昔から、シンちゃんが羨ましかった。
 マジック伯父様という立派なお父さまのいるシンちゃん。青の一族の後継者として、誰からもその未来を嘱望されていたシンちゃん。強くて、まっすぐで、そこにいるだけでいつの間にか、みんなが彼のまわりに集まってくる。シンちゃんはそんな、おひさまみたいな男の子だった。
 少しでも彼のそばにいたくて、彼に認めてもらいたくて、わたしは彼のあとばかり追いかけていた。できもしないのに男の子たちの遊びに混ざろうとしたり、それで結局は彼らの邪魔ばかりして、とうとう頭にきたシンちゃんに髪をひっぱられていじめられたり。
 ……いつもシンちゃんがわたしの髪をひっぱるのは、この金色の髪が青の一族に特有のものだったから。彼にはそれが、与えられていなかったからだった。
 彼にだって迷いや苦しみがあることを、わたしはずっと、理解していなかった。
 わたしがそれに気づかされたのは、コタローちゃんがいなくなってから。
 幼い弟の幽閉が父の命令によるものだと知ったシンちゃんは、お父さまのマジック総帥にひどく反発した。マジック伯父様はそれを力で抑えつけようとなさり、二人の関係はあっという間に修復不可能なものになってしまった。
 シンちゃんは一切笑わなくなり、黒い瞳にはひどく暗い陰が宿るようになった。敵に対峙しては一切の容赦がなくなり、その無慈悲な戦いぶりはマジック伯父様にそっくりとも、あるいは戦死した私のお父さま、ルーザーのようだともうわさされ、彼とともに戦場に立つ若い下士官たちですら彼を怖れるようになっていた。
 本部に呼び戻されるたびに、シンちゃんはひどく荒れて、誰も手がつけられなくなり――そして、わたしは彼に犯された。
「うるせえッ! ぎゃあぎゃあ騒ぐな!!」
 力ずくで押し倒され、嫌がって暴れると、本気で頬を殴られた。ひとかけらのいたわりも、優しさもない、初めてのSEX。泣いても喚いても、シンちゃんは許してくれなかった。
「おまえ、俺が好きなんだろう!? こうされたかったんじゃねえのか、俺によッ! 望みどおりにしてやるんだから、いいじゃねえか!!」
 彼の言うとおり、わたしはずっとシンちゃんが好きだった。シンちゃんのかたわらにいたかった。でも、けしてこんなことを望んでいるわけじゃなかった。ただ……前のように彼が笑ってくれれば、あのおひさまみたいな笑顔を見ていられれば、それだけで良かったのに。
 からだを二つに引き裂かれるような激痛。力まかせに握り締められた手首には、くっきりと彼の指の痕が青あざになって刻まれた。
 わたしの身体は赤い血を流し、そしてそれでも、彼の暴力を受け入れた。
 それがわたしの――女というものの、からだの仕組みだから。
 わたしの部屋の異変に気づいて高松が駆けつけてきた時には、シンちゃんは、なかば失神して動けないわたしを見捨てて、ひとり部屋を出ていこうとしていた。
 もうろうとする意識が、彼と高松の声とで、つらい現実に引き戻された。
「シンタローさん、あなた、なにを……ッ!」
「うるせえよ。あんたに、俺になにか言える権限があんのかよ、ドクター」
 高松の怒りと狼狽を、シンちゃんは鼻先でせせら笑っていた。
「あんた、まだグンマとやってなかったんだな。あんたがとっくに手ぇつけてると思ってたのによ」
 冷たく醒めた、シンちゃんの声。
 その声を聞いた時、わたしにもわかった。
 シンちゃんはわたしのことなんか、好きじゃない。
 わたしなんて、彼にはただの玩具。一時の憂さ晴らしに、たとえ壊してしまってもかまわない、つまらないおもちゃ。
 愛してなんか、もらえない。
 けれどわたし……なんて、莫迦なんだろう。
 わたしは、シンちゃんではなく、高松を止めてしまった。
「いかないで、高松……」
 シンちゃんが逃げるように立ち去る。それを追おうとした高松を、わたしは呼び止め、しがみついた。
「お願い、誰にも言わないで。言わないで……っ!」
「グンマ様――」
 高松はぼろぼろになったわたしを、強く抱きしめた。わたしの髪にほほを押し当て、まるで高松も泣いているみたいだった。
「傷の……手当てをしましょう」
 わたしのからだを清め、血がにじむ傷の手当てをして、それから高松はアフターピルを処方してくれた。
「服用して四十八時間は安静にしていてください。強い薬です。人によっては、嘔吐や悪寒などの副作用が出る場合がありますから」
 その言葉どおり、わたしは丸一日、激しい吐き気とめまいのため、ベッドから起き上がることもできなかった。
 そして高松は、そのあいだずっと、わたしのそばについていてくれた。
「お眠りなさい、グンマ様。今は、なにも考えずに――。私はずっと、グンマ様のおそばにおりますよ」
 そして目が覚めた時、高松はふだんどまったく変わりなく、わたしにほほえみかけた。
 シンちゃんのことには一言も触れず、ただ、白い小さな錠剤だけをわたしに手渡した。
「毎朝一錠ずつ、忘れずにおのみください。……あなたのからだを護るためです」
 わたしは黙って、その薬を受け取った。
 ……あれからもう、半年近くになる。
 高松は、あの夜のことに、二度と触れようとはしない。誰にもなにも言わず、以前とまったく変わらない態度でわたしに接してくれる。ただ時折り、わたしに触れる時に一瞬ためらいを見せる以外は。
 そして、ピルの服用は、わたしの習慣になっていた。





「いや――いや、やあああっ! 痛い、シンちゃ……い、痛いっ!」
 逞しい腕に爪をたてて、わたしは泣きじゃくった。
「うるせえ、じっとしてろ! 暴れんなッ!!」
 ねじ伏せられ、衣服を引き裂かれ、からだを開かされる。煮えたぎる欲望が、わたしのもっともやわらかい部分に容赦なく突き立てられる。まるでそこから喉元まで、真っ赤に灼けた鉄の杭で串刺しにされたみたいだった。
「や、やめて――ッ。やめて、シンちゃん……っ!」
 床の上に押し倒され、犯される。ベッドに連れていってさえ、もらえない。
 耳元で聞こえる熱い激しい息づかい。シンちゃんの身体は、鋼のように張りつめて、重く、熱い。機械のような律動で、私を容赦なく突き上げる。
 無慈悲に押し開かれるそこが、痛い。内側からぎしぎしと擦られ、熱を持って爛れたように熱い。熔けてしまいそう。
「痛い……っ。い、痛い――シンちゃ、ん……っ」
 すすり泣き、わたしは懸命に訴えた。
「シンちゃん、シ、ん、ちゃ……っ、お願い、も、も少し……優しく、して……っ」
「うるせえ、黙ってろ」
 シンちゃんはただ自分の欲望のまま、わたしを犯す。猛る欲望でわたしを突き上げ、打ち据え、内側から焼き尽くす。
「あっ、あ……い、いや、もう――いやあ、シンちゃあ……んっ!」
「なんだよ、おまえだって感じてんじゃんか。悦いんだろ、おら。濡れてるぜ、ここ――」
 シンちゃんはわたしの腰を持ち上げ、さらに強く突き上げた。
「ひいいぃッ!」
 膝が胸につくくらい深くからだを二つ折りにされ、真上から熱い槍につらぬかれる。シンちゃんは自分の体重をかけ、容赦なくわたしの最奥を抉った。
「ひ、あっ、や……っ! や、あ――もう、苦しい……っ!」
「何言ってんだ。それが悦いんだろ、おまえ! こんなにぐちゅぐちゅにしやがってよ!」
 ――悦くない。
 嬉しいわけ、ない。こんな乱暴なSEX、いや。ただシンちゃんの欲望のまま、意志のない肉の塊のように蹂躙されるだけなんて。
 なのに、わたしのからだは歓んでる。わたしを引き裂く欲望の牙に歓喜し、すがりつき、熱い蜜をこぼしてる。
 こんなに苦しくて、こんなに哀しくて、こんなに痛いのに。
 その苦痛こそがうれしいと、わたしのからだは歓喜している。自分から脚を開き、腰を揺らして、もっと、もっと、とシンちゃんのからだにしがみついてる。
 激しい律動にあわせて、ぐちゅ、じゅちゅっ、といやらしく粘ついた音が響く。わたしの中からあふれだした歓びの蜜が、わたしの皮膚を濡らし、そしてシンちゃんの肌をも汚していく。
「あっ、は、あ、し……シンちゃんっ! シンちゃ、あ――ッ!」
「く、ううっ! も――でるッ!!」
 シンちゃんが短く、吠える。
 そして灼熱の奔流が、わたしの中に叩きつけられた。
「あ――あ、熱い! 熱い、ぃ……ッ」
 全身がびくびくと痙攣した。熱いものがおなかの中に広がり、身体が内側から焼けただれていくみたい。
 それでも、陵辱は終わらない。
 シンちゃんはまるで拷問のように、わたしを責め続けた。
「おら。寝てんじゃねえぞ。一度や二度で勘弁してもらえるとでも思ってんのかよ」
「あ……。い、いや……、もう――あああああッ!!」
 うつ伏せにされ、後ろから犯される。
 ウエストを掴まれ、腰だけを高くシンちゃんの前に捧げるような恰好で。
 一度犯されたそこは、素直に陵辱を受け入れた。
「ああっ! は、あ、あーっ! だ、だめ、いやあああっ!!」
 悲鳴がとまらない。
「どこが悦いんだ。言ってみろよ、グンマ」
 上からのしかかるようにして、耳元に唇を寄せ、シンちゃんがささやく。
「言えよ、グンマ! ここだろ、ここが悦いんじゃねえのかよ、おらあッ!!」
「ひあああッ!!」
 熱く膨れあがった欲望が、ぐりぐりとわたしの最奥を突き上げる。そうやって大きくて熱いのを根元までねじ込まれると、まるでそこから喉まで全部串刺しにされたみたい。シンちゃんが激しく動くたびに、口から心臓が飛び出してしまいそう。
「あああっ! いやあ、もぉ、――だめ、やめてえっ! やめて、シンちゃあんッ!!」
 じゅうたんの上にまるでけものみたいに爪をたて、わたしは泣きわめいた。
 熱い。犯されるそこが、熱くて熱くて、今にも身体中溶け出しそう。身体が勝手に動いてる。容赦なく突き上げてくるシンちゃんに合わせて、腰を高く持ち上げ、淫らなダンスを踊ってる。もっと惨く、もっと激しく犯して欲しいと。
「悦いぜ、グンマ! 俺のにキュウキュウ吸い付いてきて、離れねえ!」
 シンちゃんが嬉しそうに声をあげた。わたしのウエストに強く硬い指を食い込ませ、全身を叩きつけるように、わたしを犯す。抉り、引きずり、また貫く。そのリズムがどんどん早くなってくる。ぐちゃぐちゃとぬかるみをこね回す音、肌と肌がぶつかる高い破裂音も、同じく早く、忙しなくなっていく。
「あっ、あ、や……ああっ! あ、だめ、だめ、あっ、ああっ! ああんっ!」
 もう、意味のある言葉が出てこない。
 稲妻みたいな絶頂感が、二度、三度と駆け抜ける。その間隔がどんどん狭まってくる。
 もう、だめ。もう耐えられない。
「ああ、いや、いくうっ! いく、もお……いっちゃううっ!」
「いけよ! おら、いっちまえよ、この、淫乱!」
 そしてわたしは、死にたいくらいのエクスタシーに昇りつめた。
 絶頂と苦痛のはざまでわたしが失神しかけると、シンちゃんは容赦なくわたしの頬を平手打ちし、怒鳴りつけた。
「寝るな、グンマっ! 誰が寝ていいと言った、起きろ! おら、こっち見ろ、さっきみてえにびいびい泣きわめいてみせろよ! でねえと、俺が面白くねえだろうが!」
 両肩を掴まれ、がくがくと力任せに揺さぶられる。身体を無理やりに引きずり起こされて。
「ゆるして……。もぉ、ゆるして、シンちゃん……っ」
 そうやってわたしは残酷な現実に引き戻され、犯され続けた。
「甘ったれてんじゃねえぞ、グンマ。てめえが俺になにか言えた義理かよ!」
 シンちゃんはわたしの金色の髪を鷲掴みにして、乱暴に引っ張った。床に伏していたわたしは、上半身を無理にのけ反らせるような形になる。
「い、痛い……っ。放して、シン、ちゃ……っ」
 けれどシンちゃんはわたしの髪を握りしめ、放そうとしなかった。さらに強く、自分の頬に擦れるほど近く引き寄せようとする。それはまるで、自分には与えられなかった青の一族の印にすがりつき、乞い求めているかのようだった。
 ……シンちゃん。シンちゃん。つらいの?
 そんなに哀しいの。お父様と仲違いして、コタローちゃんと引き離されて、そんなに淋しいの。
 ひとりぽっちなの?
 だから――だから、こんなにも……。
「思い上がるなよ、グンマ。俺はおまえのことなんざ、何とも思ってねえんだ。おまえはただ、黙って俺の前で足開いてりゃいいんだ!」
 いつか、意識が泥沼の中に沈んでいく。シンちゃんの広い背を抱きしめようとした腕は、床の上に投げ出されたまま、まったく動かなかった。全身が鉛のように重くなり、わたしはもう、自分の意思では指一本動かせい。
 シンちゃんの声も、聞こえなくなっていく。
 痛みも苦しみも感じない。
 やがてわたしが完全に気絶して、撲っても蹴ってもぴくりとも反応しなくなると、ようやくシンちゃんは諦めた。
 床に倒れたままの私を見捨て、無言で部屋を出ていく。……内側から扉を開ける時には、指紋認証は必要ないから。
 シンちゃんはわたしに一瞥もくれなかった。




 どうやってそうやって、意識を失い、倒れていたのだろう。
 わたしはのろのろと身体を起こした。
 全身の汗が冷えてべたつき、とても気持ちが悪い。立ち上がるとくらっとめまいがした。
 必死に足を踏ん張り、バスルームへ向かう。それだけの動作が、身体中の関節がばらばらになりそうなくらい、つらかった。
 熱いシャワーを浴びると、身体のあちこちがひりひりと痛んだ。見ると、うっすらと血のにじむ傷がいっぱい残されている。みんな、シンちゃんが激情にまかせて咬んだり、爪をたてたりした痕。
 ……シンちゃんがわたしにくれるのは、いつもこんな惨い傷痕ばかり。
 両脚のあいだから、どろりと濁ったものが流れ落ちる。わたしの中に残っていた、シンちゃんの欲望の雫。全身に絡みついていたシンちゃんの匂いが、熱いお湯に溶けて流れていく。
 バスルームを出ると、インターフォンを兼ねた内線電話に小さく着信を報せるランプが点滅していた。どうやら扉の外に食事が届けられたらしい。
 でも、食欲なんてまるでない。無理に食べたらきっと吐いてしまう。着信ランプをわたしはそのまま無視した。
 髪のタオルドライもいい加減のまま、ベッドに倒れ込む。
 冷たくやわらかな枕に顔をうずめると、とたんに涙があふれてきた。
 ――嫌い。シンちゃんなんか、大嫌い。
 なのにわたしの身体はどうしえt、彼を受け入れてしまうのだろう。犯されるたびにあんなに喜んで、彼の欲望に蹂躙されるまま、何度も何度も絶頂をきわめて……。
 こんな酷い目に遭わされて、それでもわたしはまだ、心のどこかで信じているのだろうか。
 いつか彼が、もとの彼に戻ってくれるって。
 わたしの大好きなシンちゃんに、おひさまみたいに笑う、あの明るくて優しい男の子に。
 今はもう、夢の中でしか見ることのできない、シンちゃんの笑顔。
 胸の中でそっとその笑顔を抱きしめて、いつかわたしはうとうとと浅い眠りについていた。






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