SCENE 1  依里――六月一八日



「へえ、けっこう美人じゃん」
 突然、耳に飛び込んできた声に、依里
(えり)はふと顔をあげた。
 街角のオープンテラスカフェ。梅雨明け間近の夕暮れ、冷たいアイスカフェオレはおいしいけれど、蒸し暑い空気が全身を包み込むように渦巻いて、あまり長居したい場所ではない。
 それでもウッドデッキに並べられた客席は、七割ほど埋まっていた。冷房の効いた店内はカウンターまで満席だ。
 仕事帰りのOLやサラリーマン、買い物客、あるいは学生。みな、駅から聞こえる喧噪や自動車の排気音に負けまいと、やや会話する声も大きめだ。
 そんな見知らぬ人々の声が偶然耳に入ったのだろうか。
 依里はさっと周囲を見回した。
 見覚えのある顔はひとつもない。ここで逢おうと約束した人は、まだ来ていないのだ。
 ――そうよね。まだ、来るわけないか。
 ふうっとひとつ小さく、ため息をつく。
 ついさきほど、彼からメールが届いたばかりだ。約束より遅れそうだ、できるだけ急ぐからすまないがもう少し、教えた席で待っていてくれ、と。
 指定された店は、彼の会社の最寄り駅からすぐのところだった。改札を抜けると、オープンテラスがすぐに見えるのだ。
 彼からのメールは、了解、このまま待っているわと返事を出したあとも、優しげな口調が嬉しくて、まだ削除せずに携帯の中にとっておいてある。
 彼に逢ったら言おうかと思っていた。このメール、声に出して読んでくれない? だってあなたの声が好きだから、と。
 ルージュにいろどられた唇に、かすかにほほえみが浮かんだ。
 ほっそりした面差しが、夕暮れのあかね色の中にほの白く浮かび上がる。肩をすぎるくらいのセミロングは、この時季には少しうっとうしい。
 オフホワイトのサマーニットとサンドベージュのタイトスカートは、均整の取れたプロポーションをすっきりと浮かび上がらせている。OLの普段着としてはごくプレーンなものだろう。その分、デートのファッションとしてはいささか地味だ。こんなふうに突然呼び出されるのがわかっていたら、もう少しお洒落していたのに、と思う。
 まだ聞こえる声を無視して、依里はまた読みかけの文庫に目を落とした。
「あれ、シカト?」
 視線が活字から離れた。
 その言葉は間違いなく、依里に向けられていた。
「あんた、ここで男と待ち合わせしてんでしょ? メールで指定されたよね、駅前のサ店、オープンテラスの一番右奥の席で待っててくれってさ」
 依里は顔をあげた。ばたんと文庫を閉じる。
「ねえ、ヘンだと思わなかった? 待ち合わせの店だけじゃなく、座る席まで指定されるなんてさ。相手の顔はわかってんだから、店ん中のどこに座ってたって、すぐに見つけられるはずなのにさ」
「だ……誰、あなた――」
 依里が座るテーブル席のそばに、背の高い見知らぬ少年が立っていた。
 高校生だろうか、白い開襟シャツにチェックの入った薄いグレーのスラックス。やや長く伸ばし、耳元にかかる黒髪はひどく硬そうで、触れたらしゃきしゃきと音が聞こえそうだ。
 とおった鼻筋、まだ細く、ナイフで刻んだみたいに鋭い顎のライン。見る者を惹きつける容貌は、子供じみた生意気さと意志の強さ、そしてこの年頃特有の不安定さとが入り交じっている。
 髪と同じ漆黒の瞳が、真っ直ぐに依里を見おろしていた。
「ついさっきもさ、あんた、メール受け取ったよね? 待ち合わせに少し遅れるけど、約束した席でもうちょっと待っててくれって。そのメールに、あんたは了解、このまま待ってるわって、返事出したよね」
「な、なんで……」
 なんでそれを知ってるの、という言葉が出てこない。
 ――いったい、誰だろう。なぜ私のことを知っているのだろう。
 驚きというより、怖い。気味が悪い。耳の奥で、どく、どく、と、激しい鼓動がこだまする。
「ごめん。親父は来ないよ」
「えっ!?」
「そのメール送ったの、俺。――俺、石和駿
(いさわ しゅん)。石和敏之(としゆき)の息子」
「石和さんの……っ!?」
 石和敏之。それはたしかに依里が待っている相手の名前だった。
 会社の取引先として顔を合わせ、数回の商談や接待、打ち合わせを繰り返すうちに、次第に親しくなっていった男性。年齢は依里よりずっと上で、むしろ父親に近い。妻帯者であることも、知っていた。
 少年はスラックスのポケットからメタルシルバーの携帯電話を取り出した。
 何の変哲もない、銀色の携帯電話。が、そのストラップに、依里は見覚えがあった。
 ビニール製のひもがリングになっただけのそれは、社名とロゴマークが印刷されただけの、販促グッズとも呼べないようなシンプルなものだ。高校生が喜んで自分の携帯に飾るようなものではない。
 折り畳まれた携帯をぱかっと開くと、その画面には、依里が送ったばかりのメールが全文表示されていた。
「俺の携帯も、これと色とか形とか似てんだよ。機種は違うけど。だから、ストラップ全部はずして、親父のとすり替えたんだ。今日一日、親父は俺の携帯持ち歩いてたわけ。そんで、俺は親父の携帯からあんたにメール送ったんだよ」
「な、なんで……。なんで、そんなこと――っ!」
 声がかすれ、ほとんど音にならない。依里はただ、ひくひくと唇をふるわせた。
 頭の中は真っ白だ。目の前の状況がまったく理解できない。
 自分はこの店で、交際中の男性と待ち合わせをしていたはずだ。
 このことを知っているのはお互いだけ。秘密を守り、それぞれの生活や人生を尊重しながら、一時の安らぎをわかちあう。暗黙のルールに守られた、大人の付き合いだ。……そういうことだったはずだ。
 ――なのに、これはいったいどういうこと?
 待っていた相手ではなく、いきなり相手の家族、それも息子が出てくるなんて。
 ルール違反だ、こんなこと。あり得ない。
 妻でも、仲裁好きのおせっかいな知人でもなく、息子だなんて。大人の問題に子供を巻き込むなんて、一番みっともないことなのに。
 だいたい、この高校生が本当に彼の息子かどうかなんて、誰にもわからない。
 ――嘘よ、こんなの。嘘。きっと、なにかの間違いで……。
「ねえ。ここ、暑くね?」
 茫然として声もない依里に、少年――駿は、まるっきりあたりまえの顔をして、言った。
「暑いよね、エリさんもさ」
「ど、どうして私の名前、知ってるの!?」
「メアド」
 駿は、ふたたび依里の目の前に父親の携帯電話を突き出した。
「携帯のメモリに、親父、あんたのアドレス、男の名前で登録してんだよ。並川英一ってさ。なのによく見たらアドレスがERIで始まってっから、ぜってーコレが不倫相手だと思ってさ。笑っちゃうよな、もうバレバレ」
「そんな……っ!!」
 依里は危うく、椅子を蹴って立ち上がりそうになってしまった。
 胸の奥から、ぞうッと冷たいものがこみあげる。
 彼の息子が知っていることは、彼の妻も、すでに夫の秘密に気づいているということだろうか。
 最悪の状況が、一瞬、依里の脳裏をよぎった。
 ヒステリックにわめきながら、若い女につかみかかろうとする中年の女。悲鳴をあげ、それでも中年の女をののしる、若いけばけばしい女。途方に暮れるだけの男。安っぽいテレビドラマでよく見かける光景だ。こんな無様なことにだけはなるまいと、見かけるたびにいつも思っていた。
 けれどその最悪の状況に陥ってしまったのだろうか。あんなに気をつけて、お互い、絶対に周囲に気づかれないようにしてきたのに。
 一度ばれてしまったら、もう後戻りはできない。やがて依里を取り巻く人々の目も、白く冷たくなるだろう。そのうち陰湿な噂がばらまかれて――。
「安心してよ。おふくろはまだ知らねえから」
「えっ?」
「疑ってはいるけどね。こっそり親父の携帯、チェックしてたし。でもまだ、あんたの個人情報にはたどり着いてないと思う。親父、受信したメールは全部削除してたし、メモリには暗証番号でロックかけてたから」
 その説明に、依里は思わず小さくため息をついていた。
「だったら……きみは、どうしてわかったの?」
 駿はからかうように小さく肩をすくめて見せた。
「ロック解除できたから。おふくろも、誕生日とか電話番号とかは試してみたと思うけどね。親父もけっこうヒネッた数字にしてたんだよ。何の日付だったと思う? ――前にうちで飼ってた犬の命日」
 親父なりに一生懸命考えたんだと思うけどね、と、少年は苦笑した。
 その顔が、どきっとするくらい、父親に似ている。
 ――たしかに石和さんの息子だわ。
 依里は、今さらながらにそう思った。
 だからと言って、状況が少しでも好転するとは思えなかったが。
 できることなら今すぐに、彼を突き飛ばしてこの店から逃げ出したいくらいだ。
「ねえ。ここ、出ようよ」
 まるで依里の思いを見透かしたように、駿が言った。
「遠くからでもあんたを見られるように、こんなオープンテラスの店、指定したけどさ。やっぱ、あッちぃや」
 駿は開襟シャツの襟元をばたばたさせた。そしてテーブルの上にあった伝票をつかむ。
「え……っ。な、なに――?」
「出ようって。もっと冷房の効いてるとこ、行かね?」
 そのまま駿は、依里の返事も待たずに店内にあるレジに向かって歩き出した。
「あ……、あ、ち、ちょっと待って――」
 慌てて依里もそのあとを追った。
 ほかにどうしようもない。
 急いで会計を済ませ、駿と肩を並べるようにして歩き出す。
 そして、少し驚いた。
 ……ずいぶん、背が高い。
 今時の男子高校生にすれば、ずば抜けて体格が良いというわけでもないだろうが、彼の父親よりはあきらかに長身だ。
 どんな気分だろう。父親が、自分よりでかい息子に見おろされるなて。
「ねえ、エリコさん」
「――依里、よ。子はつかないよ」
「ふぅん。どんな字、書くの?」
「依頼の依に、里……」
 人の波に押されるようにして、二人の足は自然に駅のほうへ向かっていた。
 スクランブル交差点を渡り、地下鉄の入り口へ向かう人の流れから、もがくようにして抜け出す。
「いくつ? 結婚は、してないよね」
 黒い瞳が素早く依里の左手を確認していた。何の指輪もない、左手のくすり指を。
「二十五よ」
 反射的に返事をし、依里はしまったと思った。そんな個人的なことまで、この少年に教える必要はないのだ。
「俺は、駿馬
(しゅんめ)のシュン。高三。もうすぐ十八だよ。八月が誕生日だから」
 やがて私鉄の改札が見えてくる。
「ねえ依里さん。これからどこ行くの?」
「どこって、そんなこと私に――」
 訊かないで、と言おうとして、依里はふと気がついた。
 リュックのショルダーベルトを支える駿の手が、関節が白くなるほど強くベルトを握りしめている。
 おそらく自分でも気づかないうちに、緊張して、ぎりぎりと力が入ってしまっているのだ。こぶしがふるえ、爪が手のひらに食い込む痛みさえ忘れて。
「きみ……」
 依里は立ち止まった。
「え、なに?」
 人混みの中、駿も足を止める。
 ――そうだ。こんな状況で、緊張しないはずがない。
 父親に愛人がいるのを知って、平然としていられる子供なんて、いるわけがない。ましてその愛人を呼びだし、二人だけで対峙しようとしているのに。
 事実を知った時は、世界がひっくり返ったような気持ちだったろう。父親への信頼、家族の平穏、日常、すべてが一瞬にして崩れ去ってしまうような。
 母親にも、もちろん父親にも言えない。自分一人だけで悩まなければならなかったはずだ。
「駿くん……だっけ」
 この少年が何を考えて依里にメールを送ったのか、今、何をしようとしているのか、相変わらずまったくわからないけれど。
 それでも少しずつ、依里の中の恐怖は薄らいでいった。
 怖いのも、不安なのも、どうしていいかわからないのも、本当は依里ではなく、この少年のほうなのだ。
 この、依里には理解しがたい行動も、駿にしてみれば自分の生活を、大切な家族を守るために、懸命になっているだけなのだ。
 そっと盗むように見上げた横顔は、ナイフで彫りあげたように鋭く、陰影を帯びているものの、やはりまだどこかに傷つきやすい脆さ、若さを隠している。うなじは細く、ふと触れてみたくなるような優美なラインを描いていた。
 ――そうね。私にはまだ逃げ道があるもの。一番簡単で後腐れなく、誰からも恨まれずに済む方法が。
 その方法を選ぶのに、依里は何のためらいもない。そのことを説明してやれば、きっと彼も安心するだろう。
「他人に聞かれたい話じゃないよね、お互いに」
 できるだけ平穏に、あたりまえの会話に聞こえるよう、依里は言った。
「落ちついて話し合える場所じゃないとね。またどこかのお店に入るっていうのも、面倒だし。――私の部屋へ来る?」





「へえ、依里さん、独り暮らしなんだ。親父は依里さんの部屋に入ったこと、あんの?」
「ないよ。男は自分の生活空間に入れない主義なの」
 軽い揺れとともに、エレベーターが上昇していく。
 都心から少し離れた住宅街。高度経済成長時代に開発されたベッドタウンは、近年再開発が進み、超高層マンションの建設ラッシュが続いている。その結果、工事現場の高い塀と、コンビニばかりが目に付く街になってしまっている。
 依里が暮らす賃貸マンションは、無論そんな豪華な物件ではない。駅から徒歩十五分、四階建て、2Kのささやかな部屋だ。
「じゃ、もしかして俺が、依里さんの部屋に入る最初の男?」
 生意気ぶったそのせりふが、反対に駿の子供っぽさを強調する。依里は思わず吹き出して笑ってしまいそうになった。
「そういうことになるのかな。今まで雄猫一匹入れたことないし。――さ、入って」
 鍵を開け、少年を招き入れる。
 日中ずっと閉めきっていた部屋は、息が詰まるほど蒸し暑かった。急いでエアコンを全開にする。
 本当はすぐにバスルームへ駆け込みたかったが、駿がいるのではそれもできない。
「そのへんに座ってて。すぐに冷房も効いてくるから」
 とりあえず、と、冷蔵庫からウーロン茶を出し、グラスに注いで駿に手渡す。
 フローリングの床に置かれたローソファーは一人用だ。来客のための椅子も座布団もない。駿は少しためらい、ソファーを避けて床に座った。
 リュックを脇に置き、片膝を立てて座ったその姿は、まるでひょろっと長い脚を持て余しているみたいだ。
 ソファー以外の家具も、テーブルやテレビ、キッチンの冷蔵庫など、みんな小さなものばかりだ。若い女の一人暮らしには、それで充分だったから。
 けれどそんな中にあって、駿の姿はとても異質だった。彼の回りだけまだ、強い熱気が放たれているみたいだ。
 ふと気づくと、駿の視線がうろたえるように泳いでいる。
 その視線の先を確かめて、依里はあわててその先へすっ飛んでいった。ベッドを置いている和室へのふすまが、開きっぱなしになっていたのだ。
 ぴしゃりと音をたて、ふすまを閉める。見られて恥ずかしいほど散らかっていたわけではないが、自分のもっともプライベートな場所を覗かれるのは、やはりいやだ。
 駿はあわててうつむいた。そのうなじが、薄赤く染まっている。
「言ったでしょ、誰もこの部屋に入れたことないって。ヘンなこと考えないで!」
「ヘ、ヘンなって――なんも考えてねえよ!」
 駿の耳元がさらに紅くなった。
 その失態を取り返そうとするかのように、少年は鋭く、突き刺すような眼をして依里をにらんだ。
「ねえ。親父と何回くらい寝たの」
「そんなこと、きみに答える必要はないと思うけど。知ってどうするの。お母さんに報告する?」
 駿は答えられず、ぱっと顔を伏せた。
 自分の生活空間に戻ってきたことで、依里は少しずつ落ち着きを取り戻してきていた。少なくともあのオープンカフェにいる時よりは、余裕がある。こんなくだらない――ある意味子供っぽい嫌味を言われても、冷静に対応できる。
 実際、少年の父親と関係を持ったのは、まだ三回きりだ。初めて二人きりで食事したのが二ヶ月ほど前、その夜はキスもせずに別れたのだ。次の逢瀬でホテルに入り、秘密を持った。――今までの恋愛と比較すると、そこまで到達するのにわりと時間がかかったほうだと思う。
 依里は自分も冷たいグラスを持ち、窓のそばに立った。
 窓の外には見慣れた風景が広がっていた。
 一年でもっとも日が長いこの時期、まだ空には明るさが残っている。マンションの三階から見おろす住宅街は、まるでよどんだ水槽のようだ。
 依里がこの部屋で暮らすようになって、もう二年あまりが過ぎている。
 就職して一年後、学生時代から一人暮らしをしていたワンルームを引き払い、通勤に便利なこの街に引っ越したのだ。
 大学を卒業してすぐに、現在の通販会社に就職することができた。それも契約や派遣などの不安定な形ではなく、正社員として。
 業務は企業顧客を開拓する営業職。大勢の人間と接触しなければならない仕事は気苦労も多いけれど、そのぶんやりがいもあると思う。三年目の今年からは、単なる営業アシスタントだけではなく、少しずつ責任のある仕事も任されるようになってきたし、このままがんばればもっと上の地位を望むことだって不可能ではないだろう。
 仕事は充実し、職場での人間関係もおおむね良好だ。悩みの種になるほどのトラブルはまだない。大学時代からの友人も、おおぜいいる。家族と顔を合わせる時間は減ってしまったが、それも自立のひとつのあらわれだろうと思う。
 依里の母も同じように思っているのか、このごろは特別な用事でもなければ、連絡もよこさない。正月はさすがに実家へ帰省するが、GWや夏休みは友人とともに旅行などで過ごしてしまった。
 恋もしている。――いつも、あまり長続きはしないけれど。
 はたから見れば、何の不足もない日々だ。
「それで……、私に何の用?」
 窓の外を眺めたまま、依里はあらためて駿に問いかけた。
「お父さんにもお母さんにも内緒で、私に会いに来たんでしょ? 帰りがあんまり遅くなると、家の人が心配するよ」
「まだ平気。いつもは予備校行ってるから、家に帰るの、毎晩一〇時近いんだ」
 ちらっと壁の時計を確認する。針は七時近くを指していた。
「そっか。――高三って、言ってたもんね」
 駿も顔を伏せ、依里を見ようとはしなかった。
「俺……。本当は、あんたに会う気はなかったんだ。ただ遠くからちょっと顔だけ見てさ、そのまま黙って帰ろうと思ってた。だから、あんなオープンカフェに呼び出したんだしさ。……でも――」
 声が途切れた。
 依里はふと、ふりむいた。
 うつむいた駿の横顔が、耳元までほのかに紅く染まっている。
「つい、声かけちゃった。――あんたが、想像してたよりずっと若くて……、綺麗だったから」
「え……」
 ためらいがちに、駿が顔をあげた。黒い瞳が依里を映す。
「ねえ。なんで親父とつきあってんの?」





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