「う、くあ……っ。あ、あ……っ!!」
耐えきれずに、月が呻く。
「や、やめてくれ、もう……ミサ、もう――!!」
黒いサテンのリボンで根元をきつく戒められた月の欲望は、赤黒く膨れあがり、先端にいっぱい先走りの露を浮かべていた。私の手の中でびくびくとふるえるたびに、半透明の熱い雫が幹にまでしたたり落ちる。
リボンを巻き付けるとすぐに、月はこれをほどけと声を荒げた。椅子をがたがたと揺すり、手首や足首の戒めもほどこうとするみたいに。ううん、本当にそうやって戒めを引き千切るつもりだったのかもしれない。
月が本気で力を込めれば、いい加減に結んだ私のリボンなんて、本当にふりほどけただろう。私は、あんまりきつく縛って血流を悪くしたらまずいと、つい手加減してリボンやネクタイを結んでしまったから。
でも戒めがほどける前に、私は手にした月の欲望に強く爪をたてた。
「うああぁッ!」
月が思わず悲鳴をあげる。
激しく脈動するそれを、私は片手で強く握り締め、膨らみの付け根にかけた親指でぐいとねじ曲げてやった。ちょうど、細い木の串や草の茎を指先だけでへし折るみたいに。
そのまま、きりきりと爪を食い込ませる。
「や、やめろ、ミサ! ミサぁ――ッ!!」
激痛に――それとも、失神しそうな快感に?――月が叫ぶ。
だって、膨らみきった月の欲望は、どんなに惨く苛めても、萎えもしない。さらに激しく脈打って、快感の蜜をこぼしてる。
月は顎をのけ反らせ、全身を大きくふるわせていた。そのまま硬直し、懸命に悲鳴を噛み殺してる。
……その感じ、私にもわかるよ。月。
苛められて、はずかしめられ続けて、頭の中はもうぐちゃぐちゃになっちゃうの。痛いのも恥ずかしいのも、どんなにつらくて哀しいのも、みんな気持ちが良くて仕方がないの。
そうよ、月。あなたに犯される時、私もいつもそうだから。
もうこのまま、死んでしまうんじゃないかって思えるくらい。どうしてこんなにも気持ちいいのか、自分で自分の躰や神経が信じられなくて。
――このまま死なせて欲しいって、思うくらいに、気持ちいいでしょ。
忘れないで、月。この歓びをあなたに与えられるのは、私だけよ。
私だけが、あなたを解放してあげられるの。
私は月のものにふたたびキスをした。猛々しく膨れあがった欲望を精一杯口の中に含み、舌を絡めてやわらかく吸い上げる。
「あ、ああぁ……っ」
月はもう、声を耐えることすらできないようだった。
私の指が、唇がわずかにうごめくだけで、月は狂おしげに呻く。あえぎ続ける。まるで傷つき、生き延びようと懸命に足掻く野生のけものみたいに。
「ほどいてくれッ! 頼む、ミサ……こ、これ、ほどいて――」
とうとう、月は私に懇願し始めた。
「ほどいてくれ……っ。も、もう――もう、勘弁してくれよ……っ」
「私も同じこと、言ったよね。あなたに無理やり犯された時、私、痛くて、つらくて、あなたに何度も何度も、もうやめてってお願いしたよ?」
「ミサ……」
私は無邪気そうに、まるで小さな子供みたいにあどけない表情を造って、月を見上げた。
「その時、ライト、どうした? 私のお願い聞いてくれた?」
月は答えない。悔しそうに唇を噛みしめ、俯くばかりだった。
「許してなんかくれなかったよね。私を力ずくでねじ伏せて、これ――こんなおっきいの、私の中に無理やり挿れて……」
月がこぼす先走りに汚れたリボンを、さらにきゅっと引っ張る。きつく締め上げる。
「ひッ!! くうう――ッ!!」
「すごく痛かったんだよ。裂けちゃうくらい痛くて、つらくて……その時、私、ライトのこと、ほんとに怖いって思ったんだから」
「ミ、ミサ……ッ!」
「ライトはどうだったの? 私を無理やり犯して、気持ちよかった? これで私の中、滅茶苦茶に突き上げて、ぐいぐい擦りつけて――。私の中、狭くて気持ちよかったでしょ。ライト、いつもそう言うものね。熱くてきつくて、溶けそうだって」
「あ、謝るよっ! 謝る、悪かったよ! だ、だから……ミサ――!」
「ライト?」
私はふと顔をあげた。躰を起こし、月の顔に顔を近づける。
「ライト、泣いてるの?」
寄ったように紅く染まる目元。切れ長の美しい眼に、うっすらと光るものがにじんでいる。
「ライト、ライト、大丈夫よ。あなたを傷つけたいわけじゃないの」
月のほほを両手で包み、私は月の目元にキスをした。塩からい涙をそっと舌先で拭い取る。
「大好きよ、ライト。ねえ、信じて」
「ミサ……」
「世界で一番あなたが好き。あなたがいなかったら、私、生きていけない」
かすかに開いてふるえる唇に、キスを繰り返す。月の口中に舌を差し入れると、月が舌を絡めて応えてきた。
月は夢中で私の唇をむさぼった。舌を絡め、吸い、おずおずと私の中へ舌を差し入れる。私が拒まないとわかると、懸命に唇をおしつけ、私を求めた。
「ねえ、ライト。ここにもキスして」
私は月の膝に乗った。胸のふくらみを手のひらで支えて、月の前へ差し出す。
月は無心に私の乳房に吸いついた。まるで赤ちゃんみたい。
「いいよ、ライト。とっても上手」
ごほうびに、こめかみへキスをしてあげる。
そして私は手を下へ伸ばし、月を戒めるリボンに触れた。
「うぁ――ひうぅッ!」
リボンをほどき、ふるえる欲望を右手で思いきり擦りあげてやる。
「あッ、あ、あ……くああァッ!!」
躰中を薄紅色に染めて、月は絶頂を迎えた。
堰き止められていた欲望が一気に噴き上がる。
「あ……あぁ……っ」
煮えたぎる月の欲望が、私の手、ウエストから胸元までをも、白くどろりと汚す。
その熱さに、私まで頭の芯が痺れてしまいそう。
それだけ激しく欲望を吐き出しても、月のものはほとんど衰えもしなかった。私が軽く指を絡めただけでふたたび、さっきよりもさらに熱く激しく脈動し始める。
「どうしたいの、ライト? これを、私の中に挿れたい? それともまた、お口でいかせてほしい?」
小さい男の子に問いかけるみたいに、優しく訊ねる。
「ミ、ミサに……挿れたい。ミサの中に入りたい――」
「いいよ。入れてあげる」
私は腰を浮かした。びくびくとふるえる月のものに手を添えて、私の中へ導く。
そこはもう、あふれるほどに蜜をたたえていた。
私は月の首にすがりつき、ゆっくりと腰を沈めていった。
「う、くぅ……っ」
月が低く呻く。
ああ――ああ。私の中が、月でいっぱいになるわ。
躰が内側から押し拡げられ、圧迫され、月の熱に灼かれる。息苦しさと燃えるような快楽とが一気にこみあげて、失神してしまいそう。
「あっ、あ、ライト……ライト……っ!」
月の肩にしがみついたまま、私は動けなくなってしまった。
「ああぁ……っ! ど、どうにかして、ライト、ねえお願い……っ」
「手……、手をほどいてくれよ……。これじゃ僕だって、何にもできない」
荒い息をつきながら、私は月の表情を見上げた。
月も、今にも泣きそうな顔をしてる。
私は一旦、月の膝から降りた。
椅子の後ろにまわり、ふるえる手で月の戒めを解く。ひざまづいて右の脚を縛るリボンを解く間に、月も自分で身をかがめ、左脚のリボンを毟りとった。
「ライト……!」
月が私を抱きしめる。
立ったまま私の左脚を抱え上げ、一気に私の中へ押し入ってきた。
「あー……ッ!」
そのまま、私たちは床の上に倒れ込んだ。
「「あっ! あ、ライト、ライト……ああっ、い――悦い、ライトぉ……っ!」
月がめちゃくちゃに突き上げてくる。私も自分から月にしがみつき、懸命に応えた。
ぎゅっと瞑ったまぶたの裏に、真っ白な光がスパークする。熱い蜜があふれ出す。躰が浮き上がり、止まらない。
「ミサ、ミサ――!」
「好きよ、ライト……大好き、あ、ら……ライト……ああぁーッ!!」
そして私たちは、嵐みたいな快楽に飲み込まれていった。
月が元通り、衣服を着込む。
長くて奇麗な指が、ボタンをひとつひとつ器用に留めていく。その指の動きを、私はじっと眺めていた。まるで芸術を鑑賞するみたいに。
洗い晒しのコットンシャツ、ケミカルウォッシュのスリムジーンズ。若い男の子のありふれた服装。
でもその下に、人に見せられない傷がいっぱいついている。
さらりとした生地に傷が擦れて痛むのか、一瞬、月は哀しげに眉を寄せた。
その傷をつけたのは、私。
月の着替えを見つめている私の視線に、月が気づいた。そしてひどく不機嫌そうな眼をして、睨む。
――覚えていろよ、ミサ。
その眼が、そう言っている。
今度は私が、月に非道く苛められる番だって。
今日のことを泣いて謝って、もう二度としないからと誓うまで、月は絶対に私を許してくれないだろう。
でも月。私、やめないよ。
またあなたを、徹底的に辱めてあげる。
あなただってきっと、あの歓びを忘れられるはずがない。まるで人形みたいに自分の意思を、すべてを手放して、誰かに服従する、盲目的なまでの快楽を。
誰だってみんな、そうやって誰かに支配されることを心の底では願っているの。どんなに強靱で誇り高い魂でも。
そうやって自分のすべてを汚され、捨て去って初めて、人は生まれたままの本当の自分に還れるんだわ。
それを私に教えてくれたのは、あなたよ。
そしてその悦楽をあなたにプレゼントできるのは、あなたの魂を解放してあげられるのは、私よ、月。私だけなの。
やがて身支度を終えた月に、私はゆっくりと近づいた。
「行こ、ライト。みんなが待ってる」
額にほつれかかる絹糸みたいな前髪を、そっとなでつけてあげる。
「ミサ」
月の唇が頬に触れた。そしてすぐに唇をふさがれる。
私たちは初めて、何もかも対等のキスをした。
一方的に与えられるのでも、奪われるのでもなく。
そして私たちの、本当の恋が始まった。
−END−
女の子攻って、一度書いてみたくて。似合うのはやっぱりこの二人
かなぁと。思ったより時間かかっちゃったけど、楽しかったです♪
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