「いや。いやだ、こんなの……」
わたしは不自由な状態で身を捩った。
両手は頭の上でひとつに括られてしまった。わたしの手をドアノヴに縛りつけているのは、わたし自身が着けていた制服のリボンタイ。柔らかなサテンのリボンでも、もがくたびに少しずつ手首を締めつけ、皮膚に食い込んでくる。
「ほら、暴れるとよけい痛いよ」
そう言いながら、リョーマ君はそっとわたしの頬に触れた。
床に両脚を投げ出して座り込んだわたしの前に片膝をつき、ハンサムな顔をすぅっと寄せてくる。まるでキスをする時みたいに。
その手には、真新しい白い包帯。部室に備え付けの救急箱から取り出したものだ。
リョーマ君はそれをゆっくりとわたしの顔に巻き付けた。――わたしの、両眼
(りょうめ)
の上に。
「や、あ……いやぁ……。なにするの、リョーマ君。こ、こんな……!」
「大丈夫。痛くしないから」
リョーマ君は器用に包帯を巻いてしまうと、わたしの後頭部で固定した。
柔らかい医療用のコットンは、わたしの皮膚にふんわりと触れているだけで、痛くもきつくもない。けれどわたしの視界は真っ白な布に完全に覆われてしまった。まるで繭の中にくるみ込まれてしまったみたいに。
リョーマ君の指先が、頬にそっと触れてくる。
どの指だろう、一本だけで、本当に触れるか触れないかの柔らかさで、すうっとわたしの頬を撫でる。
「あ、や……ッ」
たったそれだけで、わたしの身体はびくッと大きくふるえてしまう。
リョーマ君はすぐそばにいる。わたしの目の前に。聴覚も触覚もそれを告げているのに、眼で見てそれを確認できない。たったそれだけのことが、こんなにも不安だなんて。
「怖い?」
リョーマ君が言った。
その言葉に、わたしは声もなく、小さくうなずく。
怖い――そう、怖い。これから何をされるかと思うと、怖さと……それとは違う何か別のものとが、身体の奥、双つの胸のふくらみのちょうど真ん中あたりから、広がってくる。ざわざわ、ざわざわ、と、薄い皮膚の内側、血管の中を、這いのぼってくる。
「でもさ。俺も桜乃の眼が、キライだから」
そしてリョーマ君は、わたしの両眼にキスをした。
包帯越しにでもはっきりとわかる、彼の唇の熱さ。そしてふるえ。
「どうしてわかっちゃうんだよ。他には誰も気づきもしないのに、桜乃にだけは、俺の隠しておきたいこと、みんな……なんで見えちゃうんだ」
青学のレギュラージャージは、学校のイメージカラーである青が基本。「天頂の青
(ゼニス・ブルー)
」と呼ばれる、真夏の良く晴れた空の青。
でも……リョーマ君に、その色は似合わない。
彼が、本当は胸の中に抱えているひどく熱いもの、常に現状に満足できなくて、餓えたようにその先にあるものを求め続ける貪欲さ。普段はけして彼が他人に見せようとしない、彼の本質。自らと釣り合う好敵手とコートの中で巡り会えた時、その時にだけ、わずかにかいま見せる本当の越前リョーマ。
見る者すべてに畏怖の感情を抱かせずにはおかない、その姿。
それに、爽やかな青い色はあまりにも不似合いだ。
当然のように青学レギュラージャージに袖を通すリョーマ君を、誰も不思議とも何とも思わなかったけれど。
わたしにはその姿が、リョーマ君が無理に自分を狭い枠の中に押し込めているようにしか見えなかった。
「どうしてわかるの?」
キスが降りてくる。瞼から鼻、頬、耳元、そして唇。
「ねえ、どうして? 桜乃は俺じゃないのに、どうして俺のことがわかるの!?」
わかりきっていることを、リョーマ君はわざと尋ねる。
あの時も、そうだった。
初めてリョーマ君とキスをした時。そして、初めて彼の前で服を脱いで、二人、生まれたままの姿で抱き合った時。
「俺のことが好き? ねえ、答えて」
もうとっくに知っているくせに、わたし自身よりも先にわたしの気持ちを知っていたくせに、リョーマ君はそう言って、わたしを焦らした。
「こんなことされても、桜乃は俺が好きだって言うの?」
まるで今にも泣きそうな声だった。キスすることもわたしを抱くことも、みんな自分が犯す惨い罪のような顔をして。
……そうよ。
あなたが好き。
何をされても、どんなにひどいことをされて、傷つけられても、わたしは、あなたが好き。
そんなことはもう、あなたは知りすぎるくらいに知っているくせに。
「好き」
すすり泣くように、わたしは言った。
「好き。リョーマ君、大好き」
同じ言葉をばかみたいに繰り返して。
どんなに言葉を積み重ねたって、リョーマ君はけしてそれを信じてくれないのに。
リョーマ君の唇がゆっくりと下へ滑りおりていく。顎を辿り、喉、リボンタイがなくなった衿元、そしていつの間にかボタンが全部外されてしまったブラウスの胸元へ。
スカートがまくりあげられた。今もしっとりと熱を帯びたまま、玩具を奥深くにくわえ込んだわたしの秘密。リョーマ君の指が小さなランジェリーの上からそこをなぞる。そしてさらに、横からそこへもぐり込む。
「ひゃ、あ……っ!」
そこにあった短いコード。赤外線データを受け取るためのアンテナも兼ねている。そのコードを、リョーマ君は引っ張った。
くぷ、ん――といやらしい音をたてて、わたしの中から小さな丸い玩具が引っ張り出される。
リョーマ君は止まっていた玩具のスイッチを再び入れた。虫の羽音のようなモーター音が、今度はさらに大きくわたしの耳元に響く。
「だから今度は俺が、桜乃の秘密、みんなあばいてやるよ」
細かく振動し続ける玩具が、胸の突起に押しつけられた。
「やぁっ! あ、や、……あああっ!」
過敏な突起はすでにぷつんと硬くなり、熟れた木の実のように紅く染まっている。まるでそこに熱く鋭い牙が突き立てられたようだ。
快感というには、あまりにも鋭すぎる感覚。疼くような痛みさえ感じる。
けれどわたしの身体は、その痛みを気持ちいいと感じている。――リョーマ君が与えてくれる、痛みを。
「いやあっ! そこ、いや、もう――やめてっ! やめてぇ……っ!」
「じゃあどこがいいの? こっち?」
小さな玩具がわたしの身体を這い回る。手の中に握り込んでしまえるほど小さなものなのに、リョーマ君がわずかにそれを動かすだけで、わたしの全身はみっともないくらいにふるえ、跳ね踊る。
わたしの腕を縛るリボンタイも、視界を奪う包帯も、外してもらえない。制服のブラウスは全部はだけられ、その下にあるギンガムチェックのブラも鎖骨の下まで押し上げられた。胸のふくらみもその頂点の紅色の突起も、すべてがリョーマ君の前にさらけ出されている。そしてブラとお揃いの小さなショーツも、彼の手によって引き下ろされてしまった。今は左の足首にかろうじて引っかかっているだけだ。裸になるよりももっと淫らで、羞しい格好。
リョーマ君が今どんな格好をしているのか、わたしにはわからない。彼がどんな表情をしているのか、次に何をしようとしているのかも。そのことがよけいに、わたしの神経を逆撫でし、頭の中まで痺れさせる。
「すごい。ほら、ここ……こんなに濡れてる。もうとろとろだ。教室にいる時からずっとこうだったの?」
リョーマ君が低く嗤う。
パステルピンクの小さな卵は脇腹をくすぐり、汗ばむ太腿の間に降りていくかと思えば、また胸元に戻る。そうしてすっかり硬くなった乳首をまた苛めると、今度はいきなりわたしの秘密にぎゅっと強く押しつけられる。
「くぅんっ!」
「ここ? ここが気持ちいいの?」
先端の丸みが、重なり合うひだをかき分ける。それだけでは足りないと、リョーマ君の指がそこに這う。くちゅ、じゅくっ、と蒸れたようないやらしい音をたてて、デリケートな花弁を左右に押し広げる。わたしの秘密をあばきたてる。
そして。
「あ、あ……あああああっ!!」
そこに隠れていた小さな真珠に、機械仕掛けの振動が押しつけられた。
充血してルビー色に染まり、濡れそぼった快楽の芯に、激しいうねりが容赦なく襲いかかる。
「いっ、いやああっ! だめっ、だ……だめえええっ!!」
がくがくと全身がけいれんした。
電流が走る。真っ白い火花が散る。そこにまるで火がついたみたい。
両腕を戒められた不自由な姿勢のまま、わたしはのたうち回った。腰が浮き上がり、淫らに踊る。逃がすまいとリョーマ君がウエストをつかみ、押さえつけると、今度は両脚が跳ね上がった。彼の腰を挟むように大きく広げられたまま、宙を蹴って爪先まで反り返る。
リョーマ君がわたしの胸元に唇を押し当てた。胸のふくらみを辿り、頂点で揺れる紅色の突起にキスをする。さっきから放っておかれたそこはじんじんと火のように疼き、その愛撫に過敏なくらいに反応した。
「はっ、あ……ああっ!」
彼の硬い手の中に、小さなふくらみは簡単に包み込まれてしまう。少しざらついた手のひらが、やわらかい皮膚を擦る。手のひらのくぼみが、先端の突起を転がす。捏ねるように。
きゅ、と強く吸われ、歯をたてられる。
全身に電流が走り抜けた。
「やあああっ! 痛い、か、噛んじゃ、いやああっ……!」
「うそつき。こんなに悦んでるくせに」
リョーマ君がくくく……と喉の奥で低く、絡みつくように嗤う。
快楽の火花がわたしの身体を真っ白に染めていく。
感じられるのは、もうそこの熱さだけ。他はまったく意識できない。手も足も、まるで失ってしまったみたいに。
「ああぁっ! あ、や、やめて……っ! やめて、リョーマ君、もぉ……もぉ、わたし……っ!!」
「どうしたの? イキそう?」
リョーマ君の低い声。ほくそ笑むように、わたしの耳元でささやく。
「イッちゃうんだ、こんな玩具だけで。やらしいんだな」
まるでわたしをさげすむように。
「ほら、気持ちいい? いいって言ってみて」
「いやぁ……っ。いや、あ……ああんっ! リ、リョーマく……あっ、あ、あーっ!」
玩具が滑る。柔らかな花弁をなぞり、蜜を塗り広げる。わたしを焦らし、いたぶり、さらに追いつめる。
そして再び、振動が快楽の真珠に噛みついた。
「あ――あっ、く……んああああっ……っ!」
その衝撃に、わたしは耐えられなかった。
涙があふれる。包帯が吸い切れなかった雫がその隙間からあふれ、頬へ転がり落ちる。
「い、いくぅ……っ! あ、いっちゃう、もぉ……っ!!」
「イッちゃいなよ、ほら――ほらっ! 好きなだけイカせてあげるからさ!」
「ああああっ! だ、だめ、もう――ああっ! あ、リ、リョ……あっ、あ、いッ――いやあああぁっ!!」
泣きじゃくり、わたしは独りぽっちで絶頂へ駆け昇った。
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