【 タイト・ロープ T】
「だめだよ、海砂。"NO"だ」
 冷たく、月
(ライト)の声がした。
 彼がどんな表情
(かお)をしてその言葉を言ったのか、私には見えない。
 私の眼は、黒いシルクサテンのリボンでふさがれている。
 これは、私が結った髪に飾っていたもの。
 私の両腕は後ろに回され、硬い革のベルトで戒められている。このベルトは、月のもの。メンズだから少し重くて、金属パーツが肌に触れると、痛いくらい。
「はずして、月。こんなの、いや」
「どうして?」
 まるで感情のない声で、月が言う。
「きみが望んだことだ、海砂。きみの我が侭を聞いてやったんじゃないか」
 ぎし、と、ベッドが軋んだ。
 熱い体温が近づいてくる。
 長く残酷な指が、すぅ、と、私の頬を撫でた。
「特別なことをしてあげよう。海砂の望みどおりに」
 午後の陽射しがさしこむ、小さな部屋。
 勉強机に本棚、パソコン、ベッド。よけいなものは一切置かれていない、当たり前の若い男の子の部屋。
 でもこの瞬間、月の部屋が私を繋ぐ牢獄になった。







 最初に言い出したのは、私。
「いやなの。絶対、いや! 私を、他の女の子と一緒に扱わないで!」
 月が、私以外の女の子と口をきくのも、笑いかけるのも、優しくするのも、絶対にいや。
「さっきも説明しただろう。ぼくは疑われている。そんなぼくが今、海砂だけを特別扱いしたら、海砂が第二のキラだと広言しているようなものだ。ぼくたちの本当の接点は、誰にも気づかれてはいけない。偽装
(カムフラージュ)が必要なんだよ」
「でも、いやなものはいやなの!」
 だってキラは、月は、海砂の全部だから。
 月のためなら、いつだって死んでかまわない。
 だから。
 月にとって、特別な女の子に、世界中でたった一人の存在になりたい。
「海砂はぼくにとって、特別な女の子だよ。ぼくがキラだと知っているのは、世界中でただ一人、海砂だけなんだから」
 月はそう言ったけど。
 足りない。
 そんな言葉だけじゃ、全然。
 言葉でも、仕草でも、海砂を見る眼に浮かぶ表情でも、月の全部でそれを示して。
 こういう海砂を欲張りだって思う月は、女の子のこと、全然わかってない。
 私たちは堂々巡りの言い争いを繰り返した。
「くだらない我が侭を言わないでくれ。何度言えば判るんだ」
「わかってないのは、月のほうだもの!」
 やがて、私はとうとう、月を怒らせてしまった。
「わかったよ、海砂」
 一つ、忌々しそうに吐息をついて。月は、立ち上がった。
「きみがそんなに言うなら、特別扱いをしてやる」
 そう言う月の声は、ひどく尖って、今まで聞いたこともないくらい、冷たかった。
 そして月は、私を捕まえた。
 咬みつくようなキス。
 こんなキスをされたのは、初めて。唇を強く吸われ、咬まれ、熱い舌先が強引に入り込んでくる。私の中を淫らにかき回す。
 月は左手だけで軽々と私をベッドに押さえつけた。
 唇はまだ奪われたまま。息苦しいほどの接吻から、解放してくれない。
 頭の芯がくらくらしてくる。おなかの奥あたりから熱いものがじわじわ広がってきて、身体中の神経が麻痺していく。
 月の右手が私の髪を乱暴にかき上げる。
 小さな衣擦れの音をさせて、髪に飾っていた黒いリボンがほどかれた。
「あ!」
 抱きすくめられ、強い腕の中に閉じこめられる。
 リボンは私の手首に絡みつき、背中でひとまとめに縛り上げてしまった。
「あ、い……痛いっ!」
 無理に捻られて、腕の関節が軋む。
 思わず悲鳴をあげても、月はまったく聞いてくれなかった。まるで人形を振り回すみたいに、私を意のままにする。
「なにするの、月。いや、離して――離して!」
 月は死んだ鳥の羽をむしるように、私の服を剥ぎ取った。
 腕を縛るリボンは、すぐに重たいベルトに変わった。硬い皮革が手首に食い込んだ。
 空いたリボンで、月は私の両眼をふさぐ。
「い、いや……っ! やめて、月……やめて!!」
 私はもがいた。
 肩をつかまれ、強くベッドに押しつけられる。月の身体が覆いかぶさってくる。
 それをどうにか押しのけようと、私は暴れた。足をばたつかせ、寝返りをうつように転がってベッドから逃げようとする。
「行儀が悪いな。脚も縛り上げてやったほうがいいのか、海砂?」
 高く蹴り上げた私の脚を、月はぱっと片手で掴んだ。長く硬い指が、足首にぎりぎりと食い込む。
 私はもう、ほとんど身動きできなくなってしまった。わずかに、芋虫みたいにシーツの上で身をよじるだけだ。もがけばもがくほど、手首を縛るベルトが食い込む。ひりひり痛いのは、もう皮膚が擦れて傷ついてしまったからかもしれない。
「月……っ! ど、どうして――どうして、こんなこと……っ」
「海砂が望んだことだろう」
 冷たく、月は言った。
「海砂がどうしても特別扱いをして欲しいというから、してやっているんじゃないか。こんなこと、今まで誰にもしたことはない。海砂にだけさ」
 白い小さなショーツが剥ぎ取られ、大きく脚を開かされる。
「大人しくしていたほうがいい。ぼくも初めてで、加減がわからない」
 そして私は、犯された。
 今まで何度も、月に抱かれた。でも、こんな惨いことをされたのは、初めて。
 こんな――まるで意志のない、玩具のように扱われるのは。
 月のキスが、全身を這う。
「ふっ……く、ぅ――っ!」
 私は強く唇を咬んだ。
 そうしないと、すぐにいやらしい喘ぎがこぼれてしまう。
 月は、思いもよらないところにいきなり触れてくる。
 左脚だけを高く持ち上げて、足首から膝裏まで唇を滑らせ、ぬめる舌先でなぞりあげる。かと思えば、いきなり胸のふくらみを強く掴む。頂点で揺れる小さな突起を、指先で強く摘み取る。ぎゅっと爪をたてる。
「いやらしいな。もうこんなに尖らせて」
 機械みたいに冷たい声。蔑むような笑いを含んで、どこか熱っぽく掠れている。
 こんな……月の声も、初めて。
 今、月はいったいどんな表情
(かお)をしてるんだろう。
 逃げようとしても、すぐに引き戻される。両脚は月を受け入れるように大きく開かされ、閉じることも許されなかった。
 私の秘密が全部、月の前にさらされている。
 木の実みたいに硬く尖って、過敏になった胸の飾りを、月が咬んだ。
「き、い――っ!」
 私は全身を弓なりにのけ反らせる。
 痛い。でも、それだけじゃない。
 咬まれたそこがじんじん疼いて、まるで火のよう。月の唇が離れると、切なくて、もの狂おしくて、泣き出しそうになる。
 頭の中がおかしくなりそう。
「や……、やめて――。もう、やめて、月、お願い……っ!」
 私はひきつったように哀願した。喉の奥がひりひりして、まともに声が出せない。自分のものじゃないみたいに、小さく弱々しく、掠れている。
「あ、あ――あぅっ!」
 長い指が、私の中に突き入れられた。
 鋭い痛みが、私の秘密を突き上げる。
「い、痛い……っ! 痛い、月……っ!」
「痛い? 本当に?」
 月は残酷に指をうごめかす。
「こんなに濡れてるのに?」
 硬い指先が花びらを押し開き、かき乱す。月の指がほんの少し動くたびに、くちゅ、ちゅ……と、小さくいやらしい音が聞こえた。
 視界がふさがれている分、ほかの感覚が鋭敏になっている。いつもなら聞こえないくらいの小さな響きが、頭の芯にまで共鳴するほど、大きくはっきりと耳に届く。
 さんざんにいたぶられた乳首が、じんじん疼く。背中で縛られた手首さえ、擦れた皮膚が燃えるように熱い。
「あ――ひ、あぁあっ!」
 月が、小さな真珠をさぐりあてた。
 その瞬間、私の全身に真っ赤な火花が飛び散った。
「あ、あ、……あっ! い、いや、あ、あーっ!」
 がくん、と、身体が大きく揺れる。弾む。
 月がそこにくちづける。
 熱い吐息と舌が、あますところなく私の秘密を暴いていく。
 快楽のかたまりみたいな小さな真珠を、容赦なく責められる。指先で摘み取られ、捻られる。なだめるように舌先で転がされ、押し潰され、爪をたてられる。
「いや、あ……やあぁっ! やめ、て……あああっ! やめて、ライトぉっ!」
 私は泣きじゃくった。
 羞しくて。自分の意志をまるで無視されて、玩具みたいにもてあそばれるのが、哀しくて、切なくて。
「お願い……っ! お、お願い、月……。もう……、もう、いや……っ」
 月が、すぅっと私の耳元に唇を寄せた。
 そして、ささやく。
「NO」
 長い指が、ふたたび私の中へ埋め込まれる。
「だめだよ、海砂。"NO"だ。きみの言うことは、一切聞かない」
「そ、んな……っ!」
「きみが望んだことだ。きみだって嬉しいんだろう。ぼくにこうして――苛められるのが」
 二本、三本と増えていくそれは、一度ぎりぎりまで引き抜かれ、また容赦なく私を突き上げた。まるで月の熱い昂まりのように、何度も何度も、私を犯す。
「あ、あっ! ふぁっ!」
 悲鳴と喘ぎが止まらない。
 ぐちゅっ、くぷ、と、ぬかるみを捏ねる粘ついた音が響く。
「ほら、こんなに悦んでるじゃないか。海砂のここは、ぼくの指を咥え込んで離さない」
 月の指が、私の快楽の芯に突き当たる。そのたびに、私は悲鳴をあげた。
「ちがう、ライト、ライ……ああっ! あーっ!」
 違う。こんなことを望んだわけじゃない。そう、言いたかったのに。
「ほら、いけよ、海砂。指だけで、いきそうなんだろう。いかせてやるよ!」
「だめぇ……っ! ああっ、だめ、もぉ――ライト、もう……っ!!」
 熱い奔流が私を押し流す。
 快楽の頂点へ押し上げられる。
「あぁあ――っ!!」
 そして私は、月の指に貫かれて、最初の絶頂に駈けのぼった。










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