「や……っ。や、やめて下さい、課長……っ」
 か細い、今にも消えそうな声で、由佳は懸命に訴えた。
 こんな蚊の鳴くような声では、この人は止められない。由佳が感じている憤りや苛立ち、不快感を、千分の一でも表せるとは思わない。
 けれどこれ以上、大きな声を出すわけにはいかない。本当は一言だって喋りたくないのだ。
 もしもこの声が、扉の向こうに聞こえてしまったら――。
「どうして?」
 低い位置から、優しいささやきが答える。
 詮史は、まるで由佳に見せつけるように、濡れた口元を手の甲で拭った。
 ブラインドの隙間から西日が細い線になって射し込み、空中で踊る埃をきらきらと光らせている。スチール棚に積み上げられたダンボール箱、ファイルケース。収めきれずに床に置かれた箱もある。床の四隅には薄く埃がつもり、普段ここに出入りする人間がほとんどいないことを示していた。
 第一外商部・資料室。
 埃っぽい空気の中、由佳の秘密がすべて晒されている。
 サーモンピンクのセミタイトスカートはウエスト近くまで捲りあげられ、ストッキングとショーツは膝のあたりまで下げられてしまった。ベストもブラウスも釦が外され、白いブラのレースとリボンが覗いている。
 そしてあらわにされた秘花に、詮史は唇を這わせていた。
 由佳の前にひざまずき、左腕で白い太腿を抱きかかえる。右手は秘花に添えられ、無慈悲にその花びらを押し広げていた。
 くちゅっ……と、濡れた音が響く。
 ほんのかすかな響きのはずなのに、由佳には、まるで世界中にこだまするように聞こえた。
 濡れた粘膜に、熱い舌先が這う。少しざらついた男の舌に過敏な花芽を舐め上げられ、由佳は全身を痙攣させた。
 息が停まりそうな快感が、爪先から一気に込み上げる。
「あ、くぅ――ッ!!」
 思わずこぼれそうになったあえぎ声を、由佳は自分の指を咬み、懸命に押し殺した。
「そんなことをするんじゃない。傷になるだろう」
 詮史が顔をあげた。
 立ち上がり、ふるえる由佳を胸元に抱き寄せる。
「いっ……いやです、課長――!」
 支えてくれる腕を、由佳は振り払おうとした。けれど身体が全然言うことを聞かない。わずかに首を横に振り、詮史の腕に手をかけただけた。むしろそれは、詮史の胸にすがりつくような恰好になってしまった。
 ほのかに、男性用コロンが香る。深くやわらかく、どこかスパイシーな、由佳が馴染んだ詮史の薫りだ。
「そんなに嫌なのか?」
 やわらかな栗色の髪をそっと指先でかきわけ、真っ赤に染まった耳元に唇を寄せて、詮史はささやいた。
 その息づかいにさえ、由佳の身体はみっともないくらいに反応し、ふるえてしまう。
「どうして?」
「だ……だって――。誰かに見られたら……ッ」
 資料室の空気は澱んで、まるで時間も停まっているようだ。けれどたった一枚扉をへだてた向こうでは、今も大勢の人間が忙しく立ち働いている。あと十五分ほどで退社時間にはなるけれど、だからこそ皆が一番気忙しく動き回る時間帯だ。
 ――なのに私、どうしてこんなとこで……!
 今の自分の姿を思い返すだけで、泣きそうになる。
 由佳だって、最初に資料室へ入った時には、まさかこんなことになるなんて予想もしていなかったのだ。
「牧野くん、資料室からド・レーシ社のプレゼンの資料を持ってきて。必要なものはここに書いてあるから」
「はい、課長」
 上司である詮史から命じられ、由佳は何の疑いもなく自分の席を立った。
 埃っぽい資料室の中で、手渡されたメモを見ながら、棚やダンボール箱を一つ一つ確かめていた時。
 音もなく、資料室のドアが開いた。
「課長」
 なにか資料の追加ですか? そう訊ねようとした時にはもう、由佳は詮史の腕の中に抱きすくめられていた。
「な、なにを……!」
「静かに。外に声が聞こえるよ」
 そのささやきに、由佳は思わず抗議の言葉を飲み込んでしまった。
 あれが、いけなかったのだ。今さら思い返してみても、もうどうしようもないが。
 由佳がわずかに躊躇した隙に、詮史はすかさず唇を奪った。いきなり深くくちづけ、熱く蕩ける舌先を由佳の中に忍び込ませる。そして思うがままに、由佳を蹂躙した。
「んっ、ふ、う……っ!」
 スカートがたくし上げられ、ストッキングとショーツがいっしょくたに引き下ろされる。逃げようとしてもがっしりと抱きしめられ、腰を強く密着させられる。さらに、硬い脚が両膝の間に割り込み、脚も閉じられなくなってしまった。
 そしてそこに、詮史の指が這った。
「んーッ!!」
 由佳は懸命に唇を咬んだ。
 詮史の指は、由佳の秘密を全部知っている。どこが感じるのか、どう責められるのが好きか――全部、この指が由佳に教え込んだのだ。
 栗色のやわらかな髪に頬を埋めるようにして、詮史はささやいた。
「ほら……もう濡れてきた」
 そしてさらに残酷に、由佳を愛した。
 由佳を立たせたまま脚を開かせ、わずかにぬめりを帯び始めたそこに、くちづける。
 詮史が触れた部分が、火傷しそうに熱い。じんじんと疼くような快楽が込み上げ、身体中にどろりと重たく溜まっていく。
 やがて透明な蜜があふれ出し、花びらを濡らして、詮史の指や口元にまでしたたり落ちた。
「い、いやです、課長……!」
「どうして?」
 なんて分かり切ったことを、そして意地悪なことを訊くんだろう。
 由佳の目元に悔し涙がにじんだ。
 どうしてこの人は、こんなにも酷い悪戯ばかりするのだろう。わたしの泣き顔を見るのが、そんなに楽しいのだろうか。
 そしてわたしは、どうしてこんな人を恋してしまったのだろう。
「だ……だって――。誰かに見られたら……!」
「大丈夫、鍵はちゃんとかけてある。すぐに済ませるから」
 前髪の貼りついた額、涙のにじむ目元、ほほ、耳もと。優しいキスがついばんでいく。
 熱いからだが押しつけられる。堅苦しいスーツの下で激しく脈打つ、詮史の欲望を感じる。それだけで由佳は気が遠くなりそうだ。
「きみがいつも通りきちんとしていれば、誰にも気づかれないよ」
 半分泣き出しながら、けれど由佳は小さな子供のように首を横に振った。もう、まともな言葉が出てこない。
「そうか。僕に抱かれるのは、そんなに嫌か」
 冷ややかに、詮史が言った。
 今まで由佳を包んでいた詮史の体温が、すっと遠ざかる。
 由佳は顔をあげた。
 ガラスのレンズの向こうから、冷徹な瞳が由佳を見下ろしていた。
「いいだろう。じゃあ、見せてごらん」
 長い指先で由佳の顎を持ち上げ、上向かせる。キスで潤んだその唇に、まるでもう一度キスするみたいに唇を寄せ、詮史はささやいた。
「僕にこうされるのは、嫌なんだろう。僕のような男は嫌いなんだろう? だったら、それを証明してみせるんだ」
「な、なにを、課長――」
「女性の身体は正直だ。嫌いな男に何をされたって、感じるものか。そうだろう?」
 怯えたように見上げる由佳の、その視線の先で、詮史はにやりと笑った。
 そして、
「あっ、はうっ!!」
 由佳は思わず短い悲鳴をあげた。
 いきなり、長い指が濡れそぼる泉に突き入れられた。
「んく……っ、ん、う……ふぁ……っ!」
 じわじわとにじんでくる蜜をさらに奥から掻き出すように、詮史の指が由佳の中でうごめく。一本、二本――容赦なくその数を増やされる。
 由佳は思わず、詮史にすがりついた。背広の硬い生地を握りしめ、自分からその胸元にほほを寄せる。
 そうやって詮史にしがみついていなければ、もう立っていられない。
「どうしたんだ?」
 真っ赤に染まった耳元に口づけ、詮史は残酷に笑った。
「僕にこうされるのは、嫌なんだろう? それにしてはずいぶん気持ちよさそうじゃないか」
「や……っ、か、課長……っ」
「それともきみは、誰が相手でもこんなに淫らに感じるのか? 大嫌いな男にレイプされても、そうやって腰を振って、悦がって見せるんだろう!?」
「ち、ちが……っ。――ひ、いぃっ!」
 二本の指が、根元まで深々と埋め込まれた。その硬い異物感に慣れるひまもなく、それが引き抜かれる。また突き入れられる。そのリズムが、どんどん速く激しくなっていく。
「ひっ、あ、や――いやっ、やめ……ああっ!!」
 ただれるような快楽が由佳の全身を押し包んだ。
「嫌ならちゃんと拒んでごらん。そんなに気持ちよさそうな顔をしてたら、とても嫌がっているようには見えない。僕も、止めてやるわけにはいかないな」
「そ、んな……っ。ち、ちがぅ、わたし……っ」
「どこが違うんだ? ほら、きみのここはこんなに悦んで、僕の指に絡みついて離れない」
 さらにもう一方の手が、由佳の秘密に侵入する。濡れた花びらをかきわけ、その奥に隠れた快楽の真珠を容赦なく摘み取る。下から転がし、押し潰す。爪をたてる。
 真っ白い稲妻みたいな衝撃が、由佳の全身を打ちのめす。鋭い絶頂の予感が何度も背筋を走り抜けていく。
「ほら、言ってごらん? 僕が欲しいんだろう? いつもみたいにおねだりしてごらん?」
「い、いや……っ!! いやぁ、あ、あきふみ、さ……ッ!!」
「課長、だ。社内ではきちんとけじめをつけなさい」
 がくがくと膝がふるえ、まったく力が入らない。詮史が何を言っているのかさえ、わからない。感じ取れるのはもう、詮史から無理やり与えられるこの悦びだけだった。
「ほら、しっかり立っているんだ」
 崩れそうになる由佳の身体を、詮史は冷酷に引きずりあげた。後ろを向かせ、背後にあったスチール棚につかまらせる。
 そして背中から由佳を抱きしめ、一気に貫いた。
「――――ッ!!」
 ほとばしりそうになった悲鳴は、詮史の大きな手が押さえつける。
 突き上げられる衝撃、苦痛、そしてそれをはるかに越える煮えたぎるような快楽。身体中すべてが、詮史の熱で埋め尽くされていく。
 詮史を受け入れた秘花がひくひくと痙攣し、うごめく。もっと奥へ、もっと強く、とすがりつくように。
「く、う……由佳っ!」
 耳元にこだまする、詮史の熱くかすれた声。
「あっ、あ……あきふみ、さん……っ!」
 唇を覆う手がわずかにずれると、由佳は懸命に詮史の名前を呼んだ。
「あきふみさんっ、好き……っ! 好き、あなたが……あっ、あ、ん――ああっ!」
 けれど詮史は、まるで憤りを堪えるようにきつく眉を寄せた。それは、一瞬の後悔にも似ていた。
 由佳の首をねじ曲げるようにして、詮史は無理やり唇を重ねる。由佳の何もかもを奪い尽くして、それでもまだ足りない、もっと欲しいと言うように。
 激しい律動が始まった。
「んっ、んぅ――んーっ!!」
 目の前が真っ白にスパークし、由佳の最後の意識のかけらが吹き飛ばされていった。


「今日はこのまま残業してくれ。いいね」
 ぐったりと座り込み、立つこともできない由佳に、詮史は冷たく言った。
 いつの間にか就業時間は過ぎていた。窓からの西日もなくなり、扉の向こうでは、家路に向かうのか、人々が忙しなく動き回る気配がしている。
 そんな物音を、由佳はまるでどこか別の世界のもののように、遠く聞いていた。
「課内の連中がみんな出ていったら、迎えにくる。それまでここで大人しくしているといい。――大丈夫、きみが席に戻らなくても、誰も気づきやしない。うちは大所帯だからな。制服姿の女の子の一人や二人、誰も意識して数えたりしないさ」
 自分だけ衣服を整え、詮史は一人、資料室を出て行こうとした。
 扉を開け、最後に確認するように、由佳を振り返る。
「その時に見せてもらう。……きみの言った言葉が、真実
(ほんとう)かどうか」
 やがて扉が静かに閉まる。
 資料室はもとどおり、人の気配のない、澱んだ空気に満たされた。
 ……永い夜になってしまいそう。
 鈍色にかすむ意識の中、由佳はふとそう思った。
【お題 6 ・ じゃあ見せてごらん】
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