建物の屋根や廃墟の壊れた窓枠にとまり、おしゃべりスズメどもが噂している。
”ほら、ごらん。あの子だよ”
”まあ、あれがそうなの? ツメが飼ってるっていう、雌狼”
”あきれた、まだてんで子供じゃないの。牙もろくに生え揃ってやしない”
”そうでしょう。なのにツメときたら、そりゃもうずいぶんなご執心で。昼も夜も、あの子を離そうとしないんだよ”
 トオボエは無節操なスズメどもの視線から逃げるように、窓辺を離れた。
”あんな細っこい身体で、よくもまああのツメの相手が勤まるものだね。そのうち犯り殺されちまうんじゃないの?”
”それがねえ、あの子って、あれで見かけに寄らず……”
 あのおしゃべりどもが噂しなくても、ツメが自分のねぐらに小さな雌狼を引き入れたことは、すでに街中に知れ渡っていた。――無論、人間たちを除いて、だが。
 ツメはそれこそ五〇頭、一〇〇頭もの狼を率いていけるだけの強い力を持ちながら、今までずっと単独
(ひとり)で生きてきた。なにかを求めてのことなのか、それとも群れることがそんなに嫌いなのか、と、おしゃべりスズメやカラスどもがよく口さがなく噂しあっていたものだ。
 ――そのツメがようやく、自分の群れを持つ気になったらしい。小さな茶色の雌狼と、つがいになったそうだよ。
 ――いいや、あれは違うね。つがいなんてものじゃない。一時、憂さ晴らしに手元に置いているだけさね。まるで人間みたいにな。でなきゃあのツメが、あんな産毛も抜けきらないような仔狼を相手にするものか。飽きればすぐにでも容赦なく、噛み殺すだろうよ。
 羽根をばたつかせ、ガアガアとうるさく騒ぐカラスどもの声に、トオボエは耳をふさごうとした。
 たしかにあいつらの言うとおりだ。自分たちはつがいなんかじゃない。
 狼は基本的に一夫一婦制だ。ひとたび連れ添う相手をさだめれば、死ぬまで愛する者とともに歩む。犬のような雑婚はしない。
 けれどツメは、トオボエをそのようなつがいの相手とさだめたわけではない。彼自身が言ったとおり、ただの玩具、いつ壊してもかまわない退屈しのぎの道具としてしか見ていない。それは、同胞
(はらから)との絆をなによりも重んじる狼の本能、倫理に背く行動だ。
 カラスどもに言われるまでもなく、トオボエは、ツメが飽きれば自分はいつでも簡単に見捨てられてしまうだろうということを、ちゃんと知っていた。
 そしてトオボエ自身、そんなツメを責めようとはしない。狼の倫理に従うならば、ツメの行為はけして許せるものではないのに。
 雌がより強い雄を求め、つがいとなり、その庇護のもとに入る。それは狼の本能だ。もしも自分の本能がツメを選べと命じていたのなら、トオボエはそれをけして恥じたりはしない。その選択は絶対に間違っていない。
 だがそうではないことは、トオボエ自身の身体がもっとも端的に示している。
 あれから何度も、ツメに抱かれた。けれどトオボエの身体は未だ幼いままだった。
 何も知らなかった身体はツメの思うがままに染め上げられ、絶頂の悦びも知った。だがそれらはすべてツメに無理強いされてのことであり、トオボエ自身が望んだものではない。その証拠に、トオボエの身体はまだ発情の兆しすら見せていなかった。
 もしもトオボエが狼の本能に従ってツメのそばにいるのなら、即座にその身体は発情し、ツメを自分のもとにとどめ置こうとするはずだ。季節が死に絶えたこの世界では、そうしなければ、より強い子孫は遺せない。
 同じく、強い雄が群れを組み、首領としてみなを率いるのも、また本能が命じること。自然の摂理だ。そうやって、強いものがより弱いものを護り、曠野を越えて導いていくのだ。――楽園へ向かって。
 それは、選ばれたものにのみ与えられた使命であり、義務だ。ツメは、誰よりも強く、誇り高くありながら、その使命を放棄している。
 自分たちは今、ともに自然がさだめる摂理に背いている。
 トオボエはゆっくりと、室内を振り返った。
 部屋の隅で、ツメが眠っている。
 室内はもう凍えるような薄暗闇に沈んでいた。
 人工のドームに覆われたシティにも、夜は来る。ドームの向こうの空が暗くなれば、シティ全体も闇に沈む。一晩中街を照らし、暖め続けられるほどのエネルギーが、この街には――いや、人間たちが築いたこの文明社会には、もう残っていないのだ。
 足音を忍ばせて、トオボエはそっとツメのそばに寄った。
 ツメの眠りはいつも浅い。わずかな気配だけで、すぐに眼を醒ましてしまう。
 つねに神経を研ぎ澄まし、張りつめているツメの、短い休息を妨げたくはなかった。
 灰色の闇に溶け込むような、しなやかで強靱な肢体。その中で、胸元の白い大きな傷痕がひときわ眼を惹く。
 胸の傷痕以外にも、ツメの身体には数え切れない傷痕が刻まれている。それは、彼が独りで生き延び、闘い続けてきた時間の長さを示すものだ。
 トオボエには想像もつかないくら長い、長いツメの孤独を。
「ツメ……」
 トオボエは自分でも気づかないうちに、そろそろと手を伸ばし、ツメの傷に触れようとしていた。
 その時。
 金色の眼が、開いた。
「あっ!?」
 まるで火傷でもしたように、トオボエは慌てて手を引っ込める。
「な、なに、ツメ……っ」
「連中が来た」
「え――」
 ツメは身を起こした。暗い戸口へ鋭い視線を向ける。
「あ!」
 トオボエの耳もぴくりと動いた。
 複数の荒っぽい足音が聞こえる。人間たちがここへ駆け上がってきているのだ。
 そして間もなく、数人の若い人間たちが戸口へ姿を現した。
「ツメ。そろそろ列車が入るそうだ」
 若者たちの一人が、ドームの外を顎で示した。
「ああ、わかった」
 ツメは立ち上がった。
 その後ろに隠れるように居たトオボエに、若者たちはみな好奇の視線を向けた。
 トオボエは思わず身を引いた。人間達の視線が届かない暗闇の中へ、隠れようとする。
 彼らの眼に映るのは、アンバーブラウンの毛並みが美しい小さな若い雌狼ではない。琥珀色の瞳をして、手首に銀のブレスレットを飾った小柄な少女だ。ツメが大きな灰色狼ではなく、引き締まった強靱な肉体を持つ精悍な若い男と映るように。
「ツメ……」
 若者たちを引きつれて部屋を出ていこうとしたツメを、トオボエは思わず呼び止めてしまった。
「行くの?」
「ああ」
 ツメが人間たちを襲い、その物資を奪うのは、いうなれば「狩り」だ。世界が病みおとろえ、自然に生きる動物たちが死に絶えようとしている今、狩りの獲物は人間たちくらいしかいない。
 自然の荒野に在れば、狼といえども必要以上の獲物を狩ることはない。自分たちが生きていくのに充分なだけの食べ物が手に入れば、それ以上の命を牙にかけることはしない。
 だがトオボエには、今のツメは必要以上に無謀な襲撃を繰り返しているようにしか思えなかった。それは生きる糧を得るための狩りというより、ただひたすら死地をもとめて死に急いでいるかのようだ。
 傷つき、のたうち、自らの血を流し、一時の安らぎさえ自分に許さずに。彼は、どうしてそんなふうにしか生きられないのだろう。
「俺が戻ってくるまで、ここから出るなよ」
 それだけ言い置くと、ツメはもう振り返りもしなかった。
 ……戻ってきてくれるの? 本当に?
 長く暗い階段を一気に駆け下りていく足音を、トオボエは黙って聴いていた。
 無論、それはツメが人間たちの能力に合わせてやっているからだ。ツメならばこの窓からまっすぐ地上へ飛び降りたって、平気だろう。
 狼の鋭い聴覚は、その足音に混じって、人間たちのひそひそ話までをも聞き分けた。
”マジかよ、あれ……。あれがツメの『女』だって!?”
”うっそー! まだガキじゃん。ツメって、そういう趣味だったのかよ”
 人間たちの好色な好奇心を秘めたささやきは、街のおしゃべりスズメどもとなにも変わらない。
”すっげー。あんな、なーんも知りませーんって顔
(ツラ)してよー、あのツメといったいナニしてんだかなあ”
”ツメだって、今まで一度も、そんな素振りなかったのによ。ツメってさ、どんな女に口説かれてもぜってぇ手ぇ出さなかったんだぜ? 自分にさわらせもしなかったんだから”
「さわらせるわけ……ないじゃん」
 トオボエはぽつりとつぶやいた。
 人間たちが見ているのは、自分たちのいつわりの姿だ。視覚や聴覚はだませても、人の五感の中でもっとも原始的で赤ん坊の頃から発達する触覚は、時としてだませないことがある。目に映ったのは人間でも、手に触れるのは狼の毛並み、ということが往々にして起こってしまうのだ。
 だから自分たちは絶対に、人間たちに手をふれさせることはない。
 狼に触れられるのは、同じ狼だけ。
「……だから、なの?」
 自分にふれようとする手をすべて拒絶し、誰とも体温を分かち合わない日々は、あまりにも孤独で寒い。
 その孤独を埋めるために、ツメは自分をそばに置いているのだろうか。唯一、安心して手をふれられる、同族の狼を。
「ツメ……」
 そっと名前を呼んでも、応えてくれる声はもうどこからも聞こえなかった。





 夜が更け、やがて東の空が白々と明るくなり始めても、ツメは戻ってこなかった。
「どうしたんだろう、ツメ――」
 壊れた窓枠に両手を置いて、トオボエはドームを見上げた。
 ツメはあの向こうへ、街の外へ向かったはずだ。
 たいして離れているわけでもない。ツメならばあっという間に駆け戻ってこられる距離だ。
 なのに、こんなに帰りが遅くなるなんて。
「まさか……なんか、あったのかな」
 あのツメに限って、と思う。けれど胸の奥から次第にどす黒い不安が込み上げ、抑えきれなくなる。
 人間たちは銃を持っている。自分たちもさすがに、銃弾は防ぎきれない。
 そういえば昨夜は、ドームの外で何度か大きな爆発音が響き、閃光がひらめいていた。
「ちょっと、様子見てこようかな。――ちょっと、だけ……」
 ツメは、自分が戻るまでこのねぐらを出るなと言ったけれど。
 足音を忍ばせて、トオボエはそっとねぐらを抜け出した。
 コンクリートの廃墟を一気に駆け下り、人間たちが群れ集う街へと向かう。
 街の雑踏へ出れば、きっとなにか情報が聞けるはずだ。ツメたちの行動が大きな騒ぎになっていれば、人間たちの噂話にものぼっているだろう。人間たちから話が聞けなくとも、目ざとくおしゃべりなスズメやカラスどもは絶対に、ツメの情報を知っているはずだ。
 ひとりきりで街へ出ても、トオボエは恐怖は感じなかった。
 市場の人混み、路地裏、倒壊した建物のそこここに、ツメの匂いが残っている。ここが彼の縄張りであることを示すマーキングだ。
 この匂いを感じている限り、自分はツメの庇護下にある。あのねぐらにいるのも同然だ。
 トオボエは雑踏の中を歩き出した。
 頭上でやかましくさえずるスズメどもや、ゴミをあさるカラスどもの声に耳を傾ける。どこかでツメの名前が聞こえないか、と思う。
 が、望むものはなにも聞こえなかった。
 街にたむろする人間たちの様子も、ふだんとなにも変わらなかった。暗い顔をして寒そうにうつむき、ただ自分たちの日々について愚痴をこぼすばかりだ。大きな事件や事故があった様子はない。
 ツメたちの襲撃は、成功したのだろうか。それとも失敗し、それゆえに箝口令が敷かれているのか。なにもわからない。
「どうしよう……」
 トオボエは立ち止まり、あたりを見回した。
 いっそ、ドームの外まで行ってみようか。そうすればなにかわかるかもしれない。
 街の外へ向かって走りだそうとした、その瞬間。
 トオボエの足が急停止した。
「な……っ」
 トオボエの進路をふさぐように、五、六匹の野良犬がたむろしていた。
 狼ではない。犬だ。
 薄汚く、下卑た笑いを浮かべながら、トオボエを眺めている。
 トオボエは、彼らをよけるように横へ移動した。
 が、野良犬たちはその行く手に、また立ちふさがる。
 トオボエが動けば、犬たちは追ってくる。にやにやと笑いながら、次第にトオボエに近づいてくる。
「な、なんだよ、あんた等! なにすんだよ!」
 ついにトオボエは声をあげた。
「そこ、どけよ! 邪魔するな!!」
 精一杯声を張り上げ、狼としての力をを誇示する。牙を剥き出し、猛々しくうなる。全身の毛が逆立った。
 野良犬どもは、せせら笑う。トオボエの言うことをまともに取り合おうともしない。数を頼みとしているのか、それとも年若く身体も小さな雌狼など、怖れるに足らないと侮っているのか。連中は痩せて、薄汚い体毛もあちこち禿げいるが、身体の大きさはトオボエとあまり変わらない。
 たしかに今の状況では、危険なのはトオボエのほうだった。
 野良犬どもはいつの間にか、トオボエを完全に取り囲んでいた。その包囲網がじりじりとせばまってくる。
「お、おまえら、わかってんのか。ここはツメの縄張りだ!」
「ああ、知ってるさ。あの傷野郎には、仲間がずいぶん食い殺されたからなぁ」
 野良犬が、しゃがれた声であざけるように言った。
「おめぇがあいつのモノだってことも、ちゃあんとわかってるぜ。――頭のてっぺんから爪先まで、あいつの匂いがべったりこびりついてやがるからよぉ」
「な――ッ!」
 犬どもがすぐ間近まで迫ってくる。卑しい笑いを浮かべ、口の端から汚い涎を垂らしながら。饐えた臭いが鼻をついた。トオボエを舐めるように眺めまわすその眼には、はっきりと邪な欲望が浮かんでいた。
「や……やだ、来るなぁッ!!」
 トオボエはぱっと向きを変え、全速力で走り出した。
「待てよ、逃げんなよぉッ!」
 野良犬たちも、トオボエを追って一斉に走り出す。
「逃げなくたっていいじゃねえか! 俺らだって、もともとはおめぇの同胞だぜ! 仲良くしようじゃねえか、なあ!」
「どうせあいつにゃ、さんざん犯らせてんだろうが! 俺らにも犯らせろよ!!」
 街の外れの廃墟まで、トオボエは一気に走った。瓦礫を飛び越え、暗がりへ逃げ込む。
 だが野良犬どもは執拗にトオボエを追い回した。
「逃げ道をふさげ、先回りしろ!」
 彼らはこのあたりの地理を熟知していた。互いに連携し、トオボエの逃げ道をふさぐ。そして獲物をたくみに足場の悪い、走りにくい場所へと誘導していった。
 ただ闇雲に逃げ回るだけのトオボエは、野良犬どもの奸計にはまり、すぐに逃げ場のない袋小路へ追い込まれてしまった。
「……あ!」
 トオボエは立ち止まった。
 気がつけば、目の前は高いコンクリートの壁にふさがれていた。背後からは、野良犬どもの猛々しいうなり声が迫ってくる。逃げ道が、ない。
「手間とらせやがって――!」
 吐き捨てるように、一匹の野良犬が毒づいた。
「こんだけ走り回らされた分、たっぷり礼をしてやらなきゃなあ!」
「ああ。可愛い雌狼ちゃんに、犬の仔を孕ませてやろうぜ。どうせなら俺ら全員分、みんな毛色の違うガキをよぉ!!」
 野良犬どもが近づいてくる。口元は下卑た笑みに歪み、黄色く濁った両眼にはぎらぎらとした欲望が、まるで油膜のように浮かんでいる。
 その薄汚い爪が、トオボエに向かって伸ばされた。
「い……いやあああっ! やだ、さ、さわるなああっ!!」
 肌を引き裂こうとした爪を払いのける。が、すぐに次の爪が、トオボエの毛並みを引き裂いた。
「うわあっ!!」
 汚れて尖った爪が、牙が、先を争うようにトオボエの身体に突き立てられる。激痛が走った。鮮血がほとばしり、乾いた大地にぼたぼたと滴る。血の臭いに、犬どもはさらに昂奮し、猛々しいうなりをあげた。
「きゃああッ!!」
 トオボエの身体が地面の上に引き倒されようとした時。
 一陣の突風が吹き抜けた。
 トオボエにのしかかろうとしていた野良犬が、灰色の旋風にはじき飛ばされる。砂埃をあげ、野良犬の身体は割れた大地に叩きつけられた。
 きゃん、きゃん、とだらしない悲鳴があがる。
 別の犬が横腹を大きく食い裂かれ、どうっと地面に転がった。血まみれの身体は二、三度鈍く痙攣すると、それきりぴくりとも動かなくなった。
「……ツメ!」
 傷ついたトオボエをその背にかばい、ツメが立っていた。
 ツメは、トオボエを見ようともしなかった。野良犬どもを見据え、低く猛々しく、唸る。
 灰色のたてがみが逆立ち、ツメの逞しい身体をさらに大きく見せている。その牙は犬どもの血と膏
(あぶら)に濡れ、喉から胸元の傷跡までが血の朱にべったりと染まっていた。
 獰猛な威嚇の声に、犬どもは後ずさった。落ちつきなくあたりを見回す。だらしなく地に垂れた尻尾は、連中の戦意が完全に喪失している証しだった。
 そしてツメが一声高く吠えると、野良犬どもは一斉に逃亡を図った。仲間の死体、そしてまだかろうじて息のある仲間をも見捨てて。
 犬どもの姿は、埃っぽい風にまぎれて、廃墟の向こうにたちまち消えていった。
「ツメ――!!」
 ふらつく脚で、トオボエは懸命に立ち上がった。
「ツメ、ありがと……。オレ……!」
 ツメのそばへ近づこうとした瞬間。
「きゃあああッ!!」
 凄まじい一撃が、トオボエの身体を吹っ飛ばした。
 小さな身体は、崩れかけたコンクリート壁に激突する。
「なぜ、出てきたッ!」
「ツ、ツメ……」
「俺が戻るまで、ねぐらを出るなと言っておいたはずだ。なぜ、俺の言いつけを破った!!」
 落日の金色をした瞳が、怒りと衝動に煮えたぎって、トオボエをにらみ据える。
 トオボエは思わず後ずさった。コンクリートの壁にすがり、懸命に逃げ道を探す。
「ツメ……。ご、ごめん――ごめんなさい。ごめんなさい、ツメ――ッ!!」





「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、ツメ……ッ!! もう、しないっ!! も、もう……っ、言うこときくから! ツメの言うこと、なんでもきくからぁッ!! もう許してえっ!!」
 暗いねぐらに、トオボエの悲鳴が響いた。
 トオボエはもがいた。牙を剥き、吠える。自分を抑えつけるツメの腕に、力いっぱい噛みつきさえした。けれどどんなに暴れても、ツメの力は小揺るぎもしなかった。
「ゆ、許して、ツメ――いやっ、いやああああッ!!」
 固く冷たいコンクリートの上に這わされ、トオボエは犯された。






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