……さわ」
 円谷の手当てを受け、由布も気がついた。
「さわ、待って!」
 由布は懸命にさわへ向かって手を伸ばした。
 けれどさわは応えなかった。
 くるっときびすを返すと、そのまま走りだす。
 そして、燃え盛る炎の中にためらうことなく飛び込んだ。
「だめよ、さわ! 戻りなさい!」
 多量に煙を吸い込んだ喉からは、まともな声が出なかった。
「――さわ……!」
 鬼女を呑み込んだ矢倉の炎は、一晩中激しく燃え続けた。
 黄金の火の粉は、天へ向かう涙のようだった。
 だが幸い、その火も他の建物へ延焼することはなく、朝日が昇るころには、ほぼ完全に消し止めることができた。
「あーあ。ほんとに丸焼けになっちまいましたねえ……」
「もともと壊れかけて、使っていなかったんだ。さほどの損失でもなかろう」
 一夜明け、人々は戦の狂乱からようやく眼を醒ましつつある。
 炊き出しの粥がくばられ、体力のある者は焼け跡の片づけにとりかかる。
 泥まみれ、煤だらけの顔を見交わし、誰もが生き残った喜びをしみじみと噛みしめる。勝ち鬨も敵への復讐もなく、ただ腹の底からじんわりとあたたかな力が、己の命が込み上げてくるようだった。
 矢倉の焼け跡からは、無様なつくりかけの横穴と、その奥に倒れていた泰頼の骸が見つかった。
「こやつは篤保どのの寵童のひとりでござった。泰頼という名も、本来は篤保どのの御名から一文字戴いて、保頼と書いておったのでしょうな」
 晒しの包帯で全身ぐるぐる巻きにされた城代家老は、おのれを斬った若者の亡骸に向かい、静かに手を合わせた。
「泰頼が、憎くはないの?」
「なんの。死んでしまえば、みな仏でござります。それに、姫さま。歳をとりますと、人を憎んだり恨んだりというのは、どうにも疲れて、面倒くさくなるものでございましてな」
 その言葉に由布もうなずき、無縁仏として葬るために運ばれていく泰頼の骸に、そっと手を合わせた。
 けれど焼け跡から、さわの遺体はとうとう見つからなかった。
 激しい炎に骨まで焼き尽くされてしまったのだろうか。
「さわさん、いってぇどうして……」
 ふと誰かがもらしたつぶやきに、了海は一瞬、言葉につまった。
 由布姫を逆恨みし、殺そうとしたさわを、許す気にはなれない。
 けれど双子を生み、その子らを殺さねばならなかったのは、さわの罪ではない。
 子どもたちが生まれた時、さわの夫はすでに戦で討ち死にしていた。女がたったひとりで、しかも人に忌まれる双子を育てていくことは、生半可なことではない。それを悟って産婆も、迷信にかこつけて子どもを始末してしまえと言ったのではないか。
 しかし、その罪の意識はさわの心から消えることはなく、とうとう彼女を鬼女にしてしまったのだ。
「さわは……」
 なにか説明しなくては、と、口を開く。が、その続きがどうしても出てこない。
 その時、
「さわは、わたくしの姿がきっと見えていなかったのだわ」
 細い、優しい声がした。
「わたくしはあの時、御坊におぶわれて火事から逃げ出しました。でも御坊はこのとおり、とても背がお高いから、さわにはおぶわれているわたくしが見えなかったのではないかしら。だからさわは、わたくしがまだ炎の中にいると勘違いして……」
「姫御前……」
「さわはわたくしを助けようとしてくれたんだわ。可哀想なことをしました」
 由布の目に涙があふれた。
 領民たちも目元を押さえ、尼僧が低く念仏を唱えた。
「それでよろしいのですか、姫御前」
 由布にだけ聞こえるよう、了海は小声でささやいた。
「はい」
 由布はうなずき、
「さわはきっと、赤ちゃんたちのところへ行ったのだと思います」
 ひとりごとのようにつぶやいた。
「さわのしたことは、悪いことです。でもさわは、自分で自分の罪を焼き滅ぼし、つぐなったから、きっとみ仏が赤ちゃんたちのところへ連れていってくださったのだと思います」
「そうですね。今は母子三人、み仏の腕
(かいな)に抱かれて、幸せに暮らしているでしょう」
 了海もうなずいた。そう信じることで由布の心が少しでも癒されるのなら、どんな嘘も方便も許されるだろうと思う。
「姫御前」
「ごめんなさい。わたくし、泣いてばかりですね」
「いいえ。どうぞ、涙をお流しください。さわのために」
 誰かが自分のために泣いてくれることは幸せだと、さわは言っていた。自分は男だし、こんな時に流せる優しい涙は持ち合わせていないが、姫御前の流してくれた涙が、きっとさわにも見えているだろう。
 了海はそっと由布の手をとろうとした。
 だがその時、
「あーらまあ! お二人で仲のおよろしいこと! なんだか妬けちまいますねえ!」
 高く明るい声がした。
 振り向くと、鶴がにんまり笑って立っている。わざとらしく袖で顔をあおいだりしながら、その陰でちらっちらっと「銭、銭!」と了海に指で合図していた。戦に勝ったのだから、約束の割り増し報酬をよこせと言いたいのだろう。
「ああ、わかった。少し待て――」
 が、
「鶴っ! 鶴、おめえ、ここにいたんか!!」
 いきなり、八郎太が横から鶴の腰に飛びついた。
「なっ、なにしやがんだ、てめ……いや、なんですよ、いきなり!?」
「鶴! おめえに死んだ兄貴か弟はいねえか!?」
「――へ?」
「いや、もしかしたらお父うかもしれねえが、とにかく俺ァ、おめえの身内の幽霊に会ったんだ!」
「……はあ!?」
 鶴は唖然として、自分にしがみついたままの八郎太を見下ろした。
 まわりにいた者も、ぽかんと口を開け、八郎太を見つめる。
 そんな中、八郎太はまっすぐに鶴だけを見つめ、ひとり熱弁をふるった。
「玄蕃の首級
(くび)を奪(と)った時、俺を手助けしてくれた若エ奴。あいつはおめえに生き写しだった。ありゃあ、おめえの死んだ身内が俺を導いてくれたに違いねえ。おめえの父ちゃんか兄ちゃんかが、俺におめえを守ってくれって、そう言ってんだ!」
「い、いや、ちょっと待ってくれ、八郎太。ありゃ、実は……」
 いきなりのことに鶴はかなりうろたえ、なんとか八郎太の手を振り払おうとした。だが八郎太はしゃにむに鶴の腰にしがみつき、必死の形相で訴える。
「鶴、いや鶴どの! お、俺の――俺の女房になってくれっ!!」
「……い、いぃぃっ!?」
「俺ぁまだ領地も持たねえ足軽大将だが、今にきっと一国一城の主になってみせる! だから鶴、俺といっしょになってくれ!」
「ち、ちょっと待て! 待ってくれ、八郎太!」
「おめえだっていつまでも、間諜なんて危ねえ真似は、続けられねえだろう? おめえのお父うだか兄ィだかもそれを案じて、俺におめえを託したくて、幽霊になってまで俺の手柄を手伝ってくれたんだ!」
「お、落ち着け、八郎太! おれ――いや、あたしの話を……」
「いや、それよりも、俺ァおめえに惚れた! 一生大事にする! だからなあ鶴……っ!」
「だから、ちったァ人の話を聞けッ!!」
 とうとう鶴の口から、つくりものの女の声ではなく、野太い男の地声が飛び出した。
 ドスの効いた声で怒鳴られて、さすがに八郎太もぎょっとして口をつぐむ。
「あのなあ、八郎太。黙ってて悪かったが、おめえを助けた若い奴ってなァ――」
 鶴は自分の髪を鷲掴みにした。
 長い黒髪がずぽっと抜ける。その下から、ツンツンした毬栗みたいな坊主頭が現れた。
「ありゃ、俺なんだよ」
 八郎太の目がまん丸に見開かれた。金魚みたいに口をぱくぱくさせる。
「俺なんかのことをそこまで想ってくれるのはありがてえが、俺ぁおめえの嫁にゃなれねえよ。だってよ――」
 鶴はぺろっと着物の裾をまくりあげた。
「俺も、おめえとおんなじモンがついてっからさ」
「……」
 八郎太は、ものも言わずにぶっ倒れた。
「この忙しい時に、よけいな病人を増やさんでください! 拙はもう、面倒みきれません!」
 了海はやれやれというように、深くため息をついた。
「……あまり吃驚なさってないのね、御坊」
「は。……いえ、その――」
「もしかして、ご存知だったの? 鶴のこと」
「ええ、まあ……」
 最初から気づいていましたと言うのも決まりが悪くて、了海はつい、視線をあさってのほうへ逸らしてしまった。
「知っていたのなら、八郎太にも教えてあげれば良かったのに。あれでは八郎太が可哀想です。――おもしろがっていませんか、御坊?」
 図星をさされてしまった。
「まあ、いじわるね。それでは、人を導くお坊さまとは言えません」
「は。汗顔の至りです」
「――それに」
 由布の瞳がいたずらっぽくきらめいた。
 花びらのような唇がふふっと、了海を誘うように微笑む。
「もしかして、もうひとつ大事な約束を忘れているのではなくて?」
「約束……ですか?」
「そうよ」
 那原の姫御前は花が咲いたように笑った。
「火事から無事に逃げ延びたら、わたくしを御坊の女房にしてくださる約束です」
「そ、それは……っ!」
 了海は思わず、言葉につまった。
「約束をやぶるのですか? ではあの言葉は、嘘だったのですか?」
 由布は可愛らしく眉を寄せ、精一杯恨めしそうな表情をつくって見せた。だがその口元が、我慢できないようにくすくす笑っている。
「いえ、ですから、それは、あの……!」
 あの時は二人とも気が動転していたし、このまま死ぬのだとお互い覚悟していたのだから……と、言い訳にもならないことをもごもご口の中でつぶやいても、
「まあひどい。わたくしをだましたのですか? 御坊はみ仏に仕える身だから、絶対に嘘はつかないとおっしゃったではありませんか。嘘をついたら、閻魔大王に舌を抜かれてしまいますって」
 白い指が、ちょこんと了海の胸をつつく。その仕草だけで、了海は口から心の臓が飛び出しそうな気がした。まるで焙烙火矢の直撃だ。
「さあ、約束です。わたくしを御坊の女房にしてください」
 ちくしょー、うらやましいーっと八郎太が絶叫した。
 包帯だらけの城代家老は、花嫁の父、いや祖父よろしくおいおいと声をあげて泣いている。
 領民たちの中にも、輪になって踊り出す者がいた。自分の騒動をごまかしたいのか、鶴がそれをさらにあおっている。
 誰もが声を上げて喜び合い、次第に祭りのような大騒ぎになる館の中で、ただひとり、了海だけが絶句し、ガマガエルよろしく冷や汗だらだらだった。
 あれほど願った、姫御前の明るい笑顔が目の前にあるというのに。城の家臣も領民たちも、みんな心から喜び合っているのに。
 どうして、まともな言葉が出てこないのか。
 姫御前は小鳥みたいに可愛らしく首をかしげ、にっこりと笑った。
「それとも舌を抜きますか、御坊?」



 その後、那原はあまたの戦を勝ち抜き、小国ながら繁栄を続けた。関ヶ原では徳川方につき、大阪の陣にも参戦した。その戦功により、江戸幕府二代将軍徳川秀忠は、那原の領主安原氏に、海辺の土地への加増転封を命じた。五千石近い加増ではあったが、実はそれは那原領内にある金山を幕府直轄にするための、事実上の減封であった。
 慣れない海辺の地への移転を余儀なくされた那原家臣団は、それでも領主を中心に団結し、地道な努力でその地に適応し、やがて新たな故郷を築いていった。以降、安原氏は日本海沿岸の小藩の大名として地元の発展と家臣、領民の幸福に力を尽くし、明治維新までその命脈を保つこととなる。
 戦国中期、一度は絶えかけた安原氏の名跡を、第三代城主隆景の女(俗名不明、夫の死後、出家して妙月尼との名が残る)と結婚し、婿として継いだ英景は、うち続く戦乱を勝ち抜き、那原を繁栄に導いた一族中興の祖として知られる。それまで一族の男子が名前に受け継いでいた通字「景」の一文字は、彼の功績をたたえ、以降は彼の名から「英」の一文字を取るようになった。
 なお、隆景の娘と結婚するまでの彼の前半生はよくわかっていない。名主階級の出身だとも、他国の牢人だとも、また一説には還俗した僧侶だとも言われている。

                                          (終)
 




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【 カチガラス・19 】
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