着ているのは、簡素な木綿の小袖。寺で着替えた絹の衣ではない。もっともあの小袖はかなり汚れてしまっていたので、誰かが着替えさせてくれたのかもしれない。
 恐る恐る引き戸を開ける。
 その途端、殺気立った喧噪が一気に由布を押し包んだ。
「篝火を増やせ! もっと薪を持ってこい!」
「水瓶の準備はどうした!? 城兵どもを乾き死にさせる気か!」
「箭竹
(やたけ)が足りない!? 本丸の後ろに生えてるのは、ありゃ何だ。良く見ろ、きさまの目は節穴か!」
 甲冑をつけ、松明を手に走り回る男たち。彼らが身動きするたびに、鎧がかちゃがちゃと不穏な金属音を響かせる。
 何の工事なのか、木槌の音が響き、怒号が飛び交う。かけ声とともに太い丸太が、もっこに山と積まれた土砂や石が運ばれていく。
「此花館より得物が届きました! 数打物(かずうちもの:規格量産品)ですが刀が十五振りと、手槍が五本です!」
「よし、刀は武装のない者にくばれ。槍は馬出曲輪に運べ。そこに詰める者から優先的に渡すんだ。――こら! 水瓶を出しっ放しにするやつがあるか! 地面に穴を掘って埋めるんだ。瓶の肩口が出るくらいまで、深く埋めろ」
「ご陣代。一の井戸の水が濁ってます。一度、底まで浚わねえと使えませんぜ」
「なんだと!? わかった、今行く。おまえは二の井戸を確かめてこい。それと、誰か館の城代のもとへ使いに行け! 藤ヶ枝城には隠し井戸があるはずだ。爺さん、ボケてないでさっさとその場所を思い出せとな!」
 誰も彼も血走った目をして、駆けずり回っている。
「ここは……」
 そうだ。ここは静寂と諦観に満ちた尼寺ではない。
 戦に備える山頂の砦。安原氏の居城、藤ヶ枝城だ。
 朝日かと思っていた光は、城内をくまなく照らす篝火だった。
 あかあかと火を焚き、その光で夜通し突貫工事を行っているのだ。
 崩れた土塁を突き固め、補強する者。堀をさらに深く掘り下げる者。曲輪のまわりには先端を尖らせた丸太がずらりと植えられ、高い柵ができようとしている。
「まだお起きになってはいけません、姫さま」
 静かな声がした。
「……さわ」
 さわは手を差し出し、由布を支えようとした。
「さあ、お部屋へお戻りくださいまし。今、お薬湯をお持ち致しますゆえ」
「いいえ、大丈夫よ」
 ――戦が近いんだわ。あの若い足軽……名前はなんだったかしら。あの元気のいい足軽が敵兵を見たと言っていたし、御坊もうなずいていた。
 まだふらつく爪先で、由布は中庭へ下りた。
「姫さま!」
 泰頼も庭の奥から駆け寄ってきた。
「ここはお足元も危のうございます。さわ殿、姫さまを早くお部屋へ」
「いいえ、泰頼殿」
「泰頼とお呼びください。それがしは姫さまの臣下にございます」
 泰頼はおだやかな笑みを見せた。
「え、ええ……」
 由布はためらいながら、周囲を見回した。
 火の粉を噴き上げる篝火のもと、誰もかれも泥まみれになって働いている。
「御坊は、どちらでしょう?」
 自分の言ったことを無視するような由布の問いかけに、泰頼は気を悪くしたふうもなく、視線で了海の姿を示した。
 了海は中庭の真ん中に立ち、すべての工事の指揮をとっていた。僧衣の裾は泥にまみれ、足も脛まで真っ黒だ。古びた絵図面を広げながら、ものすごい早足でせかせかと歩き回っている。そして時々立ち止まっては、大声を張り上げる。
「なんだ、ここは。米倉じゃなかったのか。なんでこんなすっからかんなんだ。米はどうした、米は!?」
「今年の年貢米はまだ入ってきておりません。去年からの蓄えが――えー……、まだ少しあるはずなんスけどねえ……」
 帳面片手の八郎太の報告に、了海はふん、と鼻息も荒く言った。
「おおかた、どこぞの頭の黒いネズミどもが俵ごと引いていったんだろうさ! 明日の朝一番に年貢取り立ての触れを出せ。何なら籾米のままでかまわんと、百姓どもに伝えておけ!」
「へ、へいっ!」
「返事は『へい』じゃない、『委細、承知』だ!」
「へ……? い、いっさいしょー……?」
「委細、承知! ああ、もういい。次は塩倉に行くぞ。ついて来い!」
「へ――あ、いや……し、し、しょーちっ!」
 了海は剃髪の頭から黒煙を噴き上げそうな勢いで、そのままどかどかと隣の倉の前へ走っていった。そのあとを、八郎太があわててちょこまかとついていく。
 そしてふたたび、
「なんだ、こりゃあっ!? 塩はどこへ行った、塩はーっ!!」
 了海の怒号が響き渡った。
 那原は海から遠い山国だ。たとえ米がなくとも、雑穀や山草、山の恵みで何とか飢えをしのぐことはできる。しかし、領国内で塩を生産することは不可能なのだ。
 そして、塩がなければ、人も馬も戦えない。戦場では、手のひらにこぼす一舐めの塩が、命を繋ぐのだ。
「那原にあるだけの塩を、すべて藤ヶ枝城にかき集める。八郎太! 領内に滞在している商人どもを、今すぐ呼び集めろ!」
「い、今すぐって、今は夜中ですぜ、ご陣代!?」
「それがどうした。職人や人足たちは寝ずに働いているぞ」
「そりゃ、あんたが寝かしてくれねえからでしょうが」
「なんか言ったか!?」
「い、いえ、別に、その……」
「四の五の言っている暇があったら、さっさと行けえッ!!」
「へ、へぇいッ!!」
 頭ごなしに恫喝され、八郎太は慌ててすっ飛んでいった。
 さらに了海は、まわりで働く人足たちをも怒鳴りつけた。
「お前等、手を休めるな! 城の備えが間に合わぬせいで、戦に敗けても良いのか! そうなれば、お前等もお前等の家族も皆殺しだぞ!」
 雷のような声で脅されて、人足たちは泡を食って仕事を再開する。
 誰もかれもが殺気立っている。
「姫さま。ご陣代のお邪魔になります。さあ、お部屋へお戻りください」
「え、ええ……」
 泰頼に再度うながされ、由布は騒がしい中庭に背を向けようとした。
 ここは戦用の砦。敵の姿は見えなくても、戦はすでに始まっているのだ。
 なにも知らない女子どもがうろうろしていて良い場所ではない。
 ――でも、本当にそうかしら?
 由布の足がふと止まった。
 たしかに自分は、戦のことなどなにも知らない。
 それでも今は、この城の主だ。那原の頭領なのだ。
 尼寺を出た瞬間から、由布の運命は変わった。誰もが由布に那原の運命を見ている。その運命のために、すでに数人の男たちが命を落としているのだ。由布を、那原の領主を盗賊どもの手から守ろうとして。
 彼らの命を無駄にしないためにも、城主には城主の、なさねばならぬことがある。
 由布はふたたび、くるりと向きを変えた。
「姫。お危のうございます」
「なにを言うのですか、泰頼」
 由布は自然な笑顔を浮かべた。その実、着物の中でがくがくふるえる膝を、誰にも気づかれないようにと祈りながら。
「ここはわたくしの城ですよ。わたくしの家です。自分の家に居て、なんの危ないことがありますか?」
 そのまま由布は、沓脱石
(くつぬぎいし)の上にあった草履をつっかけ、すたすたと中庭を横切った。
「姫御前!?」
 由布の姿に気づいた了海が、慌てて地面に片膝をつき、臣下の礼を取る。
「いけません、御坊。お立ちなさい。あなたが膝をついてしまっては、人足たちもみな、地面にひれ伏してしまいます」
 その言葉どおり、まわりの職人や人足たちもみな、了海の真似をして地面に両手をつき、由布に向かって深々と頭を下げている。だがその半分は、由布が誰かもよくわかっていないような、いぶかしげな顔だ。
「手を止めてはなりません。みな、作業を続けてください」
 そう言った由布の声はか細くて、人足たちにはよく聞こえなかったようだ。
「みな、手を休めるな! 姫御前のお言葉は、そのままで聞くように!」
 了海が立ち上がり、声を張り上げる。
「ひ、姫御前!?」
「てことは、新しいご領主さまか!?」
「こら! 手を止めるなと言っておるだろうが! 休むな!」
 了海の指示で、止まりかけていた工事がふたたび始まった。
「城内を見て回ります。御坊、案内してください」
 そう言うと、由布は了海の返事も待たず、中庭を歩き出した。
 了海があわててそのあとを追いかける。さきほどの八郎太のようだ。
「ここはなにをしているのですか?」
「屋根に樋を取り付けています。屋根に降った雨水を集め、向こうの大瓶に溜めるのです」
「そう。ではこの樋をつたって、命をつなぐ水が集まるのね。大事の樋です。よろしく頼みましたよ」
 屋根の上で作業を続ける職人に、由布は中庭からにっこりと笑いかけた。
「へ、へい……」
「足元に気をつけて。怪我などせぬように」
 ちんまりと人形のように愛らしいお姫さまから「気をつけて」などと親しく言葉をかけられて、木くずまみれの職人たちは、とっさに返事もできずにへどもどするばかりだった。
「向こうはなにをしているのですか、御坊」
「厩の屋根を葺き替えています。藁が腐ってぼろぼろでしたので」
「そう。取り除いた古い藁は、刻んで肥やしに混ぜるのね。無駄を出さず、良い方法ですこと。村の長老どののお知恵ですか?」
 働いている人足たちに、由布はできるだけ多くの言葉をかけようとした。
「ここの土塀は、もう完成しているのですか?」
「とりあえずの修復だけです。土台からかなり傷んでいるので、本当はすべて崩して作り直したほうが良いのですが」
「大丈夫。しっかりと搗き固められていますもの。この冬いっぱいはきっと保ってくれましょう。みな、ご苦労でしたね」
 姫御前の優しい言葉に、人足たちは耳元をあからめ、嬉しそうな笑みを見せた。
「ここは危のうございます。姫さまが戦場のことを知る必要はございません。こんな怖ろしいものをあえてご覧になることはないのですよ」
 泰実が引き留めようとしても、由布は笑って首を振る。
「いいえ、怖くはありません」
 走り回る男たちは、みな殺気立っている。明日にも始まろうとしている戦の気配が、ひしひしとつたわる。怖くないはずがない。
 けれど由布は懸命に顔をあげ、爪先のふるえを押し隠して、砦の中を歩いていった。
 少しでも、民の心が明るくなるように。この戦を乗り越えれば、以前と同じ生活ができる、みんなで笑える春が来ると。どんなにわずかでも、希望を持っていられるように。
 ――戦の物音を聞いただけで怖がるようでは、武家の姫君としては失格なのですよ。
 常光院の尼僧たちは、おりにふれ由布に語ってくれた。
 有力な武将の姫君は、時に家と家、領国と領国の同盟の保証として、他国へ嫁ぐことがある。
「それはね、とても大切なお役目を担ってのことなのですよ」
 単なる貢ぎ物として相手の男に贈られるのではない。時には実家のために婚家の情報を探り、時には婚家と実家の橋渡しをつとめる。花嫁は同時に、敏腕外交官でなければならないのだ。
「臆病者やうすぼんやりさんには、とても勤まらないお役目です。そういう娘は、お莫迦さんの妻でも大事に面倒を見てくれる忠義者の家臣に嫁がされるのですよ。戦功の褒美として、軍扇や陣羽織の替わりにね。お家の運命を背負って敵将のもとへ嫁げるのは、強く賢い、選ばれた娘だけなのですよ」
 侍の夫とともにあまたの戦乱を生き抜いてきた彼女たちは、その中で学び、培ってきた知恵を、由布に授けてくれた。もしかしたら、有為転変の乱世を熟知している彼女たちは、忌まれて捨てられた姫でもいつかお家に必要とされることもあるだろうと、予想していたのかもしれない。
「戦は男性のものだけではありません。女には女の戦があるのですよ」
「男の方だとて、戦場に出るのは怖いもの。そんな時、後ろで女がきゃあきゃあ泣きわめいていたらどうなります? みんなますます不安になって、村からかき集められてきた足軽なんて、雪崩をうって逃げてしまいますよ。友崩れ
(ともくずれ)というやつですわ。こうなっては、勝てる戦も勝てません」
「だからね、そういう時は笑うのです。おへその下あたりにぐッと力を込めて、にっこり笑うのですよ。それが女の戦です」
 了海は、由布が尼寺でそんなことを教わっていたとは知らないだろう。ほかに新しい領主に据えられる人物が見つからなかったから、やむなく由布を寺から連れ出したのだ。
 それでも。
 選ばれたのだと、思っていたい。
 那原を、領民を救えるのはこの娘しかいないと、選ばれたのだと。
 だから、わたくしは笑っていなければ。
 大丈夫、那原の姫御前は笑っていなさる。だからこの戦は何の心配もいらないと、口先だけでもいい、皆が言い合えるように。
 忘れてはいけない。わたくしを守るために、すでに何人もの命が失われている。
 彼らの命をけして無駄にしないために。
 わたくしは那原の姫御前、姫頭領であらねばならない。
 笑顔の奥に、由布は懸命に涙を押し込めた。つん、と鼻の奥が痛かった。
 ――それに、御坊はわたくしを「必要です」と言ってくださった。
 誰かに必要とされたのなんて、生まれて初めてだった。
 生きていても良いですよ、とは言われた。み仏はどんな命をもいつくしんでくださいますゆえ、と。
 けれど、あなたが必要です、あなたでなければ駄目なのですと言われたことは、今まで一度もなかった。
 信じたい。親と会うことも、人前で堂々と名乗ることさえできなかった自分にも、本当は誰かのために役立ち、誰かの支えになれる力があるのだと。
 必要とされたい。彼らの期待に応えたい。――もう二度と、いらない子だと言われたくない。
 そのためにも、わたくしは笑い続けるのだ。
「まあ、栃の木」
 馬揃えを行う広い前庭で、由布は植えられた大木を見上げ、にっこりと笑った。
「ご覧になって、御坊。実があんなに鈴なりよ。これなら、たくさん栃餅が作れるわ」
「栃餅……」
「ええ。わたくし、栃餅を作るのは得意なのです。美味しくできたら、みなにも振る舞いますね」
 由布の声が聞こえた者たちは、一斉にわっと短く歓声をあげた。
 ――怖ろしい話を、たくさん聞いた。
 あたり一面に転がる死体。腕がなかったり、頭がなかったり。吐き気がするほど血の臭いがたちこめて、しまいには鼻が麻痺してその臭いすら感じなくなる。
 軍馬に踏みつぶされる老人、おもしろ半分で槍の穂先に架けられた赤ん坊。生き残った者たちは、数珠繋ぎに縛られて家畜のように売られていく。
 それらはみな、常光院に暮らす尼たちが自分のその目で見てきた光景だ。尼たちは淡々と、たいしたことでもないように話した。けれど感情が欠落したようなその口調が、彼女たちの受けた衝撃の大きさ、酷さを如実に語っていた。
 ――みんな、本当のことですよ。戦とは、そういうものです。
 手柄を欲しがる男が戦場で死ぬのは、勝手です。でもいつだってその何倍もの女や子供が、殺されるのですよ。
 この那原に、同じ悲劇をもたらさないために。
 わたくしには、しなければならないことがある。
 由布は顔をあげ、にっこりと笑った。
「大丈夫です。この藤ヶ枝城は、わたくしのお父上が工夫を凝らした難攻不落の名城です。たとえ誰が攻めてこようとも、必ずこの城が守ってくれます」
 なにが大丈夫かなんて、由布にもわからない。けれど、そう言わなくてはと思った。
 戦に出るのは、誰だって怖い。
 怖いから、みな、なにかを信じ、縋りたくなる。
 それは神仏の加護であったり、主君の武勇伝説であったり、さまざまだ。
 そして了海が由布に求めた役割も、それなのだ。この城に拠る兵たちの、心の支えになること。彼らが無心に信じられる存在になること。
 嘘でもいい。口からでまかせでも、兵が信じられる――信じたくなる言葉を、言わなければいけないのだ。
 由布を囲んで、どうっとどよもすような歓声があがった。泥にまみれた男たちの顔に、力強く希望に満ちた表情が浮かんでいる。
 その視線に、由布は懸命の笑みで応えた。
 ふと気づくと、了海が満足そうな笑みを浮かべて由布を見ていた。
「なにかおかしいことを言ってしまいましたか、わたくし……」
「いいえ」
 了海は静かに言った。
「愚僧がお教えせねばと思っていたことを、姫御前はすべて先におっしゃってくださいました」
 初めて見る了海の優しい表情がうれしくて、そして何だかくすぐったかった。
 了海もまた、自分がはたさねばならない役割を知っている。
 彼が自分に課したのは、鬼であること。那原を守護する、無敵の鬼であること。
 その厳しさ、怖ろしさは、敵だけではなく、味方にも向けられなければならない。
 この乱世、裏切りやだまし討ちは人の性とも言える。
 人は自分より恵まれた者、幸せな者を羨み、妬み、隙あらばその足を引っ張ろうとする。那原がこんなに荒んでしまったのも、元はと言えば兄を妬んだ異母弟の裏切りが発端だった。
 それを防ぐために、今はどんなささいな過ちも裏切りも許さない、厳酷な態度で臨むしかない。
 本当なら、誠意を持って人々に接し、心からの信頼を勝ち得るのが一番良いのだろう。けれど今は時間がない。威厳と恐怖で人々を抑えつけるしかないのだ。
 誰もやりたくないはずの憎まれ役を、了海は自ら買って出ている。
 彼が無理に鬼を演じていることは、由布を見る一瞬の目でわかる。了海が由布を見る時、その目には必ず、わずかな迷いと後悔が浮かぶ。許しを乞うようなその色は、いつもまばたきする間もなく消えてしまうが、彼が、否応なく戦に巻き込まれていく由布の運命を憐れんでいる証だ。そしてそのきっかけを作ったのが自分であることを、心の底で詫びているのだ。
 ――いいえ、御坊。あなたが悔いることはなにもありません。
 この運命を呈示したのは了海でも、それを自らの意志で選び取ったのは、由布自身だから。
 わたくしたちはともに、自らの勤めを自ら選んだのだ。
 だから、迷ってはいけない。嘆いても、いけない。
 自らの役割を、今はただ懸命にはたすだけ。
 由布の見つめる先で、了海がかすかにうなずいてくれたような気がした。
 声には出さなかった由布の想いを、すべて読みとってくれたかのように。
 けれど。
 いきなり、凛とした声が由布の背中を突き飛ばすように、響いた。
「三の倉ですよ、ご陣代。隠し井戸は、三の倉の中です」



 目の前にいきなりぬッと顔を突き出され、了海も思わず一瞬たじろいだ。
 泰実が、了海と由布のあいだに割り込み、塗り壁のごとく立ちふさがっている。
「なッ、なんだ、泰実!?」
「ですから、お探しの隠し井戸は三の倉の奥にあると申し上げているんです。漬け物倉として使われていたところですよ」
「あ……ああ、そうか。わかった」
 ――いきなり出てくんなッ!! 咄嗟に、ぶん殴りそうになったじゃないか!





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