「愚僧はすでに仏に仕える身です。どうぞ了海とお呼びください」
「そうかそうか。立派になったのう。だが……遅かった。篤保さまは、十日前にすでに息を引き取られた」
「さようでございますか」
 報告するほうもされたほうも、たいして哀しんでいる様子はなかった。
 了海も、先代のお屋形さまには命を救われた恩義があり、彼の言葉は今も生きる指針となっている。
 だが、篤保には何の恩も借りもない。嘆いてやる義理なんぞ、かけらもない。
 それより気になるのは、那原の現状だ。
 平屋建ての館は、一国一城の主の居館として、それなりに意匠が凝らされ、壮麗な建物だった。が、今は軒も傾きかけて、見るも無惨なありさまだ。冠木門をくぐって敷地の中をけっこう歩いたが、会った人間はまだ、城代家老とそのそばにつき従う若い侍のふたりきりだった。
 城代は足を引きずりながら、了海を挨拶の間である式台ではなく、中庭に面した広間へ案内した。
 広間は城の重臣たちが集まり、領国のすべてを話し合う評定が開かれる場所、館でもっとも重要な部屋だ。が、ここにも人影はない。
「篤保さまの跡目を継がれるのは、どなたです?」
 城代家老は重苦しくため息をつき、首を横に振った。
「篤保さまはお独り身
(ひとりみ)であられた。お子さまがおらんのじゃ」
「では……!」
「ご親類筋も探してみたが、一人もおられぬ。みな、先のお家騒動に巻き込まれて……」
 武士にとって、跡継ぎを残さずに死ぬことは最大の不忠とされた。家名の存続こそが武士の生きる目的だ。
 家名断絶をふせぐために、養子縁組をしたり、みな懸命になる。正妻以外の女性に手を出すのも、後継者たる男子を得るためというのが大義名分だ。
「それゆえ、お屋形さまの死はまだ伏せておる。せめて誰が家督を継ぐのか、決まってからでないとな」
 それもしかたのないことだろう。
 これでせめて篤保に妻がいれば、その妻に一時城主の権限を代行してもらうことができた。そのあとで何とか妻に男児を生んでもらって、生まれ月の勘定が合わないのは予定が遅れたとか何とか言いつくろい、最悪の場合はどっかからこっそり男の赤ん坊をもらってきて、急場をしのぐ手だてもあった。だが篤保が独身のまま死んだのでは、この手の奇策も使えない。
 この戦の時代、自分が死んだ時、家や国をどうするか、ちゃんと考えておくのが良い領主だ。
 篤保が異母兄を討って領主の座についたのは戦国乱世の倣いかもしれないが、その後、領国を支える農民たちを虐げたことといい、肝心要の跡取りを残さなかったことといい、まったく碌でもない男だ。
「ご城代。館の中に、人の数が少ないように思われまするが。今現在、館には何人の侍が詰めているのです?」
「何人もカンニンも……」
 城代家老は、かたわらに控える若い侍を視線で示した。
「わしとこの八郎太
(はちろうた)と、あともう一人の、三人きりじゃ」
「……は?」
 了海は耳を疑った。
 八郎太は了海より二つ三つ年下の若者だった。にかッと笑ってみせた顔が、人なつっこく愛嬌がある。
 袴を着け、腰には刀もあるが、どうもさまになっていない。男にしてはやや小柄なこともあり、借り着を着せられたこどもみたいだ。
「ああ、おぬしが戻ってきてくれたゆえ、これで四人じゃ」
「ち、ちょっと待て……いや、お待ちください。私は坊主です。侍ではございません!」
「なに、かまわん。今数えた三人めも、半分武士ではない。本職は金瘡医
(きんそうい)じゃ」
 金瘡医とは、刀傷矢傷の手当てを専門とする医師、外科医のことだ。
「さ、三人って……、それだけですか!? ほかの連中はどこにいるんですか!」
「おらんよ。みんな、あの世に逝ってしもうた」
 城代家老はぺたんと縁側に腰をおろし、ため息をついた。
「大森源五も、佐野次郎と五郎の兄弟も、中村んとこの正兼も、みーんな死んでしもうた。先のお家騒動で、亡くなられた隆景さまの恩義に報いるか、新しい城主の篤保さまにしたがうか、家臣のうちでも意見がふたつに分かれてのう。反目し合い、しまいには斬り合いじゃ。屋敷に火ぃつけられて、そのまま焼け死んだ者もおった。まったく莫迦な真似をしおって。この年寄りがまだ生きとるちゅうに、若いモンはどうしてああ死に急ぐんじゃろうのぅ……」
 目をしょぼしょぼさせ、ぐすっと鼻を啜り上げる。家老の威厳もあったものじゃない。
 了海はあらためて周囲を見回した。
 では、この館中に残る刀傷は、敵の攻撃によるものではなく、家臣どうしが争った跡だったのか。安原家臣団は文字通り自滅したのだ。
「あとはみんな、逃げちまいました」
 けろっとして、八郎太が言った。
「一応、お屋形さまの死は伏せてることにはなってますが、とっくの昔に知れ渡ってますよ。所領を安堵してくれる領主もいねえのに、こんな城守ってられるかって、みんな尻に帆かけて逃げちまいました」
「な、なんだと……」
 目の前が真っ暗になった。血の気が音たててひいていく。代々の恩義はどこへいった。一所懸命、己の地所に命を賭ける武士の誇りは。
「なかには、てめえの所領をひっさげて、隣国に寝返ったヤツもいます。那原にはもう、まともな侍はほとんど残っちゃおりません。だからおれみたいなのまで、侍に取り立ててもらえたんスけどね」
「八郎太の親父は、名主百姓(みょうしゅびゃくしょう・地主階級)での。こやつは百姓になるのは嫌だ、侍になりたいと米俵かついでわしんところへ来おったんじゃ。なかなか殊勝なもんじゃろ」
「なんせおれの上に、兄貴が七人もいるもんで。おれぁ田畑もらうかわりに、親父に槍と具足を揃えてもらって、侍になったんス!」
 なったんす……と、そう簡単に武士になられてたまるものか。
「今、招集できる武者どもは、みんな八郎太と似たり寄ったりじゃ。自前の具足を揃えておる分、八郎太はマシなほうじゃ」
 納屋衆(倉庫業者)のせがれに振売(行商人)に猿楽師に……と、城代は指を折って数え上げた。
「そやつらに比べれば、おぬしの出自は立派なもんじゃ。父親はたしかに安原の武将じゃった。おぬしのその坊主頭もな、気にせんでええぞ。兜をかぶっちまえば、丸ハゲだろうがちょびハゲだろうが、わかりゃせん。髪がない分、蒸れずにすむわい」
「私の頭はハゲではありません、剃髪です!」
「ほんじゃあ、髪のばせ」
「……はあ?」
「そうだのう。侍大将がつるっパゲの金柑頭
(きんかんあたま)ではたしかに恰好つかんわな。それに、おぬしほどの男前がそんな辛気くさい破れ袈裟を着とったら、若い娘どもが哀しむぞ。な、還俗しろ。烏帽子親はわしがつとめてやる」
「いやですッ!!」
 了海は力いっぱい怒鳴った。
「だいたい何ですか、その侍大将ってのは! そんな話は聞いてません!」
「なに、侍大将では不服か。ならば城将になるか? お家騒動のせいで、皆川砦も松ヶ輪の出城もみーんな空き城じゃ。好きなとこ持ってけ。お屋形さまもおっ死んどるし、だーれも文句は言いやせん」
「空き城って……。本丸の守りを固める出城
(でじろ)や砦が空き城って、いったいどういうことですか! それじゃあ、隣国にどうぞ侵略してくださいと言ってるようなものじゃありませんか!」
「しかたなかろう。侍がおらんのじゃ。諸国の牢人
(ろうにん)たちを募ってはおるが、どうも他国の連中が国境に関所でも設けて、通せんぼしておるようでな。那原まで来てくれんのじゃ」
「それに、侍に所領を与えて安堵しようにも、このざまじゃあねえ。誰も信用しませんや。みんな、那原の名前は明日にでもなくなっちまうんじゃねえかと思ってますよ。そんな国に、誰が仕えたいと思いますかい?」
 謀反人の子の自分までをも、はるばる京から呼び寄せた理由がよくわかった。ここまで人手不足ならば、謀反人だろうがなんだろうがこだわってはいられないだろう。
「で、どこを守る、了海? 川向こうの西の丸砦か? あそこは船着き場にあがる物資を守る、重要な砦じゃし――」
「いりませんッ!」
 砦を守るなら、せめて数十人の練達した騎馬武者と、その三倍の足軽が必要だ。大将一人しかいないのに、砦に入っていったい何をしろというのだ。
「城将でも不服か。ならいっそ、陣代になるか? 侍にとっちゃ、最大の名誉じゃろ」
「だから私は侍ではありません! 坊主で……え? 陣代?」
 了海はぴたっと口を閉じた。
 陣代とは領主が戦陣に立てない場合、代わって全軍の指揮を執る総大将のことだ。領国や氏族によって呼び名は違うが、戦における最高司令官である。
「おお、そうじゃ。それが良い。な? 陣代になれば、おぬしが禅林
(ぜんりん)で学んできたことのすべてを役立てることができるぞ」
 はしゃぐ家老をにらみ据え、了海の目がすうっと細く冷たくなった。
 顎をあげ、仏像のような半眼で城代を上から見おろす。
「戦ですか?」
「な、なんのことじゃ? わしゃそんなこと、一言も言っとらんぞ」
「とぼけんでください。戦もないのに陣代が必要なはずはないでしょう。相手は誰です」
「だから、わしは何も……」
「ご城代」
 了海はずい、と城代の目の前に詰め寄った。あと一歩踏み出せば、おでことおでこがゴチン、だ。自分でも、こめかみにぴくぴく青筋が立っているのがわかる。
 至近距離で睨み据えられ、ついに城代も観念した。
「……桑島領の間部玄蕃じゃ」
「桑島――!」
 那原領と西南で国境を接する桑島とは、昔から境界線上に位置する丹羽山
(にわやま)の領有をめぐって何度も衝突を繰り返してきた。隆景の時代に何とか仮の国境線がさだまり、ひとまず落ち着いていたのだが。
 隣国のお家騒動をただ傍観しているようなお人好しは、この乱世では一国一城の主などやっていられない。那原の騒動は、誰の目にも侵略の好機と映っただろう。了海が隣国の領主であっても、同じことをする。
 まして間部玄蕃は、自らの主君を討って桑島領主に成り上がった、典型的な戦国大名だった。
「玄蕃はここ数年で近隣の国人領主たちを次々に討って、版図を拡大し続けておる。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いじゃ。こんなぼろくその此花館なんぞ、ひとたまりもないわ」
「そりゃそうでしょうねえ」
 了海は冷淡に言った。
 たとえ守りの強固な藤ヶ枝城に籠もったところで、物資も兵も足りないのだ。三日も保たずに落城だ。
「なんじゃ、その言いぐさは! せめて口先だけでも、まだ大丈夫ですとか自分が何とか致しますとか、優しいことが言えんのか!」
「愚僧は坊主です。嘘をついたら、閻魔さまに舌を抜かれてしまいます」
 とうとう城代は、ぐすぐすベソをかき始めた。
「なんでこんな冷たいヤツになったんじゃ。聞いてくれ、八郎太。昔はこやつも、そりゃあ愛らしかったんじゃぞ。目がくりっとして、娘っ子みたいに色が白くてのぅ。父親の謀反の咎
(とが)が及んだ時も、幼いながらに覚悟を決めて、それ、そこの庭先じゃ。そこに座ってお屋形さまのお裁きを待っとった。モミジのようなお手々をこう合わせて、念仏を唱えておってのう。恨み言を言うでもなく、逍遙と運命を受け入れようとして……。なんと健気な子じゃと、そりゃもう、館中の人間が泣いて同情したもんじゃ」
「いつの話をなさってんですか、ご城代!」
「それがおまえ、たった十数年でこのザマじゃ。老い先短い年寄りを、頭ごなしに怒鳴りつけるんじゃぞ。鬼みたいな顔しよってからに……」
 ――鬼で悪かったな。
「お話はおすみでしょうか」
 了海は礼儀正しく一礼した。
「愚僧、いまだ修行中の至らぬ身でございますゆえ、これより急ぎ本山に立ち戻り、残る学問を修めてまいります」
「こりゃ待て、幸甚丸!」
「幼名で呼ばんでください! 五つ六つの洟垂れ小僧じゃあるまいし!」
「小僧でも人の道は知っとるもんじゃ! おぬし、それでも坊主か。お屋形さまの恩顧も忘れ、故郷の苦難を見捨てるつもりか!」
「ご恩は忘れておりません。ですから、これより生涯かけて、お屋形さまはじめご一族のみなさまの菩提を弔ってまいります」
 城代の目の前で、思いっきりばッちんと両手を合わせてやった。
「ご城代の菩提も、責任持って愚僧が供養いたします。どうぞご安心ください」
「死んだあとのことを保証されても、うれしくもなんともないわいっ!」
 ――やれやれ。世話の焼ける爺さんだ。
「では、策をひとつ献じさせていただきます」
 城代の表情がぱっと明るくなった。
「策? 桑島を破る秘策か!?」
「間部玄蕃に降伏なさい」
 顔色ひとつ変えず、了海はあっさりと言った。
「主家断絶のゆえに完全降伏、那原領内の城をすべて玄蕃に明け渡すのです。こちらから先に降伏を申し出れば、玄蕃もまさか城兵や領民の命までは奪りますまい。ま、恭順のあかしにご城代が腹でも切れば、完璧です」
「せ、切腹……!」
 城代は今にも白目を剥いて泡を噴きそうになった。
「そんなあ! それじゃあ、おれ等はいったいどうなんですかい!? せっかく侍になれたってのに――!」
 八郎太も情けない声をあげ、すがるように了海を見上げ。
「間部家に仕官するんだな。新参者は信用がないから、最初は戦場の一番危険なところにばかり出されるだろうが、そこで頑張って生きのびて、手柄をたてれば、いずれは主君の信頼も得られて出世もかなうだろうさ」
「どうやらそうはいかないようです、ご陣代」
 低い男の声が、聞こえた。
「誰だ」
 声がした庭先を、了海は注視した。
 つつじの植え込みが揺れ、姿を現したのは若い女だった。
 少し短い髪に派手な笄を飾り、小袖もふくらはぎが見えるほど短く着付けている。すらりと背が高いため、着物の丈が足りないのかもしれない。紅をさしたはなやかな容貌は、男の目を釘付けにして放さない。手には大きな風呂敷包みを提げていた。
「ただ今戻りました。お言いつけどおり、桑島領を見てまいりました」
「おお、鶴か。ご苦労じゃった。又ヱ門はどうした?。さきほど声が聞こえたが」
「はい。もうお館を出ていきましたよ。仲間のところへも報告に行かなきゃならないんでね」
 そのまま彼女はゆっくりと庭の真ん中へ進み出てきた。その足取りはどこか踊るようにかろやかで、揺れる腰つきが男の視線を誘っていた。城代も八郎太もべろんと鼻の下を伸ばして見とれている。
「素破
(すっぱ)か」
「お初にお目もじ致します、ご陣代。鶴ともうします」
「そのご陣代というのは、誰のことだ」
 鶴は無言で了海を指さした。妖艶な笑みを浮かべ、了海がにらんでもまるで怖がる様子もない。
 踊り子や歩き巫女など諸国を放浪して歩く漂泊芸能者が、各地の領主たちに雇われて、芸能活動を隠れ蓑に敵地の実情を調べてくることは往々にしてあった。そのほかにも全国の山々を修行のために踏破する山伏や、伊勢神社の信仰を広める御師なども、その広い行動範囲と組織力ゆえに間諜の役割を果たしていた。
「桑島領は、そりゃあもうえらい騒ぎでしたよ」
 鶴は玉砂利の上に膝をつき、淡々と報告し始めた。
「間部玄蕃は、次々に牢人どもを集めています。どうやら那原を撫斬にするつもりらしゅうございますよ」
「……撫斬――!」
「先だって、那原から逃げた百姓たちが丹羽山を越えようとしたところ、国境付近で桑島の兵に斬られました。男も女も、子供もね。ふつうなら捕まえて奴卑に売りそうなもんなのに。玄蕃は、那原の民はひとりも生かしておく気はないようです」
 了海は一瞬の動揺を押し隠し、鶴をじっと見据えた。
「あら。あたしの報告が信用できませんか?」
「私も那原の国境を越えてきたばかりだ。誰にも呼び止められはしなかったぞ」
 そんな了海に、ふたたび鶴はにっこりと笑いかける。だがその眼は笑っていない。鶴も、了海を値踏みしているようだ。
「ご陣代はどっちの方角からいらしたんです? もしかして、東の街道を回ってきたんじゃありません?」
「ああ、東だ。春川
(はるかわ)領を抜けて、斎川の、三室(みむろ)の渡しを通ってきた」
 那原、桑島、春川の三国は、北に那原、南西に桑島、南東に春川と、ちょうど三つどもえのような形でそれぞれ国境を接している。長い間、三国は力のバランスがとれ、時折国境付近で小競り合いが起きるくらいだったが、ここ数年で桑島が急激に力を増し、同時に那原はお家騒動などで国力が衰退した。三国の均衡は崩れつつあるのだ。
「やっぱりね。聞いてますよ。東の街道を、若い坊さんが馬に乗って、血相変えてすっ飛んでいったって。それがご陣代のことだったんですねえ」
 この素破、見かけだけではない。了海は内心、警戒を強めた。思ったよりもずっと広い情報網を持っているようだ。
「そうか。私は桑島領を通らずに来たから、間部の兵に出くわさなかったというのだな」
 鶴はご名答、というようににっこり笑ってうなずいた。
「桑島の東雲城
(しののめじょう)にも、ご陣代のことはもう報告されてますよ。此花館では当主の頓死を隠すために、今さらどっかの寺からご祈祷の坊主を呼びつけたってね」
「ふん。それなら別に、それでかまわんさ」
 敵が、こちらがまだあたふたして、領主の急死にまともな対応もできないのだと思っていてくれれば、その分、油断も生まれる。こちらにとっては好都合だ。その隙に自分たちは戦支度を整えられる。
 いやむしろ、向こうの誤りを逆手にとって、こちらから偽情報を流せば……。
 そこまで思考を巡らせ、了海ははっと気づいた。
 ――なにを考えてるんだ、俺は。これじゃまるで、作戦を練っている軍師、陣代そのものじゃないか!
「でも、その坊主が実は新しい陣代だってばれるのも、時間の問題でしょうねえ。この那原領にだって、桑島やら春川やらの間諜は、山ほど入り込んでるはずですから」
「だから私は陣代じゃないっ!」
 鶴の報告によれば、桑島の兵が展開しているのは、西南の国境だけのようだ。
 那原の農民が大量の難民となって、封鎖されていない東の国境を越えて春川領に流入すれば、この秋冬は戦と無縁でいられた春川領も混乱する。治安は悪くなり、食料も不足するだろう。間部玄蕃はそこまで見越して、那原を追いつめようとしているのだろうか。
「桑島の兵がいるのは丹羽山だと言ったな。……丹羽山は、茂庭川の源だ」
 了海はふとつぶやいた。
「そうか。読めてきたぞ――」





BACK    CONTENTS    NEXT
【 カチガラス・2 】
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送