予想された質問だった。おそらく駿にとって、それがもっとも大きな――唯一に近い疑問だったろう。
けれどその質問に答えてやったところで、いったい何になるだろう?
答を知ったところでどうにもならないということは、駿自身もわかっているだろう。わかっていて、問いかけずにはいられなかったのだ。
「あのね、駿くん」
静かに、つぶやくように依里は言った。
「私、奥さんのいる男性と付き合うの、きみのお父さんが初めてじゃないんだ。……そうじゃないな。今まで付き合った男の人は、みんな結婚してる人だった」
「え……っ」
駿は一瞬、言葉をなくした。
「な、なんで、そんな――」
「だって楽なんだもの、そのほうが」
水滴がいっぱいついたグラスの中で、溶けた氷がからん……と小さな音をたてる。ウーロン茶はとっくに飲み干していた。
――ビールでも欲しいな。グラスを見つめ、依里は思った。こんなの、しらふで話せるようなことじゃないし。
けれど説明する相手が高校生では、そういうわけにもいかないだろう。こっちが酒の酔いにまぎれて打ち明け話をするなら、聞く側にだって酔っ払っていてほしい。子供相手に自分だけ酔っ払っうなんて、一番恰好悪い。
「だってそのほうが、簡単なんだもの。私、人間関係でごちゃごちゃもめたり、悩んだりするの、一番苦手なの。面倒くさいじゃない、そういうの。だから、ちょっとでも話がこじれそうになったら、すぐに自分から切り捨てちゃうのよね。イチ抜けた――って」
まるでそこに目に見えない紐があるみたいに、依里はぱっと右手を開いた。人と人とのしがらみを、そうやってみんなほうり捨てました、と。
「相手の男が妻帯者なら、そうやって縁切りするのもすごく楽じゃない。だって大義名分があるんだもん。『あなたにとって一番大切なものは何か、思い出して。今なら間に合うから。あなたを待ってる人たちのところへ、帰るべきだと思うの』――」
今まで何回か口にした別れのせりふを、依里は少年にも聞かせた。
当事者同士で交わすならそれなりに真実みを帯びて聞こえるその言葉も、無関係の人間にはまるで安っぽいテレビドラマのせりふにしか聞こえないだろう。
案の定、駿は不信感をたたえた目で、依里を見ていた。
「信じられない?」
「だって……」
駿は口ごもった。戸惑い、ためらいながら、訥々と言葉を紡ぐ。
「だってそれじゃ、付き合い始めたばっかン時から、もう別れる口実を用意してるってことだろ? そんなん、ヘンじゃん。最初から別れるつもりで付き合うなんて――」
依里は答えなかった。ただ、くすっと小さく笑う。
恋とか愛とか、人のつながりとか、そんなものにひどく真っ直ぐなこの少年が、とても可愛い。
そんな気持ちを持っていられるのは、おそらく人の一生の中で、本当に短いあいだだけだから。
――私はとっくになくしちゃったし。
「だいたいさ、あんたがそんなこと言ったって、ハイそーですかって別れてくれる男ばっかじゃねえだろ? 別れたくねえってゴネたり、恨んでストーカーになったり――」
「そういう男は最初から選ばないの」
依里はにっこりと少年に笑いかけた。
「ほんの少しだけ冒険してみたいとか、一時だけいつもの自分とは違う人間になりたいとかって思っていても、心の奥では自分にとって何が一番大切なのか、手放してはいけないものは何なのか、ちゃんとわかってる男性。そういう人だけを選んでるもの」
「でも……!」
「本当よ。石和さん――きみのお父さんだって、ちゃんとわかってる。彼にとって一番大切なのは、妻と息子。自分の本当に愛するものと、私とを、天秤にかけるような真似はしないわ」
駿はまだ納得がいかない様子だった。父親が信じられないのではなく、目の前の女の考えがまるで理解できないのだろう。
社会人としてのルールを踏み外さない、安全そうな男を選ぶ。それ以外にも、依里は二人の関係が深みにはまりそうになったらすぐに逃げ出すようにしてきた。
相手の男が少しでも自分にのめり込むような気配を見せたら、さっさと別れる。まだ相手に、自分の人生や社会的地位を守ろうとするだけの理性が残っているうちに。それを繰り返し、失敗したことは今まで一度もない。
その結果、一人の男とのつき合いが半年以上保ったことがないのだが。
「お家に帰ったら、お父さんにこっそり警告してごらん。お母さんがお父さんの携帯を気にしてたよって。そして私が二、三日後、どうも会社の同僚にばれそうだから、もう逢わないことにしましょうって、石和課長にメールする。私のアドレスは消去してねって。それで、私たちは全部おしまいになるはずよ」
その後、ビジネスで顔を合わせることになっても、お互い顔色ひとつ変えずにふだんどおりの生活を続けていけるだろう。揉め事もなく、醜い言い争いもせずに、ただいくつかの小さな思い出だけを互いの胸に残して。今までも、依里がずっとそうしてきたように。
そうすれば、誰も傷つかない。相手の人生も壊さず、誰も泣かさず、正しいことをしたのだからと自分を慰めることもできる。
それが大人の恋の終わらせ方。そう、信じている。
……信じているのに、自分でそれを口にすると、ひどくうさんくさく聞こえるのは、なぜだろう。
「――偽善者じゃん」
苦く、吐き捨てるように駿は言った。
依里は優しく、笑った。
「うん。偽善者だよ」
「狡い」
「狡いよ。……大人だもん」
駿は立てた片膝を抱くようにして、顔を伏せた。
依里がその表情をのぞきこもうとすると、逃げるように顔をそむける。
「あんたは……それでいいの?」
「え?」
「淋しくないの、あんたは」
駿が顔をあげた。
「だって、誰もあんたを大切にしてねえじゃん。一番大事なのは家庭とか、自分の人生とかでさ。どの男も、結局はあんたを都合のいい遊び相手としか見てねえんだろ」
黒曜石みたいな瞳が、まっすぐに依里を見ている。
こんな眼で見つめられたら、きっと誰も嘘はつけない。
「淋しいよ」
依里は、言った。
「淋しいから、一緒にいてくれる人がほしいの。私の都合のいい時だけね」
一時、現実を忘れるための冒険と、一時だけの慰め。お互いに必要なものだけを与え合い、そのほかには一切手を触れない。ただそれだけのつながりを、少年は愛とか恋とかという言葉にはふさわしくないと思っているのだろうか。
……そうかもしれないな。依里は声には出さず小さく笑った。
自分も彼と同じくらいの年齢の頃は、こんな関係を説明されたら、同じように不条理で理解しがたいものと感じただろう。
けれど、仕方がない。そういう関係を選んだのは依里自身だし、そしてそれ以上のつながりを、今は欲しいとも思っていない。
そんなものを欲しがっても、結局最後に泣きを見るのは自分だと、ちゃんとわかっている。
「大丈夫、心配しないで。このまま石和さんと別れても、私、一週間もしたら次の男性見つけてると思うし」
「そんな――!」
駿はふたたび顔をそむけた。
「親父のこと、好きじゃなかったの?」
「好きよ。石和課長、優しい人だから」
そしてきみもね、と、胸の底で付け加える。
こんな狡い女を、責めずにいてくれる。もっと口汚くののしられても仕方がないのに。
……ごめんね。その言葉を、心の中でつぶやく。
「ほかに質問は? なかったらそろそろ帰りなさい」
駿はのろのろと立ち上がった。
リュックを肩にかけ、足を引きずるようにして玄関へ向かう。
依里は彼を送り出すために、玄関までついていった。
「送らないけど、駅までの道はわかるよね?」
「うん――」
スニーカーに乱暴に爪先を突っ込んで、駿はふと動きを止めた。かかとを直すために屈めていた背を、いきなり伸ばす。
狭いマンションの玄関で、依里の視界のほとんどが駿の姿でふさがれてしまった。
「な、なに……?」
こんなふうにすぐそばに立たれると、依里はかなり顎をあげて見上げなければ、駿の表情をうかがうこともできない。
駿の影が黒く、包み込むように依里の上へ落ちた。
「淋しいの? 依里さん」
「え……」
「淋しいんだろ、今も」
そうよ、という言葉が、舌のすぐ上まで出かかった。
逆光になって沈んだ姿の中で、黒曜石みたいな瞳だけが強い光を放ち、浮かび上がって見える。それはまるで突き刺すように、まっすぐに依里を見つめていた。
……そうよ。私は淋しいの。
誰かにそばにいてもらわなくちゃ、強い腕に抱きしめられて、赤ん坊みたいに優しくあやされていなくちゃ、だめなのよ。
だってこの街は、澱んだ水槽みたい。歪んだガラスの向こうには別の風景も見えているけれど、誰もけしてそこへ行くことはできない。どんなに追いかけていきたい人があっても、追っていくことはできない。
この重苦しい水底で、私はこんなにもひとりぽっちなんだもの。
胸の中に、ぽっかりと空いたこの空白。この暗い冷たい欠落を、どうしても埋めることができない。
若い体温がつたわってくる。触れあってもいないのに、まるで波のように依里の身体へひたひたと押し寄せ、包み込む。
「そうだよな。好きな人に、自分からさよならするんだもんな。じたばたみっともねえ真似する前に、カッコつけて、嘘ついて――」
離れなさい、と、言おうとした。
「嫌われたくないの? そうやって、惚れた男にはいつまでもカッコよくて綺麗な自分だけを覚えていてほしいんだ?」
駿の言葉が胸に突き刺さる。
その言葉を、否定できない。
嫌われたくない。
別れ際にみにくい姿をさらけ出してしまえば、そんな思い出を誰がいつまでも持ち続けてくれるだろう。一日も早く忘れようとつとめ、いつかは依里の名前も顔も記憶の中から捨ててしまうに違いない。
それよりは、たとえ自分から別れを切り出しても、相手に好印象を与えていたい。誰も傷つけることなく、大人の恋を完遂できた魅力的な女性だった、と。そうすれば、依里の思い出だけは相手の胸にいつまでも淡く残り続けるだろう。何もかも忘れられてしまうより、そのほうが幸せなはずなのだ。
完全に忘れ去られてしまうより、何もかも捨てられてしまうより、そのほうがまだましだから――。
駿は壁に手をついた。壁と自分の身体のあいだに、依里を閉じこめてしまう。
「いて、あげようか」
「え――」
「俺がそばにいてやるよ。あんたの都合のいい時だけ」
なにをばかな――そう、言わなければ。
強い口調で叱りつけ、怖い顔でにらみつける。甘ったれて馬鹿なことを言い出した子供には、そうしてやるべきだ。
けれど、なにひとつまともな言葉が出てこない。
依里は泳ぐように視線をそらした。どこかに逃げ道はないかと探す。
だが駿の長い腕はがっちりと依里を閉じこめ、逃がさない。
「俺も、ルールは守るよ。依里さんに迷惑かけねえ。依里さんの仕事に干渉しねえし、俺のことにも干渉してほしくねえし。――それでいいんだろ?」
いいわけないでしょ。早く手を離して。子供のくせに、生意気な――。
頭の中にはいろんな言葉が浮かぶ。けれどその中のどれひとつとして、声にはならない。
そして熱いキスがおりてきた。
唇をふさがれ、声も出ない。
呼吸さえ許さないと言いたげな、強引なキス。
めまいがする。
触れあう身体が、熱い。
――この手を、離さなきゃ。
心の隅で、そう声がする。
今ならまだ間に合う。この手を振り払わなくちゃ。道を踏み外す前に――引き返せなくなる前に。
それが、自分で決めたルールのはずだ。依里自身のためだけでなく、駿のためにも、大人の理性を持った自分が、過ちを食い止めるべきなのだ。
けれど同時に、そんなの無理、と声がする。
――だって淋しいの。誰かにわかってほしいの、慰めてもらいたいの、この淋しさを。
抱きしめていてもらいたいの――!!
膝がふるえ、くずれそうになる身体を、強い腕が抱きとめた。
しゃにむにしがみつくような、乱暴な抱擁。薄い背中の肉に、硬い指先が食い込む。こんな荒っぽい抱擁もキスも、初めてだった。
激しい鼓動を感じる。身体中に響き渡るこれは、依里自身の、それとも駿のものだろうか。
この体温を、もう拒めない。
駿には聞こえていたのだろうか。誰にも打ち明けることのなかった、本当の依里の想いが。
「依里……っ」
かすれる声が、耳元で依里の名前をささやいた。
駿はひなたの匂いがする。乾いた髪から今も昼間の名残がこぼれ落ちているみたいだ。
その手触りは、想像していたよりもずっと柔らかかった。
そしてすべてが押し流されていった。
どのくらい時間が経ったのだろう。
暗がりの中、駿がむくっと身体を起こした。
「ごめん。俺、寝てた?」
「うん、少しね」
そのあいだずっと、依里は彼を腕に抱いていたのだ。
それでか、と、駿はわけありの顔をして笑った。
「どうりで、なんかひんやりして、すげえ気持ちよかった。依里さん、体温低いから。低血圧でしょ」
「ばか」
それは依里の体温が低いからではなく、駿の肌が熱いからだ。
もう一度抱きつこうとする少年の腕から、依里はするりと逃げ出した。脱ぎ散らした衣服を拾い、駿に背を向けて身につける。
「時間、いいの? そろそろ九時半だよ」
「えー、もうそんな時間? あー、だりぃなー」
駿はうだうだと、また寝転がってしまう。
「ねえ。今夜、このまま泊まってっちゃだめ?」
「だめ。あたりまえでしょ」
えー、いいじゃん、もっぺんしようよーなどとゴネながら、駿は性懲りもなく依里を抱きしめようと手を伸ばしてきた。
「携帯はいいの? すりかえたきみの携帯、今はお父さんが持ってるんでしょ?」
「あ、そうだ! いけね、忘れてた!」
ようやく駿は跳ね起きた。
「今ごろはお父さんが、きみに届いたメールをチェックしてるかもね」
「まさか」
「あら。親はいつだって子供のことを知りたいって思ってるのよ。悪い友達ができたんじゃないかとか、ちゃんと女の子にもてるのかとか」
「――女なんて」
顔をそむけ、ぼそっと吐き捨てるように駿は言った。けれど、あわてて身支度を整え始める。
……あ、いるんだ。依里は敏感にそう思った。恋人なのか、それともそこまで親密な間柄ではないのか、少なくとも、親には絶対見られたくないメールを送ってくる少女が。
どんな娘なのだろう。
苦いものが、胸の奥からこみあげる。彼と同じ学年だろうか、それとも年下だろうか。
けれどそれを駿に問いただすことはできない。そんなことはしないと、お互い、ほんの少し前に約束したばかりなのだから。
「……依里さんが考えてるような女じゃねえよ」
なんだかひどく苦しそうに、駿が言った。
「うん、わかってるよ」
気にしないでね、と、嘘をつく。
先に嘘をつくのが、大人の役割だから。
そのまま二人は、お互いに背を向けたまま、黙々と身支度を整えた。
照明は消したままだが、カーテンを開けた窓から街の灯りやおぼろにかすんだ月明かりが射し込んでくる。服を着るくらいなら、この光でなんとかなった。
「早く帰りなさい。それから、誰も見ちゃいないと思うけど、外に出る時は一応気をつけてね。他の住人とかに見られないように――」
「依里さん?」
かたくなに背を向けたままの依里に、駿はいぶかしそうに声をかけた。
「どうかした?」
「べつに」
駿は制服の開襟シャツに袖を通し、手櫛でぱさぱさと髪を整える。
「電気、点けていい?」
「え……。あ、ああ、うん。ごめん、気がつかなくて。今、点けてあげるから」
依里はあわてて壁のスイッチに手を伸ばそうとした。
「――依里さん?」
もう一度、駿が依里の名を呼んだ。
「もしかして、灯り点けんの、いやなの?」
「なに言ってんの。そんなことあるわけないじゃない」
手探りで照明のスイッチをオンにしようとしていた指先を、大きく強い手が不意に掴んだ。
「いいよ、無理しなくたって。灯りなんかいらねえから」
「駿……」
依里の手を握りしめる、熱い手のひら。乾いて、少しざらついて硬い。
その手を、依里は乱暴にふりほどこうとした。
「な、なにしてんの。早く帰りなさいってば」
「依里さん」
駿は依里の手を離さなかった。
「いいの? 俺、このまま帰っちまって」
「な、なによ――」
あたりまえでしょ、という言葉が、どうしても出てこない。
「いやなの? もう少し俺に、ここに居てほしいって……依里さん、そう思ってる?」
依里は否定しようとした。
望む望まないではなく、そんなこと、できるはずがない。分かり切ったことなのに。
けれど、否定の言葉が何一つ出てこない。
「やっぱり、そうなんじゃん」
駿が、背中から抱きしめようとした。長くすこやかな腕が、依里の身体を包み込もうとする。
その手を、依里はそっと押しのけた。
「ううん、違う」
「なんだよ――!」
駿が語気を荒げた。
「今さら、カッコつけることないだろ! 俺にいてほしいなら、そう言えよ!」
「そばにいてっていうのとは、ちょっと違うの」
依里は、駿の腕の中で振り向いた。
互いの呼吸が触れるほど近くで、駿の顔を見上げる。若く、感情が隠せない、傷つきやすいその顔を。
黒い瞳がじっと依里を見つめている。怖れ気もなく、まるでその目がまっすぐに依里の中へ飛び込んでくるようだ。
どうしてこの瞳の前では、隠し事ができないのだろう。
今まで誰にも打ち明けずにいた、心の奥底にしまい込んで自分自身すら目をそらし続け、忘れたふりをしていた秘密が、勝手にこぼれ出してしまう。
「置いていかれるのが……苦手なの、私」
「え……」
「子供の頃、両親が離婚してね。父は、私と母を置いて、家を出ていったの。私たちを捨てて他の女のところへ行こうとする父を、私、なにも知らずに見送ったのよ。家の玄関で」
お父さん、いってらっしゃい。幼い娘の言葉を、父はどんな思いで聞いたのだろう。
そしてそれきり、二度と父は戻らなかった。
父親の顔すら、もうはっきりとは思い出せない。それほど遠い昔のことなのに。
玄関を出ていく父の背中だけは、今も鮮明に記憶に残っている。それが、依里が覚えている唯一の父の姿だった。
「……ばかだよね。もう、二〇年近くも前のことなのに」
父が別の女性と再婚し、幸せに暮らしているらしいと、なにかの折りに聞いたことがある。子供も生まれた、と。それ以外のことはなにも知らない。日頃はもう、思い出しもしない。
父も、依里のことなど記憶の片隅にとどめているだけだろう。おそらく顔も忘れてしまったに違いない。お互い様だ。
なのに今も、こうして不意にあの日の記憶がよみがえり、依里を苦しめる。父そのものの印象なんてみんな消えてしまったのに、その人と別れた、置き去りにされた哀しさだけが、今も依里の中に鮮明に刻みつけられて、消えないのだ。
懸命に笑おうとする。けれど、だめだった。みっともなく、口元がふるえただけだった。
「依里」
伏せようとする依里の顔を、今度は駿が追いかけ、覗き込んだ。
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