他に何をするでもなく、ただぼうっと時間をつぶす。
 携帯はあいかわらず、何の着メロも歌わない。こんな時に限って、友達からのメールも来ない。
 もう一度駿にメールしようか。きっと返事はもらえないだろうけど。
「駿、あたしからのメール、ちゃんと全部読んでくれてるのかなあ……」
 ぷちぷちとボタンを押して、短い手紙をつづる。内容は同じことの繰り返しばかりだ。もう何を書けばいいのかもわからない。
「あー……。なんか、頭痛い……」
 昨夜もほとんど眠っていないし、今夜もまた眠れなかったらどうしよう。起きている時間がとても怖い。駿の言葉が無限にリピートされ、夕夏を責め続けるから。
 今、こうしていたって、駿の声が聞こえる。あの冷たい、夕夏を咎める目が、じっとこっちを見据えているような気がする。
 ちょっとでも気を抜くといたたまれない気持ちが一気にあふれだしてきて、泣きわめいてしまいそうになる。
 ……ここでいきなり泣き出したら、回りの客とか店のスタッフとか、ヒクだろうなー。絶対、どっかおかしいって思われる。救急車、呼ばれちゃうかも。夕夏は唇をひくっとふるわせ、自嘲した。
 クラスメイトの誰かが、やはり彼氏にふられたせいで不眠症っぽくなってしまい、医者から精神安定剤を処方してもらっていると言っていた。そして同じような症状に悩む友達に、気軽にその薬を分けてあげていた。
 ――あたしも欲しかったな、あの薬。夜、眠るのが楽になるっていうし。
 でも、ママはきっとそんなこと、絶対に許してくれないはずだ。情緒不安定で専門医に診てもらったら、夕夏の心がおかしくなった原因として、六年前の事件のこともきっとほじくり返されてしまうだろう。
 自分でどうにかするしかない。ママにも、誰にも知られないうちに。
 どうせ返事がもらえないメールを送信したあと、夕夏は携帯のパケット通信を切断しなかった。そのままぼんやりと携帯サイトを眺め始める。昨夜も見ていたブログサイトだ。
 自分と似た子がいると思うと、少し安心できる。その安心感はかなりどんよりしていて、心のもやもやがすっきり晴れるというわけにはいかないが。低いテンションでとりあえず安定、といった感じだ。
 それでも一人で声をかみ殺し、ベッドでのたうち回っているよりはずっとましだ。
 夕夏がこういったカフェショップやファミレスにしょっちゅう入り浸るのも、そのせいだ。たとえ一人で過ごしていても、こうして人目のあるところ、周囲から人の声が聞こえる場所にいれば、パニックになりそうな自分を抑えるのも簡単なのだ。誰と会話するわけでもないけれど、自分は完全にひとりぽっちなわけじゃないと感じることができる。
 夕夏がぼんやりしているあいだに、店内は次第に混雑してきていた。
 ……どうしよう、もうそろそろ帰ろうかな。もう少しねばっても大丈夫かな――。
 店の様子、というより店員が長居する客に苛立ってないかを確認しようと、夕夏は少し首を伸ばして店内を見回した。
 冷房の効いた店内の席は、八割がた埋まっている。オープンテラスの席にも、客の姿があった。
「うわぁ……。この暑いのに、よくあんなとこに座ってられるなー」
 夕夏が席を立ったら、外にいる客が移動してくるだろうか。どうしよう、もう店を出て、ほかの客に席を譲るべきだろうか――。
 そんなことをぼうっと考えていたのだが。
 次の瞬間、夕夏は手にしていた携帯をあやうく取り落としそうになった。
「――えッ!?」
 オープンテラスのパラソルの下、ネイヴィブルーのTシャツを着た若い男性客に、視線が吸い寄せられる。
 夕夏は息をすることすら忘れてしまいそうになった。
 夕夏が見つけた若い男。座っていても、その背の高さは容易に見てとれる。まるで持て余すみたいに投げ出された長い脚。しゃきしゃきした黒い髪、そしてその横顔。
 たとえガラス越し、声も聞こえないくらい離れていても、彼を見間違えるはずがない。
「駿……っ!」
 どうして駿がこんなところにいるのだろう。今日は一日中、自宅にいると思っていたのに。
 駿の隣には、夕夏の知らない女性が座っていた。夕夏よりも、駿よりもかなり年上の女性――とても綺麗なひとが。
 ……誰。誰、その女。
 携帯を握る右手が、がたがたとふるえだした。あわてて左手をかぶせ、押さえつける。
 けれどそれ以外の身体のパーツは、まったく動かない。視線をそらすことも、驚きの声の形のまま開いた唇を、閉じることもできない。まるで全身の神経が死んでしまったみたいだ。
 無論、二人は店内の夕夏に気づくはずもない。何を話しているのか、楽しそうに笑顔を浮かべ、ときどき頬と頬がくっつきそうなくらい顔を寄せ合ったりもする。
 どこから見ても、仲の良い恋人たちの光景だ。
 ――どうして、駿。
 声にならない疑問が、夕夏の中で渦を巻く。渦がどんどん早くなり、嵐みたいに暴れ出す。自分の声が頭の中にまるで破鐘みたいに響き渡る。
 ――どうして、駿。そのひと、誰!? どうして駿といっしょにいるの!?
 ――駿の部屋にこの店のレシートが落ちてたのは、前にもそのひととここで逢っていたからなの!?
 夕夏は席を立つことすらできず、食い入るように二人の姿を見つめ続ける。
 一瞬、その視線に気がついたように駿が顔をあげ、回りを確かめるようなそぶりをした。だが店内にいる夕夏にはやはり気がつかなかったようだ。またすぐに、目の前の女性にだけ視線を集中させる。
 ――駿、そのひととどんな関係なの。そのひとと一緒にいたから、夕夏のメールにも電話にも返事をくれなくなったの? そのひとと逢うつもりだったから、昨日、あたしを部屋から追い出したの!?
 そのひとが好きなの、駿。夕夏のことはもうキライになったの!?
 どんなに見つめ続けても、ガラス窓の向こうの恋人たちがその問いに答えてくれるはずもなかった。
 やがて二人が同時に席を立った。伝票を持ち、どちらが奢るかで少しもめているらしい。けれどすぐに話がまとまったらしく、互いに笑顔でうなずき合う。
 ――いや。いや、駿。なにしてるのよ。そんな女に笑いかけないで。
 だってあたしがここにいるんだよ。あたしはずっとひとりぽっちで、駿のことを待っているのに。どうしてあたしには、笑ってくれないの!?
 そんな女にさわっちゃいや。そんな女を、見ないで、駿!!
 二人がパラソルの下を離れ、店内へ続くドアのほうへ歩き出した。
 夕夏は思わず椅子から立ち上がってしまった。
 ――逃げなきゃ。どっかに隠れなきゃ、駿に見つかっちゃう。
 悪いことをしているわけじゃない。夕夏がこの店にいるのも、駿と見知らぬ女性が一緒にこの店に来たのも、まったくの偶然だ。けれどあまりにも間が悪すぎる。
 夕夏が今ここにいることを、駿には絶対に気づかれたくない。
 ドアに取り付けられたカウベルが、からん、と乾いた音で鳴った。ガラスの扉が開き、外の暑い空気とともに二人が店内に入ってくる。
 それでも夕夏は、駿たちから目をそらせなかった。
 二人に気づかれたくないなら、せめて顔を伏せて知らんぷりするべきなのに。横を向くことすらできない。椅子から立ち上がりかけ、中腰になったみっともない姿勢のまま、夕夏は動くことすらできなかった。
 女性は、自分を見ている少女のことなどまったく気づかない。まっすぐレジへ近づき、個別の会計を頼んでいるようだ。
 会計の順番を待っていた駿が、ふと顔を上げた。
 ――見ないで。こっち見ないで、駿!
 けれど夕夏の願いが聞き届けてくれるものは、この世には何一つ存在しない。昔からそうだった。夕夏が必死に願えば願うほど、その願いは踏みにじられる。
 ――ああ。今も、ほら……!
 何の気なしに周囲を見回していたその表情が、一瞬で凍り付いた。
 夕夏と、目があってしまったのだ。
「夕夏……ッ!?」
 声は聞こえなかったけれど、駿がそうつぶやいたのがはっきりとわかった。
「え? どうかした、駿くん」
 女性もふりかえる。そして硬直したように動かない駿の視線をたどり、夕夏の姿に目を留めた。
 その瞬間、彼女も、夕夏が誰であるのか、すぐに気がついたようだった。思わず口元に手をあて、小さく息を飲む。
 ――今、あたし、どんな顔してるんだろ。
 真っ白に麻痺したような頭の片隅で、ふとそんなことを思う。
 ――だってほら、駿も、あのひとも、あんなに驚いた顔してるんだもん。あたし、よっぽどすごい顔してるんだろうな。
 驚きだろうか、それとも裏切られた怒り、哀しみ、嫉妬。
 けれどそんな激しい感情は、身体のどこからも湧きだしてこない。
 夕夏が感じているのはただ、砂漠みたいな虚無、なにも考えられない空白だけだった。
 時間が全部凍り付いて、店も外の景色も、夕夏の回りにあるものすべてが、がらがらと音をたてて崩壊していくような気がした。





    SCENE 5 三人――六月二十五日


 そう、あの子が。
 今にも停止しそうな脳裏の片隅で、依里は思った。
 あの子が、駿の彼女。
 依里が想像していたより、小柄でずっと可愛い。長身の駿の隣に並んだら、いっそう華奢に見えるだろう。長い髪に流行りの大きなヘアアクセサリーを飾り、チュニック風にジーンズと合わせたふわっとしたキャミソールワンピースが良く似合う。
 桜色の唇はかすかに開いたまま、閉じることも忘れ、うす茶色がかった大きな眼はまばたきすらせずにじっとこちらを見つめていた。その表情はどこかうつろで、驚きとか怒りとか、はっきりした感情はなにも読みとれない。
 まばたきも忘れているようなのは、駿も同じだ。彫像みたいに突っ立ったまま、茫然と少女を見つめている。
「駿くん」
 依里は短くそっと駿の名を呼び、その腕をとった。
「出ましょう」
「え……っ」
「レジの前にぼーっと立ってたら、お店や他のお客さんに迷惑よ」
「あ、ああ……。うん――」
 駿はまだ、依里が話しかけた内容すら理解できていないようだ。
 依里は駿の分の支払いも済ませ、駿の腕を引っぱるようにして、カフェを出た。
 そのまま、まっすぐ駅に向かって歩き出す。
「依里さん。あ、あいつ――」
「何も言わないで。今日はもう、このまますぐに帰りなさい」
「で、でも……!」
 駿は、出てきたばかりのオープンカフェを振り返ろうとした。――その中にいる、あの少女を。
 だが依里は、駿の腕を強く引き、やめなさいと合図する。
 こんな駅前の繁華街で、揉め事を起こすわけにはいかない。今は素知らぬ顔でこの場を立ち去るしかないのだ。
「大丈夫よ。彼女だって、きみになにか特別な話があったわけじゃなさそうよ。そんなんなら、私たちに気づいた時点ですぐに自分から声をかけてきそうなものじゃない?」
「う、うん……。それは、そうだけど――」
「偶然、逢っちゃっただけよ。今すぐ彼女と話をしなきゃならない理由なんか、何にもないわ」
 それでもためらい、足が停まりそうになる駿を無理やり引っぱって、依里は足早に駅へと向かった。
 駿の分の切符を買うと、それを強引に駿の手に押しつけ、改札へ向かわせる。依里は通勤に使うSuicaで改札を抜けた。
 階段を降り、ホームへ向かっても、依里は絶対に後ろを振り返らなかった。
 なにもなかったふり。こんな時はそれが一番いい。こんな人混みの中で騒ぎは起こしたくない。衝突を避けて、さっさと逃げ出してしまうべきだ。
 タイミング良く、快速電車がホームへ滑り込んでくる。
 電車に乗り込む人々の波に紛れ、依里は駿とともに車内へすべりこんだ。
 快速の車内は、平日ほどではないにせよ、かなり混雑していた。座席はすべて埋まり、依里たちはドアのそばに身体を寄せ合うようにして立っているしかなかった。
 周囲は見知らぬ乗客たちに囲まれて、その人の壁の向こう、あるいは別の車両にいったい誰が乗っているかなど、まったくわからない。
 それでいい、と、依里は思った。今は、よけいなことは考えないようにしたほうがいい。
 こんな時は先にヒステリックになって自分を見失ったほうが負けだ。最後まで冷静でいられたほうが、事態を有利に運べる。
 ――負け? 自分の思考に気づき、依里はひどく苦い思いを噛みしめた。
 勝つとか負けるとか、恋愛に対してそんな計り方をするのは、みっともなくて一番嫌だったのに。
 誰かから恋人を横取りしたいとか、他の女よりも優位に立ちたいとか、そういう醜い感情が生まれそうになったら、その恋はいつでもすぐに終わりにしてきた。きれい事を並べたせりふで、この別れが依里自身より相手の男のためだと思わせて。
 それが大人の理性だと依里は思っていた。本当はくだらない見栄にすぎないのだが。
 でも今は、同じことができない。大人の理性なんて、全部どこかへ吹っ飛んでしまった。
 オープンカフェで顔を合わせた瞬間に騒ぎ出さなかったのは、ただ、駿のためだった。そんな場所で大騒ぎしたら、一番いたたまれない思いをするのは駿だろうし、何より自分に関わりのある女たちがいつものかわいらしい姿から豹変して、醜く罵りあう様子など、彼に見せたくなかった。
 ――駿のため? 本当にそうかしら。依里は自問する。駿を傷つけたくないというより、自分でも知らなかった本性を駿の前にさらけ出して、彼に嫌われたくないという、私の保身の思いじゃないのかしら?
 電車がマンションの最寄り駅に到着するまで、二人は一切口をきかなかった。
 やがて、いつもの駅で電車を降りると、まるで逃げるように改札を抜け、駅ビルの外へ向かう。
「え、依里さん。俺――」
「言ったでしょ。きみはこのまま、まっすぐ家に帰りなさい」
 店で目があった時、少女は茫然自失としていた。駿も、突然現れた少女にかなり動揺している。もう少し頭を冷やしてからでなければ、お互いまともな会話も難しいだろう。
 時間稼ぎをして問題を先送りするのも、大人の知恵。狡いテクニックだ。
 それに気がついたのか、駿も黙ってうなずき、バイクを停めてある駐輪場へと向かった。ここは依里に任せるのが一番いいと思ったのかもしれない。
 そんなふうに信じてもらえると、少しだけ安心できる。
「あ、あのさ、依里さん……」
 最後にもう一度、依里になにか言おうとする。けれど何を言えばいいのか、思いつけなかったらしい。駿はすぐに口ごもり、うつむいてしまった。
「また、メールくれる?」
 できるだけ明るく、何もなかったような顔をして、依里は言った。
「今度こっちに来る時は、前もって必ず連絡してよ。私にだって、いろいろ都合とか準備とかあるんだから」
「ん――うん、わかった。そうするよ」
 駿もようやく落ち着きを取り戻してきたのか、こわばって無表情だった顔も少しやわらいでいた。
「そっか。俺、また依里さんの部屋に泊まりに来ていいんだ」
「あ! ち、違うわよ。そういう意味じゃないってば」
 からかうような笑みを浮かべる駿を、さっさと行きなさいと、駐輪場の中へ追い立てる。
 四〇〇ccの単車が排気音をとどろかせ、駅前を離れていくのを、依里はロータリーの隅から見送った。
 やがてゆっくりと、マンションに向かって歩き出す。
 空を見上げると、どんよりとした雲が少しずつ広がってきている。強い日差しはなくなったが、その分湿度が上がり、不快指数はさらに増しているように思えた。
 駅からマンションへ向かう道でも、依里は一度も後ろを振り返らなかった。
 やがて四階建てのマンションが見えてくる。
 けれどその中――依里の生活空間にまで、招かれざる客を入れる気はない。
 ゆるやかな坂道の途中で、依里は立ち止まった。そして振り返る。
「このへんで、いいよね」
 鈍い灰色に染まったような空気の中、白いキャミワンピがぽうっと浮かび上がるように見えた。湿り気を帯びた風に、長い髪が羽根みたいに広がっていた。
「名前くらい訊いてもいいよね。私は並川依里。あなたは?」





「私は並川依里。あなたは?」
 突然の質問に、夕夏は一瞬声も出せなかった。
「……ぅか。夕夏。佐々木夕夏」
 自分の名前を言うのに、かなり長い時間がかかってしまったような気がする。思い出せないわけでもないのに。
 依里と名乗ったそのひとは、そのあいだ身じろぎひとつせず、夕夏の返事を待っていてくれた。
「夕夏ちゃん、か」
 なめらかで耳に心地よいアルト。その響きのせいなのか、初対面なのにいきなり親しげに名前で呼ばれることもあまり不快ではなかった。
 ――きれいなひと。
 間近で見ると、あらためてそう思う。つややかなリップグロスが大人びた美貌を優しく見せている。しゃんと背筋を伸ばした立ち方が、まるで絵のようだった。
 こうして向かい合っているだけで、夕夏のほうから目をそらしてしまいそうになる。まるで悪いことをした子供みたいに。
「私になにか話があるんでしょ?」
 その言葉に、夕夏はうなずくこともできなかった。
 どうしてこのひとは、こんなところに来るまでなにも言わなかったのだろう。あのオープンカフェから夕夏がずっとあとを尾行てきたことも、最初から知っていたはずなのに。しかも駅前で駿と別れ、一人きりで夕夏をここまで導いてきた。
 駿とどういう関係、いつから駿と逢ってるの、駿はあなたに何を話したの。訊きたいことは次々に浮かんでくる。けれど、ひとつも声にならない。
 口から飛び出したのはただ一言だけだった。
「――駿を、盗らないで!」
 駿を、奪らないで。あたしのそばから連れていかないで。
 悲鳴みたいなその言葉に、依里は驚いた様子もなく、ただ少し怪訝そうに首をかしげただけだった。
「盗る? まるで駿くんがあなたの持ち物みたいな言い方ね」
「駿は――駿は、あたしのだもん!!」
 依里は静かに、小さく首を横に振った。まるで幼い子供をなだめ、過ちを訂正する大人のように。
「駿くんは誰のものでもないでしょ。彼は彼自身のものよ。あなたがそんな言い方するから、駿くんだってつらくなっちゃうのよ」
 優しく、諭すような口調。だがそれがよけいに夕夏を苛立たせる。
 頭のてっぺんまで、身体中の血が一気に逆流していくのがわかる。
「えらそーなこと言わないでよ! あんたなんか、何にも知らないくせにっ!!」





 ずいぶん意地の悪いことをしてるな、と依里は思った。
 こんな暑いところで立ち話なんて。しかも相手の子にとってこのあたりは、初めて来る場所で、それだけでもかなり落ち着かない思いをしているだろう。顔色も悪く、そうとう緊張しているようだ。
 でも、自分の部屋に入れてやる気にはなれない。そこまでものわかりのいい大人じゃない。
「そうね。何にも知らないわ。興味もないし」
 依里は冷たく言った。やめようと思うけれど、口元に見下すような笑みがにじんでしまう。





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