「ちょうどよろしゅうございました。拙が調合いたしました、胃痛、腹痛に良く効く煎じ薬がございます」
「……本当に効くのか?」
「無論です。篤保さまに試していただこうかと思っていたのですが、ヤマガカシでぽっくり逝ってしまわれたので、記録が採れずに残念でした」
「記録がって……まさか、私で薬効を試すつもりか!?」
「ご心配なく」
 円谷はにんまりと笑った。
「トリは死にませんでした。トリは」
「ト、トリと人間を一緒にするなっ!」
「それじゃあ、牛か馬で試してから……」
「牛や馬で新薬の実験をするのも、禁止だッ! この館の貴重な財産だぞ、死んだらどうする!」
「失敬な。呑ませて死ぬような薬を、拙が調合するとお思いですか」
 円谷は本気で腹を立てたらしい。じろりと了海を見据える。
「せいぜい腹をくだす程度です」
「エラそーに言うなッ!!」
 ……まったく、この館にはまともな侍はいないのか!
 その時、広間の外からひとりの女が顔を出した。地味な小袖に褶
(しびら)をつけ、この館で働く侍女らしい。
「あの、ご陣代さま」
 侍女は広間へは足を踏み入れず、廊下に手をついて深々と頭を下げた。落ち着いているが、きびきびとして隙のない身動きから、武家奉公が長いことが窺える。
「お忙しいところ、失礼いたしまする。ご陣代さまに申し上げたきことがございます」
「なんだ。食事の支度ならまだ良いぞ。茶や白湯もいらん」
「いえ、そうではございません。ご陣代さまは、隆景さまのお血筋をお探しとか――」
 ためらいがちに、侍女は言った。
「いるのか!? 誰か、心当たりがあるのか!」
「は、はい。ただ……」
 侍女は、了海の視線から逃げるように顔を伏せた。了海の剣幕に気圧されたのか、一瞬口ごもる。
「なんだ、早くもうせ。何か問題があるのか。赤ん坊か? それとも病人か!?」
「いえ、お歳は若君柾景さまと同い年、お健やかでらっしゃるはずです。ただ……」
「ただ、なんだ!」
「姫さまでいらっしゃいます」
 侍女は平伏し、必死に訴えた。
「柾景さまは、畜生腹でご誕生でございました。一緒にお生まれになられた妹君は、すぐに館より連れ出され、常光院の庵主さまにあずけられたのでございます」
「姫君……!」
 誰もが息を呑み、広間はしんと水を打ったように静まり返った。
 重苦しい空気が漂う。侍たちはみな、困惑を隠せない表情で互いに顔を見合わせた。
 了海は城代家老を見た。視線で、そんな話を聞いているか、と尋ねる。城代家老はいいや、と首を振って否定した。
 畜生腹の生まれの姫は、重臣たちにも知らされぬほど、その存在自体が厳重に秘されていたらしい。もしかしたら姫自身、自分の出生を知らされていないかもしれない。
 ――譜代の家老すら知らぬ姫。本当なのか、この話?
「おまえはどうしてその姫のことを知っている」
 了海は鋭い声で詰問した。
「お美伊御寮人がご出産されました時、わたしは十三になるやならずの下働きでしたが、人手が足りず産婆の手伝いをしておりました。夜半過ぎに柾景さまが、夜明け近くになって由布姫さまがお生まれになるのを、この手でお助けしたのでございます」
 侍女の声はふるえ、涙がにじんでいる。それは問いつめられる恐怖よりも、不運な姫君への思いかららしい。
「迷信深い産婆は、その場で姫さまを殺すようにと言いました。けれどお殿様と御寮人は、生まれたばかりの我が子を殺すに忍びず、苦肉の策として、誰の目にも触れぬうちに尼寺へおあずけになり、生涯ご対面もなさらなかったのでございます」
「なんと、そのようなことが……」
 年のせいかすっかり涙もろくなった城代は、何の疑いも持たず、もうもらい泣きを始めている。
「お可哀想に、お妹君は今までたったおひとりでお育ちであったのか……。どれほどお淋しく、またご両親が恋しかったであろうのう……。しかしそれで良かったのやもしれぬ。もしもその姫の存在がおおやけになっておれば、篤保どのは姫のお命まで狙ったであろうからな……」
「でも、お姫さまじゃあ、陣頭に立っていただくわけにはいかないっすよねえ」
「かまわん」
 了海は断言した。
「姫君に甲冑を着けていただく必要はない。ただ、武者どもとともに城にこもり、みなを鼓舞してくだされば良いのだ。戦って勝つのは、おまえら侍どもの仕事だ!」



 それから数日後。
 那原に新しい領主が立つと聞き、逃げ出していた家臣たちもちらほらと城下町に戻り始めた。
 が、戻ってきてみれば、屋敷は屋根も床板もひっぺがされ、ひどいところでは庭石まで持ち去られていた。
 その上、屋敷の警備にと残しておいた奴卑どもは、
「おれたちゃあ、今はお屋形さまの小作人だ。てめえ等の指図はうけねえ」
 と、ふんぞりかえっている。
 此花館へ抗議に行けば、くそ生意気な若い坊主が新しい陣代だと名乗り、
「そのほう等が城下の家屋敷を捨てて逃げ出した時点で、安原家との主従の契りは反故
(ほご)になった。それゆえ、安原はそのほう等に何ら恩顧を与えるつもりはない。もし安原の庇護が必要ならば、あらたに新参者として召し抱えてつかわす」
 なんぞとぬかした。
「新参者の定めは知っておろうな? まずは所領も配下の足軽もなし。そのほうの槍一本で手柄をたててみせよ。そうしてお屋形さまのお目に留まれば、出世の道も拓けてこよう」
「こ、この若造が……ッ! そうだ、その顔に見覚えがあるぞ。夏目時景のせがれであろうが! 昔、お館に弓引いて討たれた、あの大たわけの顔に生き写しじゃ!」
 指をさし、恥ずべき出自をぶちまけてやっても、若い坊主は平然としていた。
「きさま、そこをどけ! そこは、儂のような那原譜代の重鎮のみがあがって良い、評定の広間だ! きさまのような汚らわしい男が座っていて良い場所ではないぞ! 父に倣って、またこの那原に仇なすつもりか!」
「那原に仇をなしているのは、どちらだ!!」
 反対に謀反人の小せがれは、反対にでかい声で恫喝してきた。
「そのほうらはもはや、那原とは縁もゆかりもない。なのに何ゆえ、大きなつらをしてこの此花館に出入りをしておるか!」
 立ち上がると、鴨居に頭がぶつかりそうなくらい、上背がある。いくら墨染めの坊主姿とはいえ、それだけでかい奴に頭の上から睨まれると、ついつい腰が引けてしまう。
 その上、意を決して刀に手をかけると、今度は庭から薪の木ぎれが次々に飛んできた。
「だ、誰だ!」
 振り返ると、鍬だの鋤だの竹槍だの手にした奴卑――いや、お屋形さまの小作人どもが、血走った目をして睨んでいる。
 小作人連中は殺気立った表情で、じりじりと詰め寄ってきた。
「こら。館の中で暴れるな。せっかく修繕したところがまた壊れる」
 墨染めの衣を着た陣代は、白々しく言った。
「やるなら館の外へ引きずり出せ。この広間の床板も、張り替えたばかりなんだ。血で汚すな」
 那原を捨てて保身を図っていた侍たちは、今度は身ぐるみ剥がれて下帯ひとつの恰好にされ、自分の所領を文字通り叩き出されることとなった。
「お、覚えておれ! 必ずきさまを追い出してやるぞ! 儂は、那原の重鎮だった男なのからな!!」
 最後の脅し文句さえ、くそ坊主はあくびしながらどこ吹く風と聞き流していた。
「ちょうど良かった。さっきの武将と供侍が置いていったから、具足が三領も手に入ったぞ」
「置いてったんじゃねえでしょう、ご陣代。ありゃ、ぶん奪ったって言うんですよ」
「なんでもいい。足軽に志願している連中にくばってやれ」
 了海は喜々として、逃げていった武将が残した刀や槍を調べ始めた。刀は名のある業物ではないが、大振りで拵えも重厚、武器として充分に役立つ。
「うん、なかなかいい打刀
(うちがたな)だ。これは私の指料(さしりょう)にもらっておくか」
「刀なんてお使いになるんですか? ご陣代」
「まあな。槍も弓も長刀も、ひととおりは稽古している。今はどこの寺にも僧兵がいるし、こんなご時世だ、坊主といえども自分の身は自分で守らねばならんからな」
「へえ、大変なもんですね。寺に入ったら、念仏さえ唱えてりゃいいのかと思ってた」
 八郎太は小さく感嘆の声をもらした。
「でも、いいんですかい? せっかく侍たちが戻ってきたってのに、あんなふうに追い出しちまって」
「私は選択の余地を与えたぞ。新参者で良いなら、また召し抱えてやるとな。それを断ったのは、あいつ等のほうだ」
 了海は平然と言い切った。
 恨まれようが憎まれようが、かまうものか。一度裏切った連中に罰を与えるのは当然だ。
 罰も与えずにナアナアで許してしまったら、裏切りの甘露を知っている者は必ずまた裏切る。自らの行動を反省し、罪を認めてどんな罰でも受けますと言う者だけが、ふたたび信じられるのだ。
 まして、一度城を棄てて逃げ出したくせに、何の反省も努力もないまま、ぬけぬけと元の地位を要求する者など、誰が信用できるものか。
 けれど、あの武士どもの棄て科白も、また事実だ。了海は暗い目をして、自分の手を見つめた。
 謀反人の子である自分がこのまま那原の中枢に居座れば、それはまた新たな謀反の口実になりかねない。君側の奸
(くんそくのかん)を討つという口実で軍を興し、了海を殺して安原家の領主を傀儡に祭り上げ、あわよくば那原を自分のものにと思う奴が、必ず出てくる。
 那原を狙う者どもに、どんな口実も与えてはならない。
 そのためにも、自分はこの戦が終わればすぐにも那原を去らねばならないだろう。
 その覚悟は、できている。
 けれどかたわらで人なつっこく笑う八郎太や、館の内外で一生懸命に働いている小作人たちを見ると、どうしてもその決意が揺らいでしまいそうになる。
 戦の後、自分がすぐに那原を立ち去ったら、彼らはまた見捨てられたと思ってしまうのだろうか。
 ――いいや、俺は鬼だ。那原を守るため、護国の鬼になると誓ったはずだ。
 鬼ならば、人恋しさや仲間内の優しさなど、持ってはならない。
 自分が那原を去る時は、鬼がようやく出ていってくれたと領民達がお祭り騒ぎをするようでなければならないのだ。
 鬼ならば、味方に厳しく、敵に一切の容赦なく、そしてなによりも、おのれ自身にもっとも酷く厳しくあるべきなのだ。



 そして間もなく、那原の新しい陣代は、顔はきれいだが三途の川の奪衣婆
(だつえば)のように強欲だとうわさが立った。
 そのうわさはやがてさらに尾鰭がついて、那原の新しい陣代は地獄の鬼のようだと、近隣の領国にまでくまなく広がることとなる。





    二、  龍女が仏に成ることは

 翌日、了海は朝早く此花館を発ち、領国の西の外れにある尼寺を目指すことにした。
 同時に鶴たち素破を使って、那原中にうわさをばらまかせる。
 ――亡き隆景さまの姫君が見つかった。お父君の遺志を継ぎ、那原の領主になられるそうだ。
 ――お育ちになった尼寺を出て、此花館に入られるらしい。
 ――それはそれはお美しい、天女のような姫君だそうだ。
 新しい領主が立つと知れ渡れば、逃げていた農民たちも戻ってくるだろう。しかもその人物がが隆景の忘れ形見の姫君だと知れば、彼らの期待も高まるに違いない。
 だが、姫の名や育った尼寺の所在などはまだ秘密にしている。こうして情報を小出しにすることで人々の好奇心をあおるのだ。
 姫のことを少しでも知りたいと思う人々はうわさ話に夢中になり、さらに尾ひれがついた姫のうわさが広がるのを加速させることだろう。
 ――天女だ。那原に天女が降り立つぞ。
 領内にくまなくうわさが広まるまでにはまだ数日の時間が必要だろうが、その前に姫君を館に迎えてしまいたい。
 姫の存在が領内に知れ渡れば、敵にも同じ情報を与えることになる。
 新しい領主が立つのを指をくわえて見ているほど、桑原の間部は――いや、どこの領主でも甘くはないだろう。かならず妨害しようするはずだ。最悪の場合には、由布姫の命を狙うかもしれない。
 ……俺なら、そうする。
 城に新しい旗頭が誕生し、それを中心に家臣、領民の心がひとつにまとまること。敵から見れば、それは絶対に阻止したい。
 一番手っ取り早いのは、新しい領主を殺してしまうことだ。
 そうやって那原の領主になろうとする者を次々に殺害していけば、しまいには領主に立とうという人間自体がいなくなるだろう。領民の心にも恐怖が植え付けられ、戦う前から勝敗が決する。
 ――さて、俺ならどうするか。どうやって姫の命を狙う?
 あからさまに隣国の領主が襲撃したとわかるのは、まずい。そんな非道をやる領主には徹底抗戦だと、かえって那原の民の心を奮い立たせることにもなりかねない。
 それよりは、野伏
(のぶせり)などの野盗に襲われたように見せかけるか、さもなければ城内の誰かを買収し、こっそり毒殺させて、死んだ前の領主の祟りだなどとうわさを流すか……。怨霊話をでっちあげたほうが、あとあと便利かもしれない。この血なまぐさい乱世の時代、人々は神の救いも仏の慈悲も当てにしなくなっているが、それでも祟りや怨霊を怖れ、古い迷信を信じている。由布姫が畜生腹とさげすまれ、生まれてすぐに家族から引き離されたのも、そのせいだ。
 いったん祟りの話が広まれば、次から次へと那原の領主を暗殺しても、他国の者が疑われることも減るだろうから……
 と、そこまで考えて、了海はふと深い自己嫌悪に囚われた。
 ――これが、仏門にある者の考えることか。
 どうして俺はこんなにも、人を騙したり蹴落としたりすることを考えると、いつもやたらと頭が回るんだ……。
「どうかしたんですかい、ご陣代。そろそろ出発しねえと、遅くなりますよ」
「あ、ああ。そうだな。急ごう」
 八郎太に声をかけられ、了海はひとつため息をつき、立ち上がった。
「でもいいんですかい? 家移りなのに、吉日も占わねえで」
「そんなことにかまってられるか。この忙しいのに……あ、いや! 違う。今日が吉日だからだ! 姫さまの家移りにふさわしい佳き日だと、私の占いにそう出たのだ」
「ご陣代の占いぃ?」
 八郎太はひどく疑わしそうに、了海を見上げた。
「なんだ。私が卜占
(ぼくせん)をやっちゃおかしいか」
「いーえ、別に。坊さんと占いはつきもんですからねえ」
 だがその顔には、まるで説得力がありませんとはっきり書いてあった。
 そして了海は、空の輿を従えて常光院へ向かった。
 この輿は壊れて倉の隅に放り出してあったのを、昨夜、あわてて修復したものだ。元はお美伊御寮人の嫁入りの時に使われたものらしい。担ぎ手の男たちも何とかかき集めた。
 了海自身は騎馬で、供侍として八郎太を連れて行く。
「やれやれ。今度ァ馬の口取りか。ほんとにおれ、何でも屋だなあ」
「うるさい。文句を言うな」
 漆黒の毛並みのこの馬は、農民らしい男が館に売りに来たのを、値切りに値切って買い取ったものだ。どこかの戦場から逃げ出したものを捕まえ、売りに来たらしい。馬の後ろ足に押してあった所有者の焼き印は、上から薪か炭を押し当てて、焼き潰してあった。
 重い馬装をつけても嫌がらないし、大勢の人の声にも怯えない。よく訓練された軍馬だ。
 紫を基調にした壮麗な馬装は、城代家老がとっておきのものを出してきてくれた。
「けっこうです。私も歩きますから」
「なにを言うか。主家の姫君をお迎えするのに、騎馬武者がひとりもおらんのでは、恰好がつかん。おぬしは馬で行け」
 ――だから俺は、武士じゃない!
 こんな大袈裟な恰好は、好きじゃない。だいたい坊主の袈裟姿でそんな派手な馬に乗るなんて、あまりにもちぐはくだ。
 が、了海の反論は黙殺され、騎馬で行くことにされてしまった。
 輿のそばには、由布姫のことを進言したあの侍女――さわがつき従っていた。
 ほかに警護の侍――と言っても、中身は農民たちの中からあわててかき集めた者ばかりだ――を一〇人ほど連れていく。
 那原に入り込んだ敵国の間諜は、すでに由布姫のことを嗅ぎつけているだろう。たとえ形だけでも、できる限りの警護を整えておく必要があった。
 そしてさっさと、まるで戦の進軍のように行列を進めること、一刻あまり。
 山の中腹に建つ尼寺は、想像していたよりもずっと小さく、質素だった。
 この寺に暮らす尼たちのほとんどは、戦乱で夫や子供を亡くした者のようだ。みな足音もさせずにひっそりと歩き、話し声もほとんど聞こえない。
 うら若い姫君が暮らすには、あまりにも淋しい環境だ。
 昨夜のうちに使者を送り、寺をまとめる庵主にはだいたいの事情を知らせてはおいた。
 庵主にとっても、見捨てられた姫君がお屋形さまに出世するのは喜ばしいことだろう。姫を寺から連れ出すのに反対するとは思えない。
 ――まあ、尼さんたちがゴネようが、かまわず連れ出すけどな。
 昨日の今日で由布姫を慌ただしく此花館へ移そうとするのも、そのためだ。突然のことで、みな何がなんだかわからずおたおたしているうちに、こちらの望むとおりにことを進めてしまおうというわけだ。
 とにかくこちらには、手持ちの札はほとんどないのだ。使えるものは何でも使うしかない。
 そんな了海の考えがばれてしまったとは思えないが、尼寺の対応はひどくよそよそしかった。女の寺ということを理由に、境内に立ち入りを許されたのは了海ひとりきり、八郎太など供回りの者たちは、みな山門の外で待たされることになった。
 そして了海が本堂に通されると、あちこちから冷たい視線が向けられる。物陰に隠れて、尼さんたちがじろじろ見ているらしい。
 いくら男子禁制の尼寺とはいえ、姿も見せずに観察するという警戒ぶりは、さすがに気分が悪い。
 そして、本尊の前で初めて対面した主家の姫君は。
 ――まだ、てんで子供じゃないか……!
 了海は思わず言葉をなくした。
 尼寺の書院で、了海の目の前に座った姫君は、こぢんまりとしてどこか不安げで、十五という年令よりも幼く見えた。
 着ている小袖も粗末なもので、そこらの町人の娘と大差ない。髪には飾りもなく、膝の上でにぎりしめた小さな手にもあかぎれができていて、とても痛々しい。
 ――いいのか? こんな子供を一国一城の主に据えるなんて。
 いくら飾り物の領主とはいえ、それなりに責任はともなう。そして万一戦に敗れた時は、幼い少女であってもお屋形さまと呼ばれるかぎり、そのつぐないは己の命でしなければならないのだ。
 けれど今、それをこの少女に説明するわけにはいかない。
「お覚悟を、姫御前」
 脅しともとれる了海の言葉に、少女は怯えた表情を必死で押し隠し、うなずいた。





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