【薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク・6】
                         3

 眠る紅子を残し、叶はそっとバルコニーへ出た。
 来た時と同じく外付け階段を使い、一階の客用寝室へ戻る。
 窓から室内へ入るなり、叶は眉を寄せ、表情を歪めた。
 ベッドの上に、叶の絣の着物と袴が置かれていた。
 手入れされ、綺麗に火熨斗
(ひのし)まであててある。
 女中頭か、それともあの老爺が持ってきたのか。どちらにせよその人物は、叶がこの寝室を抜け出したことを知っているはずだ。
 だが、邸内はしんと静まり返っている。叶の行方を探している様子はない。
 着物を持ってきた人間は、そしてそれを命じた人物も、叶がどこにいるのか承知していたのだ。
 紅子の言ったとおりだった。
 借り物の洋装を脱ぎ、叶は自分の着物に袖を通した。
 忘れていた怪我の痛みがぶり返す。
「痛ぅ……」
 痛む右肩を押さえ、足を引きずるようにして、叶は廊下へと出た。
 灯りもない長い廊下を抜け、玄関ホールへ向かう。
 玄関も施錠されていない。
 けれど誰かが見張っているのだろう。叶がこの扉から外へ出たら、その人間がすぐに、何事もなかったかのように扉を閉ざし、鍵をかけるに違いない。
 重たい樫の一枚板で造られた扉を、身体中の力を振り絞るようにして押し開ける。
 身を切るように冷たい空気が、叶の全身を包み込んだ。
 東の空はすでに白々と明け初めている。
 そして叶は、敷島子爵邸をあとにした。






「ほ、本当なの、それ……ッ! 子爵さまが、貿易相手の商人に邸内の若い女を――!!」
 蒼白な表情で、聡子は叶の言葉を鸚鵡返しに繰り返した。冷たい汗が噴き出している。
「本当ですよ。僕はこの目で見たんですから」
 叶は、あえて聡子が誤解するような曖昧な言葉を選び、話した。
 子爵家を出るとすぐに、叶は妹、みちるの嫁ぎ先に向かった。そこで前と同じく、乳母の名前で聡子を呼びだしてもらったのだ。
 銀座の履き物商の居間で、叶は胸苦しさを抑えながら、虚偽の報告をした。
「現子爵だけじゃない。代々、敷島家の当主は似たようなことをしていたようです」
 一部には事実も混じっているからか、聡子は疑う様子もなかった。
「けれど聡子さん。これは別に、目を剥くようなことじゃないですよ。金と権力を持った男なんて、みんな多かれ少なかれ、似たようなことをしているものです。ただ、子爵家では女中だけではなく、当主の家族も同じ務めをはたしていたようで――」
「家族って……まさか、先代の子爵夫人が!?」
 叶は答えなかった。聡子は、叶が意図したとおりに誤解してくれたのだ。
「源氏物語なんかにもあるでしょう。人妻が夫の客人をもてなすというのは。ほら、空蝉の段とか。遠来の客に適当な女中をあてがっても、それほど特別なもてなしじゃない、とあまり喜んでもらえないかもしれない。それよりは、もっと身分の高い女性が接したほうが……」
「じゃあ……じゃあまさか、省吾さまは、わたくしにも同じことをさせるおつもりで――それで、わ、わたくしを値踏みなさっていたと……!?」
「欧米の男は、特に爵位をありがたがりますからね」
「そ、そんな……ッ!!」
 あとはもう、言葉にならなかった。
 聡子の全身がかたかたと震えだし、止まらなくなる。
「聡ちゃん、聡ちゃん、大丈夫よ、落ち着いて!」
 少しでも落ち着かせようと、みちるがわきから聡子を抱きかかえる。
「い、いや! いやよ、わたくし、そんなこと、絶対にいや!!」
 聡子は悲鳴のように叫ぶ。
「大丈夫ですって、まだ婚約だけですもの。いくらでも破談にできるわ。ね?」
「だけど、破談の理由は絶対に表沙汰にはできないぞ」
「どうしてよ、兄さん! 子爵家の名誉なんか、どうなってもいいじゃない! 聡ちゃんにそんな恐ろしいことをさせようとした人なんか――!」
「いや、違う。聡子さんのことだ」
 低く、叶は言った。
「敷島子爵家がひた隠しにしていた秘密を、どうして西野家が知ってしまったか。その過程を追求され、僕が聡子さんの頼みで子爵家にもぐり込んだことがばれたら、聡子さんの名前にまで傷がつく。夫の行状を幼馴染みの男に調べさせる妻なんて、華族社会で許されると思うか?」
「あ……。そうか、それもあるのね――」
 納得した様子で、みちるも口をつぐんだ。
 聡子はもう、子供のように泣きじゃくるばかりだ。
 しばらくの沈黙ののち、みちるがはっと顔をあげた。
「そ、そうだわ。高円寺の伯母上さまに相談してみたらどうかしら?」
「伯母さまに? だめよ、みっちゃん。伯母さまがお仲人に立って、このお話をまとめてくださったのに」
「だからよ、聡ちゃん。伯母さまだって、ご自分の紹介したお婿さまがこんな非道い人だなんて、世間に知られたくないはずだわ。だから、敷島子爵家にも西野男爵家にも傷が付かないよう、なんとか上手く破鏡
(はきょう)にしてくださいって、頼み込むのよ! 伯母さまご自身の名誉を守るためにもね!」
「でも伯母さま、わたくしのしたこと、きっとお叱りになるわ……」
「お小言くらい我慢しましょうよ。ね、聡ちゃん。あたしも一緒にお小言を頂戴するから」
 姉のような乳姉妹に励まされて、聡子はようやく顔をあげた。
「考えようによっちゃ、これで良かったのよ、聡ちゃん。実際に結婚したあとだったら、取り返しがつかなかったわ。妻のほうから離婚を申し立てることはできないんですもの」
「うん……。そうね。そう考えると、わたくし、運が良かったんだわ」
 子供みたいに泣きはらした眼をして、聡子は叶に小さく笑いかけた。
「ありがとう、叶さん。みんな叶さんのおかげだわ」
「いえ……」
 無邪気なその笑顔を、叶は真っ直ぐに見ることすらできなかった。
「でも、先代の子爵夫人は本当にお可哀想な方だったのね。だから早くに亡くなられてしまったのかしら」
「ほらほら、そんなお顔で帰ったら、お家の方がびっくりなさるわ。顔を洗ってらっしゃいな。お化粧を直してあげるから」
 みちるは聡子の手を取るようにしてソファーから立たせ、洗面所へ送りだした。
 そして、叶のほうへ向き直る。
「ねえ……。本当なの? 子爵家のこと」
「みちる」
「ううん、兄さんのこと、疑ってるんじゃないわ。でも……何だか兄さん、ここ数日で変わっちゃったから。そんな怪我までして……。ねえ、何があったの、兄さん?」
 叶は何も答えられなかった。
「あたし、わかってるつもりよ。兄さんがたとえ嘘をついてたとしても、それは聡ちゃんに良かれと思ってのことだって。たぶん兄さんは間違ってない。聡ちゃんは別のところへお嫁に行ったほうが幸せになれるわ」
「ああ……そうだな」
「聡ちゃんはこれでいいのよ。でも――兄さんは?」
「僕? 僕が何だっていうんだよ。関係ないだろ」
 叶はできる限り、平素な顔をつくろうとした。きっと、かなり上手くできていたと思う。
「あんまりよけいなことばかり考えるな。お腹の子供によくないぞ」
「兄さん……」
 みちるは口をつぐんだ。これ以上、叶は何も話してくれないだろうと、みちるも悟ったのかもしれない。
「じゃ、僕は社のほうへ戻るから。何かあったらまた連絡をよこしてくれよ」
「うん、兄さんもね。気をつけて」
 そして叶は、埃っぽい銀座の街を歩き出した。
 白茶けた陽射しが目を突き刺すようだった。






 薄暗い室内に、熱い呼吸が満ちていた。
 光源は暖炉で燃える炎だけだ。不安定に揺らめくオレンジ色の光が、白い身体をまだらに染める。
「それで?」
 冷淡な声がした。
「それであの男は、何と言ったんだ?」
「……きれい、だ――て……。わ、わたしの名前、ばらが咲いてるみたいだって……」
「どうやってお前を抱いた」
「あ、あ……っ。叶さん、怪我、してたから……。わたしが、上になって……」
「こんなふうにか。お前が自分から脚を開いて、あいつの上で腰を振ったのか」
「あっ! あ、いや――いやああっ!!」
 すすり泣くようなあえかな喘ぎ。
 密着した肌が擦れ合い、その間で粘液がこね回される。過敏な襞が押し広げられる。ぐちゅ、ちゅぷ、ちゅくっ――淫らな水音が響く。
「あの男は――いや、お前はそれで満足したのか。何回いった? 失神するまでいかせてもらえたか!?」
「いや、いやああ……っ! も、もぉ……いわない、で……っ!」
「どうした。やってみせろ。あの男にしてやったのと同じように、自分で腰を振って、悦がってみせろ!」
「ああぁっ! あ、あ、に、にぃさまあ……っ!!」
 細くかすれた悲鳴が、絶頂を告げた。
 ぎい、と蝶番をきしませて、重厚な彫刻に飾られた扉が開いた。
 廊下の湿った冷たい空気が、暖炉であたためられていた書斎の中に流れ込んでくる。
「遅かったな」
 ぐったりとして、半分意識を飛ばしかけている紅子の身体を抱きかかえながら、敷島省吾は言った。
 肘掛けつきのシングルソファーに腰かけ、膝の上に全裸の紅子を乗せている。シングルとは言いながら、ヴィクトリアン様式の大きな椅子は、二人の人間が座ってもきしみもしない。
 紅子は省吾の太腿をまたぐように両脚を大きく広げ、真下から省吾に貫かれていた。
「ん……っ。ん、く……ぅ、も、もうだめ……。も――いやぁ……」
 揺さぶられ、突き上げられて、紅子は意味のない言葉を繰り返す。背後で扉が開いたことにすら、気がつかないようだ。
「あ、あ――ひぁあ……っ!」
 ぐらりと紅子の身体が揺れた。大きくのけぞり、そのまま背後に倒れ込みそうになる。
 省吾は乱暴に紅子を突き放した。
 叶は反射的に紅子へ駆け寄り、抱きとめようとした。
 が、間に合わない。紅子の身体は絨毯の上に、まるで糸の切れた人形のようにどさりと投げ出された。
「くぅ……っ」
 床に倒れ込んだ紅子はぐったりとしたまま、時折り鈍く痙攣を繰り返す。
 叶がそっと抱き起こしても、焦点の合わない瞳をして、自分を抱きかかえたのが誰であるのかも理解できていないようだ。涙と涎で汚れたほほ、両脚は付け根から膝裏にまで蜜がしたたり、乳房にもウエストにも、惨い愛撫の痕が刻まれている。
「もう少し早く戻ってくると思っていたがな」
 省吾は椅子から立ち上がり、大きな紫檀の執務机のそばに歩いていった。
 紅子の凄惨な姿とは違い、服装もほとんど乱れていない。ネクタイが弛み、ワイシャツの衿が開いている程度だ。
「昨日、西野男爵家から婚約の破談が申し入れられた。何でも、水沢侯爵閣下が聡子さんを見初め、是非とも後妻にと望んだらしい。閣下はすでに四十路
(よそじ)も後半だが、年の差など侯爵位の前では何の意味ももたんのだろう。私も侯爵閣下の意向に背くつもりはない。私と聡子さんの婚約は、双方の合意と利得の元、円満に解消となった」
 何の感情もない声で、省吾は淡々と言った。まるで会社の経理報告でも読み上げているかのようだ。
 おそらく仲人の女性が必死で走り回ったのだろう。敷島子爵家よりも格段に位の高い家から婚姻を申し込まれれば、男爵家も子爵家も断れない。聡子は玉の輿に乗ったことになり、誰にも傷がつかない。
 あとはただ、新たな夫が良い人物であることを祈るだけだ。たとえどんな男であろうとも、敷島省吾よりもましだろうが。
 叶は一切、返事をしなかった。ただガラスのレンズ越しに、突き刺すように省吾を睨む。
「御子柴――みこしば。どこかで聞いた名だと思っていたんだ。たしか聡子さんの乳母が、そんな名字だった。乳母の娘と一緒に育ち、姉のように慕っていると彼女は言っていたが、そうか、兄もいたというわけか」
「聡子さんは疑っていたんですよ。貴方に、女がいるのではないかとね」
 初めて、省吾は笑った。鼻先でせせら笑った。
「乳母日傘の鈍感なお嬢様育ちかと思っていたが――意外に鋭いな」
「どうして……!」
 苦く、吐き捨てるように叶は言った。もう、黙っていられなかった。
「どうして貴方は、こんなことを――! 腹違いとはいえ、紅子さんは貴方の妹だろう!」
「貴君がそれを問うのか? 紅子を抱いた、お前が」
 口元に皮肉な笑いを浮かべ、けれど省吾の目はまったく笑っていない。真っ直ぐに叶を見据えている。
「紅子を抱いて、何を思った? お前の目は節穴か」
「紅子さんが、喜んで男に身を任せているとでも言うつもりか!? 僕に抱かれて、それで彼女が幸せになったとでも――!!」
「喜んでいるんだよ。紅子がお前を欲しがった。だから私は与えてやった」
「な……ッ!」
 叶の腕の中で、紅子がかすかに身じろぎした。
「紅子さんが……彼女がどんな想いであんたを見てるか、知ってるのか!」
 独りぼっちの少女が、唯一人、家族として慕うことのできる異母兄。写真でしか見たことのない父の面影も、その兄の風貌の中に見出して、ただ彼に愛されることだけを望んでいる。彼以外に、愛を求められる人を知らないのだ。
「私も忙しい。いつもいつも紅子のそばにいてやれるわけではないのでね。だからお前を選んだ。お前なら、紅子に何が必要なのか、もうわかっていると思ったからな」
 省吾が、叶の腕から紅子を奪い返した。
「嫌なら、出ていけ。別の男を捜す」
 紅子を両腕に抱え、省吾はふたたび肘掛け椅子に座った。さきほどと同じく、紅子の両脚を大きく広げ、陵辱されるための姿勢を取らせる。
「あ……っ。い、いや、もう……」
 紅子が小さくいやいやをした。けれど省吾の腕から逃げようとはしない。
 まだ理性もまともな思考さえも戻ってきてはいないだろう。紅子は心の大部分を占める本当の感情と、本能とだけに従っているのだ。
 省吾は紅子のウエストを両手で掴み、持ち上げた。そして真下から、猛る欲望を突き立てる。
「あくううぅ――っ!!」
 懸命に噛み殺し、けれどどうしても堪えきれない悲痛な声。
 けれどその奥底に、蕩けるような悦楽を秘めている。
「あはっ! あ、いや、もう……ああっ! や、やめて、兄さまぁっ!」
 下から激しく揺さぶられ、紅子は泣きじゃくった。
 犯される衝撃に、逆に意識がはっきりしてきたらしい。
「い、いやっ! いや、見ないで、叶さんっ……叶さん、おね、が……あああぁっ!!」
 暖炉の炎に照らされて朱く染まり、揺らめく肢体は、それ自体が一枚の大きな花びらのようだと、叶は思った。
「男に抱かれている時が、紅子は一番美しい」
 省吾は言った。声がうわずるのが、もう抑え切れていない。
「私が女にした。紅子が望んだんだ。私が欲しいと」
 おそらく彼女は、それ以外に愛情の求め方、表し方を知らなかったのだろう。そして省吾は、自分を見つめる瞳に負けてしまった。あの縋りつくような、見つめるだけで闇の奥底に吸い込まれてしまいそうな、誘惑の瞳に。
「抱いてやるたびに、新たな男を知るたびに、紅子は美しくなる。だから――!」
 さらに強く、深く、省吾は紅子を突き上げた。のけ反る喉に唇をおしあて、そこに所有の印を刻む。蒼い乳房を、指の痕が残るほど強く握りしめ、滅茶苦茶に揉みしだく。
「ひ、あぁ……っ! だ、だめ、そんな……い、痛い……っ! も、もっと、優しく、して……!」
 懸命に苦痛を訴える声は、けれどもっと惨くいじめてくれとねだるようにしか聞こえない。
 紅子は自ら省吾の逞しい身体に脚を絡め、身体を揺すった。男の上で淫らに跳ね、踊る。感極まったように嬌声をあげ、すがりつく。
 それはまるで、省吾という樹木に絡みつく美しいつるばらのようだった。
 男に犯され、その精を浴びて花開く、大輪のばら。踏みにじられ、傷つけられ、泣きじゃくりながらのたうち回る姿が、紅子は一番美しい。はずかしめられればはずかしめられるほど、さらに美しく淫蕩に咲き誇る。
 省吾は、誰よりもそれを知っていたのだ。
 叶の、血管という血管を、煮えたぎるような嫉妬が駆けめぐった。できるものなら今すぐに省吾を殴り殺し、自分が代わって紅子を抱きたかった。
 省吾も、同じ思いをしていたのだろう。自分以外の男に、紅子を抱かせるたびに。それが、紅子をより咲き誇らせるため、省吾自身が決めたことであっても。
 そしてその嫉妬のまま、紅子を犯す。その残酷な行為が、さらに紅子を美しくする。
「お前も、一緒に可愛がってやれ」
 省吾は紅子の脚を持ち上げ、さらに大きく開かせた。尻の丸みに両手をかけ、双丘を押し開く。
「あ、あ――いやっ! いや、兄さま、そこはいやあああっ!!」
「気にするな。こっちももう、慣らしてある」
「お願い、やめてっ! やめて、叶さん!!」
 紅子は引きつったような悲鳴をあげた。
 けれど叶は、絡み合う二人のもとへ近づいていった。
 恐怖に見開かれた瞳から、目がそらせない。もっと、もっと、いたぶってやりたいと思う。この眼が涙に濡れ、絶望の闇に染まるのが見たい。
 着ているものを脱ぎ捨てる。
「袴は不便だな。洋装のほうが楽だ」
「じゃあ、今度からそうしておくんだな」
 省吾がほくそ笑んだ。叶は眼鏡も絨毯の上に投げ捨てる。
「か、叶さんっ! だめ、やめてっ! ねえ、お願い、やめてえっ!!」
 省吾を飲み込んだ秘花、その奥にひっそりと息づく小さな蕾に、叶は欲望の先端を押し当てた。
「む、むり、絶対、二人いっぺんになんて――いやあああっ!!」
 殺されるけものの悲鳴。
 きちきちと口を閉ざそうとするそこに、叶は無理やり自分をねじ込んだ。
「く、う……っ!」
 想像以上のきつさ、そして蕩けるような熱さに、思わず声をあげる。
「あ……かは……っ」
 紅子はまるで溺れる者のように、大きく胸をあえがせた。涙に濡れた瞳はうつろに見開かれ、もう何も映していない。
 秘花を犯す省吾が、いきなり強く突き上げる。
「ひあああぁっ!!」
 紅子は泣き叫んだ。
 叶も、身体ごと叩きつけるように紅子を突き上げる。細い腰を抱きしめ、押さえつけて、さらに奥へと自らの欲望をねじ込む。
「いっ、いやああっ! こ、こわれるっ! こわれちゃ、あ……あーっ!!」
 薄い粘膜を挟んで、猛々しく張りつめた欲望が激しく擦れ合う。身体の中すべてを二人の男の欲望に埋め尽くされたような衝撃に、わずかな意識も消し飛んでしまう。
「うっ、く――ううぅっ!」
 脳天まで突き抜ける快感に、叶は思わず声をあげた。
 なにもかもが搾り取られ、吸い尽くされるようだ。
 ――きっと、そうなのだろう。
 快楽に歪む思考の端で、叶はそう思う。
「あっ、あ、あ……好き……っ! 兄さま、好き、大好き……ッ!!」
 二人掛かりで犯され、息も絶え絶えに紅子が訴える。
「ねぇ、いて……っ! そばに、いて、おねがい、いっしょに……兄さまっ! なんでも、する――なんでも、言うこときくから……っ! 兄さま、おねが、あ……あぁあ……っ」
「ああ、いい子だ、紅子。愛しているよ。お前の言うとおりにしてやる」
 乱れる呼吸の下、省吾が答える。かすれる声は、逆に彼が少女に支配されつくしているかのように聞こえた。
 いや、そうなのだ。
 その思いは、叶の中でもはや確信になっていた。自分も、そして敷島省吾も、紅子を犯し、支配するようでありながら、本当は紅子の元に屈服している。すべてを奪われている。
 この美しい花の蔓に、自分たちは絡め取られてしまった。もう逃げられない。
 そしていつか、自分を犯した男たちすべての上に、紅子は大輪の花を咲かせるだろう。すべての男の欲望も、野望も吸い尽くし、もっとも美しい命だけが絢爛と生き残るのだ。
「いいですよ、紅子さん」
 背後から紅子の耳元に唇を寄せ、叶はささやいた。
「あ……っ、あ、か、叶さ……っ!」
「僕も、きみを愛している。きみが欲しがるなら、みんなあげよう。僕の全部を吸い尽くせばいい。そして、もっと綺麗になるんだ……!」
 せめてその時まで、そばにいたいと、叶は思った。
 紅子の足元で朽ちる時、せめてもっとも身近に倒れていたい、と。省吾と二人、最後までこの少女を抱きしめ、その肌に口づけていたい。
「あーっ! あ、あたるっ! ふたつ、あたるの、なかで――ああっ! は、あ、すごいっ! こんな、すごく……悦いぃっ!!」
 濡れた朱唇から、淫猥な言葉があふれ出す。もう止めどがない。
 がくがくと揺れる身体を、省吾が支える。叶は後ろから手を伸ばし、紅子の秘密をまさぐった。省吾に貫かれた泉、その上に、小さな快楽の芯を探り当てる。
「あ、は、ひあぁっ!! だめ、そんな……きああぁッ!!」
 弱いところを三ヶ所同時に責められて、紅子は泣き叫んだ。
「おねがい、も……もぉ、ゆるして……っ。だめ、もぉ――ああっ! ゆるしてぇッ!!」
 のけぞり、あえぎ、悦楽の声をあげる。くわえ込んだ雄の欲望をさらに奥深く飲み込もうと、四肢を淫らに揺らめかす。
 もっとも美しい紅子だ。
「だ、だめっ! も、だめ、い、いっちゃうっ! いく、も――いくうぅっ!!」
 紅子が絶頂に昇りつめる。指先まで弓なりに反り返り、何度も何度もエクスタシーを極める。涙、汗、唾液、身体中から甘い蜜を滴らせ、花開く。
 熱い肉に強くきつく締め付けられ、叶も声をあげた。
「あ、くぅ……紅子っ!!」
 雄叫びのように紅子の名を呼び、省吾が情を遂げる。
 叶もまた、白濁の欲望を紅子の中に叩きつけた。
 三つの感覚が一つに溶け合い、そしてすべてが押し流されていく。
 そして叶は、互いをつなぐ鎖を感じた。
 紅子と、省吾と、そして自分と。がんじがらめに縛り付ける、しなやかで強固な快楽の鎖。
 紅子の薔薇を咲かせるためにある、けして逃げられない鎖だった。


                                       〜FIN〜
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